RGB-Dセンサーで部屋の全体3D形状をカラーテクスチャ付きで撮影:Matterport

次に紹介するのはMatterportです。アントレプレナー事情に詳しい方ならご存知の、有名な起業塾「Y combinator」の卒業生でもある、カリフォルニアマウンテンビューにある会社がMatterportです(MatterportもOccipitalのStructure Sensorと同じくまだサービス開始前の状態で、米国ではちょうどこの2014年1月から出荷が開始されます)。

Matterportの製品はXtionを複数台組み合わせた専用のセンサーを用いて室内のあらゆるところを3D計測し、最終的にそれらの3Dデータを自動で「ひとつの統合された3Dモデル」へと合成してくれるという室内3D化センサー+アプリケーションです。XtionのようなRGB-Dセンサーで撮影した元データは点群データであり離散的なデータですが、Matterportで合成後のデータは面が貼られてメッシュ化されたデータに変換されます。穴が無く閉じたメッシュデータを生成してくれる事は、単純に見栄えが奇麗になる利点もありますが、コンピュータグラフィックスやCADモデル作成のソフトウェアへの入力データとしても使いやすくなる利点もあります。そして、合成後のデータをクラウドにアップロードして、専用のiPadアプリで表示し、データを共有することもできるようになるようです。

MatterportのセンサーとiPadのビューア

以下の動画は、Matterportのサイトにも展示されている3Dモデル例の動画です。

これらの動画のように、Matterportは部屋全体の3Dモデルを生成することができます。スキャナーで部分ごとに撮影した断片的なデータを、その形の類似性による対応関係から自動的に位置合わせすることを、専門用語では「レジストレーション」と言います。Matterportの場合、かなり大規模なレジストレーションが実用化されているわけですが、それによって「部屋全体の3D表面データの取得」という価値が産まれているわけです。

また、Matterportからは、以下の動画で紹介されている「Office Design Studio」という、部屋のインテリア変化シミュレーションのアプリも提供されるもようです。

これまで建築や室内インテリアのデザインは、3D的に行うにしてもCGやCADデータ作成を元にした仮想的な3Dモデルが中心でした。それがMatterportの登場により部屋全体の完全な3Dデータ化が可能となるので、建築インテリアデザインの現場の様子も今後3Dデータを活用したものに変わってくるのではないでしょうか。

Floored:部屋全体の3次元データから、幾何的情報も加えた奇麗な屋内3Dモデルを生成

最後に紹介するのが不動産向けのフロアプラン用アプリを提供する予定の、ニューヨークに会社を構える「Floored」というベンチャーです。3Dスキャナーで撮影した屋内の3Dデータから半自動的にきれいな屋内3Dモデルを生成し、その作成した3Dモデルの空間に様々な家具を配置してシミュレーションしたり、その3Dモデル内を探索できるというサービスです。

Flooredは起業コンペで有名になった会社です。以下、その決勝大会でのFlooredのプレゼンテーション動画です。

Floored | Disrupt NY 2013 Startup Battlefield Finals

この動画では、まだ入居者のいないビル(撮影場所はOne World Trade Center)の広いフロアをMatterportで3Dスキャンしたデータを作成し、更にその元データをFlooredのアプリケーションによりきれいな3Dモデルに変換した結果を見る事ができます(注:Flooredはこの当時はKinectベースのMatterportを用いて3Dスキャンを行っていましたが、現在はより広範囲を撮影できて屋外のスキャンも可能なレーザーセンサーを用いています)。屋内の3Dデータだと、「壁」「天井」「床」さえアルゴリズム的に自動検出してしまえば、その他の場所にあるノイズデータは、領域を指定すれば全て自動的に取り除けるので、このような壁・天井・床のみがきれいなCGモデルに変換されたデータを自動的に作成できるわけです(注:このアルゴリズムはあくまで筆者の憶測です)。

また、Flooredではこの作成したモデル内に自由に色々な家具の3Dモデルを配置してその配置を代えたフロアプランをインタラクティブな操作で試すことができます。このようにしてFlooredを用いると従来ではCADソフトでCGデザイナーさんが時間をかけて作ったような3Dモデルを、3Dスキャンを元に短時間で作詞し、建築会社や設計者あたりがお客様にこのモデルを共有することができるようになります。

筆者が言うまでもなく、「3次元データ」で行われていることがポイントです。3Dスキャンした実測データを元にしているので、例えば「どこに自動販売機を置くだけのスペースがあるか」といったことを、3データの実スケールを用いて確認できるようになっているわけです。

以下の公式サイト中の「Portfolio」から、Flooredで作成したデモ用の家具配置済み屋内3DモデルをWebブラウザ上で探索することができます。

http://floored.com/portfolio/

マウスで重ねた場所をクリックするとその場所周辺を映す感じでカメラが移動してくれるというインタフェースで、PCからも(マウス操作で)軽快に3Dモデル内を探索できます。3Dモデル内を探索された方はわかると思いますが、元データが3Dスキャンしたものだとは思えないくらい、CG職人さんが作り込んだような屋内3Dモデルになっていることがわかると思います。また屋外の表示は写真ベースですが、これらもスティッチングにより位置合わせされており、視点に合わせてもっともらしく表示されるので、3Dモデルの現実感の高さを引き立てています。

これまでは「家探し」というと、アパートの空き部屋で何も無い状態の部屋を撮影した写真くらいしか様子しか現地を可視化された情報がありませんでした。Flooredが狙うのは、これの3Dによる差し替えです。また、屋内の地図情報というものはインターネット上のみならず、企業が提供するサービスとしてもこれまではほとんど存在しなかったわけですが、MatterportやFlooredのような3Dスキャンニング+マッピングの技術の普及が進めば、屋外でのGoogle Mapのように屋内での地図情報が3Dマップで確認できる建物が増えていくのではないでしょうか。

まとめ

以上、今回はRGB-Dセンサーを用いた3Dコンピュータビジョンの応用を狙う新興ベンチャーで注目の企業として、OccipitalのStructure Sensor、Matterport、Flooredを紹介しました。Kinectなどの大衆向けデプスセンサーは、まだ市場に登場してから日は浅いですが、3Dスキャンが広まることで産まれる実用性が今回紹介した例で理解していただけたのであれば幸いです。