今週の国内株市場ですが、大発会である1月4日の日経平均がいきなり582円安を演じました。中国株市場の急落や、サウジアラビアとイランの国交断絶の報道を嫌気した格好ですが、「申酉騒ぐ」の相場格言を想起させるスタートとなりました。

その急落したこの日の中国株市場ですが、本来の取引終了時刻より約1時間半も早く取引が打ち切られています。これは、中国株市場で今年から導入された「サーキットブレーカー」制度によるものです。中国の主要株価指数であるCSI300指数が上下に5%変動すると、15分間取引が停止され、さらに7%以上変動すると、その日の取引が停止するというものになります。つまり、導入初日に早速サーキットブレーカーが発動したわけです。

「サーキットブレーカー」は導入初日に早速発動された

今年からサーキットブレーカー制度を導入する方針が報じられたのは昨年の12月上旬です。ちょうどその頃は、中国人民元がIMFのSDR(特別引き出し権)の構成通貨に採用されることが決まったタイミングでした。今後、人民元が国際通貨として確固たる地位を築いていくには、人民元の取引をより自由化し、中国の金融制度の改革を進めていく必要があります。改革の進展に伴って、マーケットの値動きが荒くなることも想定されるため、その対策として中国当局はサーキットブレーカー制度の導入を決めた可能性があります。別の見方をすれば、「引続き中国はちゃんと改革を進めていくよ」というアピールもあったと考えられます。

また、中国株市場急落の背景として、この日に発表された財新12月製造業PMIが予想(49.0)を下回る48.2となり、中国の景気減速が警戒されたためとされていますが、このほかにも、年末からの人民元安傾向がとまらないことや、まだ記憶に新しい昨年夏場の中国株急落の際に講じた株価対策が近く打ち切られるのではという観測が高まったことも下げ足を加速させた面もあります。具体的には、上場企業の大株主による株式売却禁止措置が6カ月間という期限付きだったため、時期的に「もうそろそろ」というタイミングでした。

今回の中国株急落とサーキットブレーカー発動を受け、中国当局は早速、人民元安を抑えるために為替市場で人民元買い介入を実施したと思われるほか、大株主の株式売却についても制限を設ける方針を発表しました。サーキットブレーカー制度についても、見直しをするのではという観測が高まっています。さらに昨年規制が解除されたIPO(新規株式上場)も再び制限する可能性もあります。

当初、改革を進める意思表示だったサーキットブレーカー制度の導入ですが、その発動によって、逆に改革が先送りされかねないような印象になっています。改革を「進むに進めない」、規制を「引くに引けない」という足元の中国当局の難しい舵取りが際立った一連の動きと言え、今年も中国の情勢には注意が必要であることをあらためて認識させられます。

執筆者プロフィール : 土信田 雅之

楽天証券経済研究所 シニア・マーケットアナリスト。国際テクニカルアナリスト連盟 認定テクニカルアナリスト。新光証券(現:みずほ証券)、松井証券を経て、2011年10月より、現職。国内株市場の動向はもちろん、世界の株式市場、特に中国経済や中国企業の分析にも強みを持つ。テレビや新聞、雑誌など幅広いメディア媒体で活躍中。