前回で3D点群編の導入が終了しました。今回から、その最初の応用分野として、「建築」や「地図測量」系分野での3D点群の応用をとりあげます。

建物や、街並み全体、山の地形、プラント、室内などを、工事・設計などの目的で3D点群化し、その後そのデータをさまざまな目的での解析に用いる話を紹介していきます。

導入の「第80回」でも述べたように、3D点群編では、3D点群データそのものを計測・解析対象とするコンピュータビジョン(および関連する分野)での応用を紹介していきます(ちなみに、建築系の話の次は、マシンビジョン系の話を展開する予定です)。

まず最初に、この分野ではどのような3Dスキャナを用いてどういった対象を3D撮影するかについて、およびその活用したい場面の全体像について、紹介していきます。その紹介が終わって以降は、建築や地図測量界隈では、撮影した広範囲の3D点群がどのような解析処理やソフトウェアを通じて活用されるのかを紹介していきます。これに関しては「点群処理」という枠組みなので建築関連の応用を本連載で取り上げていくものの、CADや物理シミュレーションなどの話も関連してくるので、コンピュータビジョン以外の話も多く関連した話をしていくことになります。また、点群のコンピュータビジョン的な処理アルゴリズム群(位置合わせや、フィルタリングなど)が、どのように活きるかについても、当然ながら紹介したいと思います。今後の点群編の各応用の紹介では、「ビジョン以外まで取り上げるのは拡大解釈だ」というよりは、「技術的分野の境界なんてあってないようなもの」と捉えていただけると幸いです。実際3D点群は、実世界の物や環境をそのまま3Dで捉えられるので、機械や車、ロボットにスマートフォンなどの「動けるもの」と密接に連携していくこととなります。

LIDARによる高精度な広域の建築物3Dスキャン

建築分野では、「広い空間をまるごと3D点群スキャンしデータ化する」ことが点群データ活用の一番の目的です。その場の環境の3D形状を、まさに「3D地図」として取得し、その点群データを、デザイン、工事、補修や、地図作成の目的などで使用したい、というのが、建築や地図測量などは動機となります。また、土木よりになると、地形全体を3D化しておくと道路の設計計画や、土の掘削計画など、3D地形そのものをどう変化させていくかの設計を行う為の元データとして活用することもできます。

こうした目的では「LIDAR方式のレーザーセンサー」がセンサーとしてよく用いられます。以下の動画は、解説の音声は英語なのですが、映像を見ていただくだけでも、LIDAR式センサーの計測方式と、取得できる点群データの様子が、視覚的にわかると思います(筆者が光学測量そのものの技術に強いわけではないので、LIDARの計測原理そのものの解説は割愛させていただきます)。

3D LiDAR Technology

LIDARではレーザーを対象に照射して反射したものを計測することで、誤差数mm程度の非常に精度の高い点群データを数10mの範囲で撮影することができます。1回の計測では1束のレーザー光線で、1点ずつ行うので、このレーザーを照射する角度をx,y,z方向に少しずつ(モーターなどで)回転させて何点も計測していくことにより、最終的に周囲全体の3D点群化がなされます(この後紹介するFAROの動画に、そのレーザーを回転させるイメージがあります)。また隣のカメラでRGB画像を同時に撮影しておくことで、色つきの点群としてもデータ化することができます(注:LIDARによる3D計測にはカメラや画像を使用していないので、コンピュータビジョンの範疇外の技術ですが、撮影した点群の処理はコンピュータビジョンの対象ではあります。のちにソナーでの撮影の話もしますが、広範囲の3D点群データは、カメラベース以外の技術で取得するセンサーの種類も多いのが特徴です)。

また、以下の動画は、そのような大規模のプラントや建築物に対して広範囲の3Dスキャンを行う製品の代表例である、「FARO」社の3Dスキャナの動画です。

Product Video FARO Focus 3D Laser Scanner

3D計測点群+画像撮影したカラーデータにより、広範囲の3D点群が3D地図のように手に入ります。各場所で個別に撮影された点群は、それぞれの空間的関係性がないのですが、ソフトウェア上で「レジストレーション(位置合わせ)」という処理を適用することで、それらの点群をひとつのものとして位置合わせされた綺麗な点群にすることができます(こちらの動画の後半にレジストレーショの話があります)。以降、この位置合わせ済みの点群を単純に保存しておいて閲覧したり、寸法をソフトウェア上で測ったり、解析を行ったりしていきます。位置合わせのような後処理を行っていることでもわかるように、今紹介している広い環境の3Dスキャンは(後処理にやや時間がかかろうとも)精度や密度の高い3Dマップをきちんと計測する性質や目的のものです。(後ほど、リアルタイムで周辺3D計測を行うLIDARセンサーについても触れます)。

林 昌希(はやし まさき)

慶應義塾大学大学院 理工学研究科、博士課程。
チームスポーツ映像解析プロジェクトにおいて、動画からの選手の姿勢の推定、およびその姿勢情報を用いた選手の行動認識の研究に取り組み中。(所属研究室が得意とする)コンピュータビジョン技術によって、人間の振る舞いや属性を機械学習・パターン認識により計算機で理解する「ヒューマンセンシング技術」全般に明るい。技術商社でエンジニアをしていたこともあり、海外のIT事情にも詳しい

一方、デプスセンサ等で撮影した実世界の3D点群データの活用を推進するための「Point Cloud コンソーシアム」での活動など、3Dコンピュータビジョンのビジネスでの普及にも力を入れている。また、有料メルマガ「DERiVE メルマガ 別館」では、コンピュータビジョン・機械学習の初~中級者のエンジニア向けの、他人と大きな差がつく情報やアイデアを発信中(メルマガでは、わかりやすい理論や使いどころの解説込みの、OpenCVの初心者向け連載なども展開中)。

翻訳書に「コンピュータビジョン アルゴリズムと応用 (3章前半担当)」。