ITの歴史をざっと振り返る - メインフレーム、そろばんのアシスト、パンチカード…

経営者、IT組織、利用部門のそれぞれの関係において、少なからず溝が存在することを、以前説明したが、今やITなしで生活できないし、ITなしでこの世は動いていない。

ITの定義や歴史の解釈はいろいろあるが、初期のころのコンピュータとしては、ペンシルバニア大学で作られ弾道計算を行ったと言われるENIACがある。内部では10進法を使っていたので正確には現在のコンピュータとは違うという説もあるが、いずれにせよ今から60年以上も前のことである。

本格的なコンピュータの普及は、1960年代後半から出たメインフレームと呼ばれるIBMのSystem/360という汎用コンピュータの登場と、黎明期の用途である先進企業内での利用である。航空機のチケットと同じくらいの大きさの80欄のパンチカードにデータやプログラムを穿孔し、カードリーダーで読ませるというやり方で、給与計算、伝票の仕分けなどに使われて来た。ものすごく大量のカードを「えいやっ」と抱えて、ジャムらない(カードが途中で挟まったりしないように)ために、曲芸師のようにカードをさばく先輩の姿を憧れながら見たものだ。

当時はパーソナルコンピュータも存在しないし、現在のExcelのようなスプレッドシートも存在しない。コンピュータの主記憶のメモリも256Kバイトとか、今思えばおそろしく小型の計算機であった。私が入社時に配属された経理部においては、毎朝そろばんの練習をしていたし、スプレッドシートの紙版の罫表に数値を書き込んで、そろばんで縦横計算をしていたことが常であったこと。そろばんが苦手だった私にとっては、コンピュータは便利なものだと感じた。

その次に出てきたのは端末であった。オンライン処理やタイムシェアリングシステムに使える端末である。これまでのパンチカードの入力とラインプリンタによる紙の結果のみであったものから、回線を通じて事務所で、リアルタイムに出力される結果がみれるのは画期的であった。プログラムもパンチカードを使わずに1行ずつではあるが、ラインエディタで修正することができた。生産性は倍増した。

記録媒体も磁気テープから、ランダムに処理でき、かつ大量な情報を記憶できる磁気ディスクが登場した。タライぐらいのサイズで100Mバイトそこそこだったが、当時の感覚では非常に多くの情報を格納できた。磁気テープだと扱えるのがせいぜい1カ月分のデータであったところを、何カ月分かのデータをデータベースに蓄積し、自由に使っていける。これも画期的だった。

便利なツールにも、脅威にもなるIT

昔のコンピュータの話が何の意味を持つのか、疑問に思われた方も少なくないだろう。

しかし、実はこれらのことは、コンピュータによる便利さの特性を端的に表している。1つめは大量の情報を元に計算、演算などを可能にしていること、2つめは回線などを通じて、場所にとらわれず情報収集/利用が可能なこと、3つめにリアルタイムに処理結果を得ることが可能なことである。

言い換えると、大量の情報処理が時間と空間にとらわれず可能になるのがITの特性だといえる。インターネットであっても、道路交通情報を把握できるVICSであっても、コンビニの商品補充、配送システムであっても、すべてこのITの特性を最大限に活用している。外見や処理できる情報量が劇的に増えたとはいえ、この特性そのものはIT社会の始まりのころからまったく変わっていないと思う。

その後に出現したパーソナルコンピュータは、このITの世界を、企業だけのものから個人レベルまで広げた。それを可能にしたのは、ユーザインタフェースの劇的な変化である。過去、企業の中にあったITは、専門家がいなければまったく使えなかった。専門家の作成したプログラムを通じてしか情報が取り出せず、取り出した情報の加工もできなかった。これに対しパーソナルコンピュータは、1台ずつ画面を持ち、マウスやキーボードを使えば、専門家がいなくとも情報の取り扱いが可能となる画期的なインフラを提供してくれた。マニュアルを読めない幼稚園児ですら、パソコンでお絵描きをしたり、音を出したりして遊んでいる。

こうして我々はITという道具を自由に操れるようになってきた。「ITは嫌いだ」「私はアナログ人間」という人がいても、結局、このように社会の隅々まで普及発展しているITの上で生活している事実がある。嫌いだろうと、アナログ志向だろうと、決して避けては通れないのだ。

余談だが、近代の戦争では相手の戦力を削ぐために、核爆弾で施設を破壊するよりも、相手の神経を麻痺させる方が有効であると言われている。現在、すべての装置にコンピュータが入っており、また交通網をはじめ、すべてのインフラはコンピュータで制御されている。ここに、高々度であっても核爆発を起こすと、強力な電磁波が生じ、広範囲に降り注ぐ電磁波が、コンピュータの機能を停止させてしまう。特にハイテク機器が集積している大都市に対しては、与えるダメージは甚大であり、長期にわたって経済活動が麻痺してしまうことになる。IT社会に対しては、こういう戦争が近代戦として考えられている。このくらいITは普及していると言える。

ITは単なるツールだ。ただし、このツールを使わない手はない。経営者はIT組織と協調して、ITの特性を生かしたシステム化を行ってほしい。

今から30年くらい前は紙テープやパンチカードが最高峰のITソリューションだった!? 子ども向けテレビ番組にもこんなシーンがあったが、本気で「すげえなあ」と思ったものである……

執筆者プロフィール

中村 誠 NAKAMURA Makoto
日立コンサルティング シニアディレクター。 情報システム部門での開発/運用の実務経験、データベース、ネットワーク、PC等の導入、会社全体の情報システム基盤設計経験を通じたITに関するコンサルティングが得意分野。