今回のテーマは「モバイルペイメント」である。

最近有名なもので言うと「Apple Pay」らしいが、私のスマホは「Android」なので無関係である。もしかしたら、Androidと思って使っているのは「アソ口イ卜”」なのかもしれないが、とにかくアイフォーンでないのは確かだ。

世の中にはアイフォーンの話をすると突然キレだすAndroid勢がいる、というのは覚えていて損のないアップルユーザー豆知識である。

一文無し(物理)でもスマホ1台で決済

モバイルペイメント:スマートホンなどのモバイル端末を用いた電子決済サービスの総称。専用のアプリにクレジットカードやプリペイドカードの情報を登録して決済を行う方式や、クレジットカード読み取り機をスマートホンに接続し、決済端末として利用する方式がある。従来のカード決済に比べ、導入コストが低く、決済後の入金期間が短いといった特徴がある(コトバンク デジタル大辞泉 「モバイルペイメント」より)

店側からすればスマホ・タブレットのイヤホンジャックに指したカードリーダーを使うカード決済、客側からすればスマホを使った支払い手段が「モバイルペイメント」だ。

自分は手持ちのアソ口イ卜”でも使える楽天Edyユーザーで、これもモバイルペイメントの仲間ではあるらしい。ガラケー時代からある楽天Edyとオサレな奴らが夢中になっているらしいApple Pay、一体何が違うかというと、楽天Edyなど日本で馴染みのある「おサイフケータイ」サービスでは、まず現金やクレジットカードなどでお金をチャージしてから使うのが基本だが、Apple Payはクレカなどから支払後に引き落とすらしいのだ。

つまり、アイフォーンさえあれば、手持ちの現金はおろかクレカも不携帯、つまり身辺のどこにも金が存在しない状態でも(クレカで後払いなため)、チャージ残高不足を気にせず買い物できるというわけだ。

「田舎しぐさ」と「スマホでSuica」

また、「Apple Pay」はアイフォーンに「Suica」を登録して使えることを売りにしているが、私には必要ない。まず、私の町には「Suica」が使える改札はほぼ存在しないからだ。改札どころか人さえ存在しない駅が普通にある。

なので、今でも上京した際はイチイチ紙の切符を買うという、一目で地方から来たとわかる田舎しぐさをするわけだが、これは東京人と行動をともにする時大きな弊害がある。「Suica」に慣れきった東京人は「切符を買う」という意識がないため、こっちが後ろで切符を買っている間に改札を通ってしまっており、はぐれるのである。

東京人にしてみれば、さっきまで中腰で後ろについてきていた、田舎者の三下奴が振り返ったら消えているわけである。田舎者からすると、「ここここ、この、にしひぐれざと(西日暮里)までの切符はいくらでゲスか?」と東京人に教えを乞おうと思ったら、東京人はもう改札の向こう側なのである。

よって、担当などからは「Suica作れば」とよく言われるのだが、数カ月に1回ぐらいしか使わないものを発行するのは面倒だ。しかし私のアソ口イ卜”にもSuicaが使えるモバイルペイメント機能があれば、颯爽と東京人の前を歩き、改札を通り、そのままはぐれることができる、というわけである。

道具が変わっても人は変わらず

「Apple Pay」のHPを見に行くと「Suica」だけではなく、ありとあらゆる支払がスマホ内、またはスマホをかざすだけでできるようになる、と書いてある。また、複数のクレカを登録して使い分けることも可能だという。ちなみにアソ口イ卜”陣営も昨年、「Android Pay」なる同様のサービスを始めた(中身は今のところ実質楽天Edyと同じらしい)。

これを「便利」と思う人もいるだろうが「恐怖」と感じる者もいるだろう、私は後者だ。

モバイルペイメントが普及すると、ますます「金を使っている」という意識が希薄になる。現金払いというのは確かにスマートではないし、5円玉を4つぐらい出した時のダサさは筆舌に尽くしがたいが、「今存在する金しか使えない、なくなったことを実感できる」という点では実に堅実である。たとえそれが、各種消費者金融をはしごして得たものであっても。

スマホをかざすだけで何でも買えるならかざしまくってしまうだろうし、自己管理ができない人間だと何回かざしていくら使ったかなんて当然覚えてないだろう。あとで請求額を見て、消費者金融におかわりしにいくだけである。

私はこうなるのが嫌でクレカもあまり使わないし、ソシャゲの課金はできるだけグーグルプレイカードを現金で購入していたのだが、これではあまりにも効率が悪いため、先日デビットカードを作った。本当に、課金をするためだけに作った。Suicaはてこでも作らないのに、課金のためなら行動的になるのだ。

デビットカードとはクレジットカードと似たようなものだが、後日請求がくるクレカと違い、ほぼリアルタイムで口座から金が落ちるのが特徴である。これのおかげで、私の口座の履歴には恐ろしく短時間で断続的に金が落ちていく様が記録されるようになった。軽いグロ画像である。

かと言って、それを見て「課金を控えよう」とは思わないのだ。

結局浪費家というのは、どんなツールを与えても浪費するものなのである。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集「ブス図鑑」(2016年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2017年2月21日(火)掲載予定です。