第4回、第5回では、災害対策について押さえておくべきポイントを2回に分けて説明しました。ポイントを簡単にまとめると、以下の4点になります。

  1. 業務アプリを復旧させるに足りるデータの整合性があること
  2. 復旧手順が単純で緊急時でも容易かつ確実に実施可能なこと、または自動復旧できること
  3. 業務が複数の業務アプリで稼働している場合、正しい順番で業務アプリ(システム)を復旧稼働させること
  4. 災害時に業務が復旧できることを定期的に確認できること(災害訓練)

これらを実現するには、データの整合性を確保できるバックアップが重要であり、さらに災害時にあらかじめ設定しておいた順番で各システムの起動をコントロールする統合型DR(Disaster Recovery)制御ソリューションが有効であると説明しました。

さて、これまで本連載では「ハイブリッドクラウド時代のデータ保護」について説明してきましたが、今回はまとめとして未来型データ保護の在り方について説明したいと思います。

「データ保護=保険」というイメージを覆すアプローチ

データの保護ソリューションはデータが破損した場合に初めて活用される保険のような役割として価値のある働きをします。その反面、データ破損などの障害が発生しない場合は無駄な投資として見られがちです。

そのため、データ保護はよく保険にたとえられます。「いざとなった時に困らないために行う事前の策」という意味でそのように言われるのだろうと思いますが、もちろん保険料はただではなくコストが発生します。

「いざとなった時」の「いざ」が発生しない場合、保険料は無駄になってしまいます。「何も起きないんだったら、保険なんか入らなければよかったかな?」などど後悔するかもしれません。

保険会社はそのようなニーズにこたえるために、いわゆる掛け捨て型ではない、満期になった場合にお金が返ってくる年金型や、複数の事案に対応するための複合型保険を用意しています。では、ITにおけるデータ保護はどうでしょうか。

網羅的でありながら、高速かつシンプルにデータ保護が行えるいわゆるエンタープライズ用のデータ保護ソリューションは決してお安いものではありません。論理的データ破損に対して確実に迅速にデータを復旧することで、ビジネスの停止や破たんのリスクを回避可能にしていますが、運良くデータ破損が発生しなかった場合は無駄な投資と考えられてしまいがちです。

そこで昨今、「バックアップデータをデータ保護だけではなく他の用途に活用できないだろうか」という検討が始まっています。

具体的には、バックアップデータにはそもそも失ってはならないはずの重要なデータが詰まっているため、それらを有効に活用することでバックアップを前向きな投資に転じるアプローチが検討されています。

本連載では、既に開始されているアプローチとして、「全データセンターのデータを見える化」と「複製データ管理とバックアップのデータ共用連携」を紹介します。

バックアップを前向きな投資に転じるアプローチ

全データセンターのデータの見える化によるメリットとは?

データセンターのデータは増加の一途をたどり、不要なデータがサーバやストレージのリソースを無駄に費やしてコストを圧迫し始めています。また、コンプライアンスの観点からサーバ上にあってはならない著作権に抵触するようなデータも存在する可能性があります。それらのデータを見える化することで、以下のような利点が得られます。

不要なデータ削除/低コストストレージへの移動:ストレージコストの抑制

ある調査会社のレポートによると、データセンターのデータは毎年1.5倍の速度で増加を続けています。例えば、オーナーが不明でかつ5年以上アクセスされていないデータを不要なデータであると定義した場合、それらを高価なプライマリストレージに置いておくことはコストを圧迫する要因となります。

そこで、これらのデータを割り切って削除するか、削除するのがためらわれるとしてAmazon S3などの安価なクラウドストレージに移動するかは企業の考え方や選択になりますが、いずれにしてもプライマリコストの抑制に寄与します。

本稿執筆時点で実在するソリューションで行えることは、バックアップデータからプライマリデータを見える化するところまでで、削除や移動は手動となりますが、近い将来、自動削除や自動移動の連動が実現されそうです。

あってはならないデータの削除:コンプライアンスの遵守

コンプライアンスの観点からデータセンターにあってはならないデータには、著作権に抵触しうる動画データや音楽データ、業務上禁止されているゲームデータがあります。また、Exchangeを電子メールlに使用している際は、PSTファイルをローカルやNAS上に保存してはいけない規則を設けている場合もあるでしょう。

このように、保存されていてはならないデータを見える化することで所有者に確認することが可能になり、確認の上、消去すべきデータであれば消去が行えるようになります。

先に挙げたデータはあくまで例であり、業種によっては動画、音楽データ、ゲームデータなどそのものを業務に必要なデータとして扱う場合もあるため、企業ごとに独自のポリシーを精査して運用を行うことが重要です。

データの見える化は不要なデータの削除や移動だけでなく、どの場所のどのサーバがどのようなデータをどれだけ保存していて、どの程度増加しているかを見極める助けになり、今後の投資計画を立てる基礎データにもなります。

さて、もう1つのバックアップを前向きな投資に転じるアプローチである「複製データ管理とバックアップのデータ共用連携」については、次回に説明することにします。

勝野 雅巳(かつの まさみ)

ベリタステクノロジーズ合同会社

テクノロジーセールス&サービス統括本部

バックアップ & リカバリーアーキテクト


1989年に日商エレクトロニクス株式会社に入社。UNIXによるメインフレーム端末エミュレータ、E-mail専用アプライアンス、NAS製品、バックアップ製品の保守、デリバリー、プリセールスSEを歴任。その後2001年EMCジャパン株式会社にバックアップソリューション担当SEとして入社。 2013年、株式会社シマンテックにバックアップソリューション担当SEとして入社。2015年、株式会社シマンテックからベリタステクノロジーズ合同会社の分社に伴い、現職となる。

IT系商社時代から約20年にわたり、データ保護の専門家として業種の如何を問わず、提案活動を通してお客様のデータ保護に関する課題を数多く解決してきた。現在は提案活動と併せて、豊富な経験をもとにセミナーなどにおける講演活動やメディアへの記事執筆を行い、社内外にデータ保護のあるべき姿について啓発を続けている。趣味はテニス。