今回のテーマはコグニティブだ。

新年早々しゃらくさいワードだ。これで最後の「ブ」が「ヴ」だったら眉間を打ち抜いている。命拾いしやがったなという話である。

この、オシャレカフェで、でかくて白すぎる四角い皿の中央に3センチぐらい盛られている新種コンニャク料理(ヘルシーがウリ)みたいな「コグニティブ」だが、直訳すると「認知の」の「経験に基づく」で、人工知能に関する言葉らしい。色んな会社が人工知能に手をつけているが、中でもIBMが「コグニティブ推し」らしく、CMやニュースでたびたび聞く「Watson(ワトソン)」もこの会社のものだ。

この時点で大体わかった。カタカナでしゃらくさくしてはいるが、これも「自分で学び考える、人間に近い人工知能」だ。前にも同じような話をしたことがある。では、似たような話なら、前と今回のはどう違うのだという問題が出てくるが、余計難しい話になりそうなので、手の指毛と足の指毛ぐらいの差だと思っておく。

なぜ人工知能は人間をまねるのか

ともかく、何度も同じような話が出てくるぐらいだから、今の人工知能は「より高度に、人間と同じように学習するやつ」が主流のようだ。その話を聞くたびに「人間に似せなくても良くね?」と思う。

まず自分が人間だからだ。人間をまねるという時点で、あんまり賢そうな感じがしない、もしかしたら私は自分のことを人間と思い込んでいるチンパンジーという可能性もあるが、チンパンジーならもうちょっと頭がいいはずである。

前にも書いたが、人間というのは知識がない方が、逆に作れてしまう。それをわざわざ、頭のいい人たちが膨大な費用をかけて開発せんでも、と思うのだ。

しかしここで衝撃の事実が発覚する、なんと「人間の脳というのはすごい」らしい。

私もそれを持っているが(とはいえ自分の脳を見たことないので、もしかしたら持ってないかもしれない)、すげえと思ったことは一度もない。むしろ、日々その愚かさに驚愕する。

しかし人間の脳は「複雑な仕事をこなしながら、必要な情報をいつ、どのくらい保存するか自立的に計算できる究極のコンピューター」(*1)なのだそうだ。全くそんなすごいものを持っている気がしないので、やはり持っていないのだろう。頭にはおがくずでも詰まっているのだと思う。

しかも人間の脳というのは非常に省エネなのだという。同じような働きをコンピューターにさせたら膨大な電力を使うが、脳は大きさもコンパクトな上に25ワット電球よりもエネルギーを使わないのだそうだ。(*2)

こちらとしては、もう少し脳にはエネルギーを使っていただいて、体を動かさずに、頭を使うだけで痩せる、くらいになってほしいが、よく考えたら体以上に頭は使っていないし、逆に体形から頭を使っていないことがバレるようになるので、このままサイレントな動きをしてもらうのが一番なのかもしれない。

人工知能は京都人と会話する

しかし人間の脳が優れていると言っても、原稿を書きながら刀剣乱舞とグラブルを同時進行して、どれもそんなに進まない、みたいなことを平気でやるし、悪いと脳で理解しながらギャンブルにのめりこんだり不倫をしたりと、優秀でない部分も多々ある。そういった部分を踏襲せず、さらに休息などもいらず、省エネな人工知能が生まれればそれはすごいですね、という話だ。

また人間の脳に近いというのは、今までの一辺倒な学習ではなく、知覚、感覚、行動など、様々な角度から情報を収集し判断できるということだ。初対面の人間に対し、ただ「ブスだな」と判断するのではなく、相手の服装、行動、しゃべり方を見て「ガサツでセンスもないブスだ、次会う必要は特にない」というところまで判断してくれるようになるのである。

また人間のように「深く読む」ことも出来るようになったそうだ。従来なら言葉を額面通り受け取っていたが、言葉を発した人間の情報から「こいつはひねくれているので、口ではこう言っているが、真意はこうだ、面倒くさいのでもう会わなくていい」というところまで分析してくれるのだ。つまり、京都人とでも会話できるというわけである。

脳にエラーを起こさせる余計なシステム

人工知能がここまでくるには、相当な時間と費用がかかったはずだ。それを人間は生まれながらに搭載しているのは、やはりすごいことのように思える。

それなのに全然すごいと思えないのは、その優れたシステムに深刻なエラーを引き起こす「感情」といういらんシステムまで搭載されているという点にあるだろう。

それに機能自体は優秀でも、その脳が出した答えが必ずしも合っているとは限らない。「いやよ、いやよも好きのうち」と判断して動いたら逮捕された、みたいなこともままある。

果たして、人工知能が「深い意味まで読んで」出した答えは本当にあっているのだろうか。それぐらい、特に人の機微というのは不可解で理不尽なものがある。

その内、人工知能が逮捕されないか心配だ。

参考文献

1,2:日本経営合理化協会 「次の売れ筋をつかむ術」第29回


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集「ブス図鑑」(2016年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2017年1月17日(火)掲載予定です。