まったくゼロの状態からDXを推進していくためには、ソフトウェアメーカーやSIerなどのベンダーに支援してもらうことが大切です。一方で、日々変わる業務プロセスや業務課題に対応していくためには社内で内製できる業務改善の担当者を立て、スピード感をもって対応していくことも重要です。また、支援を依頼するベンダーをどこにするのかを見極めるためにも担当者選びは重要です。社内にしっかりとした担当者がいないとベンター選びにも失敗する可能性が高くなり、結果IT化に失敗してしまいます。

そこで、今回はIT化を成功させるためには社内でどのようなチーム作りが必要かということをお伝えします。

ベンダーに丸投げしてはいけない

システム導入を検討する際に「ITは難しくてよくわからない」といった理由でベンダーに丸投げをしてしまうケースを見かけますが、これは絶対にやめましょう。

ベンダーはITのプロであり、自社サービスの活用ノウハウも豊富に持っていますが、ユーザーとなる会社の業務についてはわかりません。会社でどのような人がどのような業務を行っているのかを把握できなければ、その会社が抱えている業務課題が分かりませんので、最適な課題解決案は出せないのです。そして、そのベンダーに自社の業務内容や抱えている課題を説明する役割を担うのが社内の業務改善担当者になるのです。

ITに詳しいからという理由で選んではいけない

業務改善担当者を選ぶ際に「IT化を進めるのだから、ITに詳しい人でなければいけない」と考えてしまいがちですが、これは誤解です。

IT化の目的は社内の業務課題を解決することであって、DX・業務改善を進めるための「手段」です。いくらITに詳しくても「目的」である業務課題を解決する力がなければ担当者としてはふさわしくありません。なので、ITに詳しくなくても、ITとは無縁の現場で働いている社員でも、優秀な業務改善担当者として活躍できる可能性は十分にあります。

丸業務改善担当者として不可欠な3つの要素

ITに関する知識は重要ではないとすると、どのような要素を持っている社員が担当者としてふさわしいでしょうか。私が思う要素は次の3つです。

 ・顧客目線を持っている
 ・IT化に対する熱量を持っている
 ・失敗を恐れない

社内の業務課題の解決は結果としてお客様や取引先にとっての課題に対しての解決になることがあります。例えば、「注文から納品までの時間がかかる」といった不満がお客様から出ていたとします。この課題を分析していくと「注文処理を手作業で処理していた」という原因が分かり、そこをIT化で解決することができれば、社内の発注業務の改善だけでなくお客様としても注文から納品までのリードタイムが短くなり、それが顧客満足度アップにも繋がっていきます。業務改善担当者は顧客目線を持ち、お客様が何を求めているのか、どこに課題を抱えているのかという視点で社内の業務課題を分析することで改善ポイントを的確に見つけることができるようになります。

2つ目の要素はIT化に取り組む熱量があることです。 IT化を進めていく際には2つの力が必要です。システム導入時に必要となる短距離型の力とシステム運用時に必要となる長距離型の力です。

システム導入時は業務分析から課題の抽出、課題解決のためのシステム選定とシステム開発までを短期間で行うことが重要です。そこには集中して物事を進めていく力が重要となります(短距離型の力)。そして、システムは導入して終わりではなく、導入してからが始まりです。システム運用開始後の効果測定や導入後に出てきた新しい課題の抽出や解決を継続的に実施する必要があり、そこには常に業務課題の解決に取り組んでいく力が重要です(長距離型の力)。

このような短距離型の力を長距離型の力を持ち、維持し続けるためには「自分の会社をよくしていきたい」という強い気持ち=「熱量」をもっていないといけないのです。

最後3つ目の要素は失敗を過度に恐れないことです。

IT化には「こうすれば確実に良くなる」といった絶対的な正解がありません。IT化を検討する際には必ず仮説を立て、仮説に基づいて実行し、失敗した場合は、失敗理由を分析してすぐ、次の仮説に取り組んでいかなければいけません。 課題に対しての解決策を考えることにばかり時間を使っていると、解決先が決まった頃にはすでに業務の内容が変わっていて、また、解決策を考えなければいけない……といった事が起こり、いつまで経っても実行に移すことができなくなります。そうならないためにも仮説を立てたら「まずはやってみよう。ダメなら次の方法を考えれば良い」と割り切り、すぐに実行することができる「失敗を恐れない」気持ちを持つことが重要です。

そして、もう一つ重要なのは、経営者が失敗を許容する姿勢を社内に浸透させることです。いくら失敗を恐れないマインドを持っていても会社側が失敗を許容する姿勢を示していなければ、挑戦する社員は現れません。

IT化を成功させるためには、適切な要素を持ち合わせた業務改善担当者を選ぶことがとても重要です。しかし、それだけでは成功はしません。業務改善担当者を選ぶ経営者もまた、熱量を持って取り組む姿勢を社内に示す必要があり、それは経営者がやらなければいけない仕事です。そして、究極的には社員全員参加でやることが大事なのです。

著者・四宮 靖隆(しのみや・やすたか)

株式会社 ジョイゾー 代表取締役社長

1976年生まれ。1999年、新卒でシステム開発会社に入社。社内インフラ業務に従事し、基礎知識を得た後、2003年に独立系SIerに転職。インフラの知識を活かしてサイボウズ社『ガルーン』の構築や移行の案件に多く携わる。その後、個人事業主を経て2010年に株式会社ジョイゾーを設立。『kintone』がリリースされた2011年以降は、『kintone』案件をメインビジネスに据え、今日まで成長を続けてきた。『kintone』元エバンジェリスト。著書に「御社にそのシステムは不要です」(あさ出版)がある。