漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。

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今回のテーマは「オンラインイベント」である。

コロナも終息しつつある、かというとそうでもなく、昨日も都心では150人ぐらい感染者が出ていた。

コロナが下火になったというより、人々の意識がコロナをマスクで防ぐのではなく、コロナに罹ったことで文句を言ってくる近所の連中の口を何で物理的に塞ぐか、という攻めの方向に変化してきたということだろう。

よって、普通に旅行や外食を楽しむ人も増えてきたし、人を集めるようなイベントも再開するところは再開しはじめている。

しかし、イベントでクラスターが発生してしまったら、そのイベントはもちろん、業界全体が批判を免れない、というのも事実である。

さらに関係者や同業者から文句を言われるのは仕方がないが、ニュースになるまでそんなイベントがあることすら知らなかった連中からも「やはりあの界隈は民度が低い」などと鬼のキンタマでも獲ったかのような顔で言われてしまうのである。

しかしクラスターを出してしまった以上申し開きはできず、再びイベントを通常開催できる日が遠のいてしまう。

よって、大型イベントはまだ開催をステイし、代わりにオンライン上でのイベントに力を入れている所も多い。

私も先日、自分の漫画の販促イベントをオンラインで行った。

もちろん大型イベントだからというわけではい、むしろ自然にソーシャルディスタンスが保ててしまうぐらいの規模にしかならない。

また、私のイベントに参加する人は何故か全員無口なため、マスクさえいらない説まである。

ただ、大型イベントもヤバいが、ただでさえ読者数の少ない漫画家のイベントでクラスターを出してしまったら「読者が絶滅する」恐れがある。

鬼滅の刃とかだったら、東京ドーム1個分ぐらい減っても屁でもないかもしれないが私の場合、教室レベルでも減るとヤバい。

よって、大型イベントと同じぐらい、極小イベントも今下手を打つわけにはいかないのだ。

本来なら3月にやる予定だったオフラインイベントが、ご存じの通りコロナ直撃だったため「延期」となっていたのだが、すでにコロナが去るのが先か、連載が終わるのが先かというチキンレースになっており、もちろん敗れたこちらが「もう連載が終わらない内に、オンラインでもやってしまおう」という譲歩をすることになった。

オンラインイベントとは、まずグッズのオンライン販売である。これはいつもリアルイベントに参加できない地方の方でもグッズ入手可能になるため、むしろ良いことかもしれない。

実際コロナの影響で、各種イベントがオンライン化したことにより、地方勢はむしろ恩恵を受けていると言っても良い。

そしていつもは対面で行っているサイン会をオンラインミーティングツール「Zoom」を使って行うことにした。

それに対して読者からは難色を示す声が挙がったが、誰よりも顔が難色(青紫)になっていたのは私自身であった。

ネットコミュニケーションは昔から私の得意とするところであり、少なくとも対面のサイン会より難易度が低いではないか、と思うかもしれない。

しかし私の得意とするネットコミュニケーションというのは「相手の顔が見えてない」ことが前提なのだ。

そもそも特定の相手ではなく、ツイッターのつぶやきのように、ワールドワイドウエブという虚空に独り言を言い続けているだけで、実はネット上ですら人とコミュニケーションしていないのである。

例えオンライン越しでも「相手がこっちに視線を向けている」というだけで敷居が高い。

それに、オフのサイン会というのは1人と接する時間が2分ぐらいなのである。

2分というのはコミュ症が辛うじてボロを出さないギリギリの時間であり、それを越えるといらんことを言い出すか、自我の崩壊が始まる。

幸い私の読者は全員サインが済むと、交番の前かというぐらい足早に去って行ってくれる人ばかりで助かっているが、アイドルの握手会のように粘る人間がいたら、私は一塊の泥と化してしまっていただろう。

だがオンラインサイン会というのは自分の番が終わっても、その場に居続けることが出来るため、ずっと見られ続けることになってしまうのだ。

そして正直BBAなため「Zoom」という新しいツールの名前を聞いただけで「使い方を覚えるのが面倒くさい」と思ってしまった。

しかし、実際Zoomサイン会をやってみると、良い点も多かった。

まず物販と同様、オフラインサイン会には参加できない地方勢も気軽に参加できるし、何より「自分が外に出なくて良い」というメリットがあることに気付いた。

顔をマスクやかぶり物で隠すことも可能なので、化粧をする必要も、よそいきの服を着る必要もない。何だったら下半身は何も着ていなくても問題はない。

さらに、かぶり物には視線をカットする効果もある。

多分オフラインの会でずっとグラサンやマスクをかぶってたら、あからさまなスベっている感にその場にいる全員が耐えきれないと思うが、オンラインだと画面越しなため、冷気が相手に伝わりにくい。

つまり慣れればオンラインサイン会はオフの対面よりも、コミュ症に優しいイベントなので、私と同じ理由で難色(青紫)を示した人も次回は参加を検討いただきたい。

参加も、カメラ付きスマホがあれば可能である。

もし自分のアイフォーソでは使えないという場合はまずそれがかまぼこ板や、家の表札でないか調べてみよう。

自分の家の表札なら良いが、他人のだったら気づかれない内に返した方が良い、Zoomをダウソするのはそれからだ