今回のテーマは「O2O2O」である。

見た瞬間、奇声を上げた。わからせる気が微塵もない単語だ。

O2とJKとSM

このIT用語連載を始めてわかったことだが、奴らはとにかく長い用語をアルファベットなどで略称にすればクールだと思っており、それを「O2O2Oがさ」と、さもわかった風に会話に組み込めば、女と出会って4秒で合体できると思っている。そういう世界だ。

奴らが誰かは知らないが、とにかく「O2O2O」はさすがにないと思った。これをパスワードに設定したら「もっと複雑な文字列の組み合わせにしろ」と怒られるはずだ、投げやり過ぎる。

一瞬、酸素の分子式「O2」を並べているのかと思ったが、だとしたら「酸素酸素O」となり、最後のOはなんだという話になる。もしかしたら「酸素酸素Oh!」という感嘆詞なのかもしれない。だが、酸素に感嘆する状況というのは、かなりやばいと思う、死の危険が迫っている。

生死がかかっている時、おそらくITは無力である。だがIT野郎はそんな時でも「急いで人工呼吸と心臓マッサージだ」という指示を「JKとSMなるはやで」と言うのだろう。そして、なるはやで瀕死の人間をJKとSMさせた結果、尊い人命が失われるのである。死にざまとしてはそんなに悪いものではないかもしれないが、ともかく略語も大概にしておけよ、という話である。

クーポンを財布に埋もれさせないための技術

話を元に戻すが、「O2O2O」が何の略称かと言うと「オンエアー・ツー・オンライン・ツー・オフライン」である。略したくなる気持ちも何となくわかる、無駄が多い言葉だ。

元々、顧客をネットから実店舗へ誘導する仕組みを指す「O2O」(オンライン・ツー・オフライン)という言葉があり、「O2O2O」はその進化型のようだ。「ネットから実店舗へ」というのは、例えばネットでクーポン券を発券し、店舗でそのクーポンの画像をスマホに表示し、見せるだけで割引が受けられる等のサービスを指すのだろうと思う。

「O2O2O」はその中でもテレビを使った「O2O」を指す。具体的には、クイズ 番組だったら視聴者もそのクイズにスマホなどで答え、当たればクーポン券などがスマホに配信されるという仕組みだ。

しかし、クーポンをもらったからと言って、わざわざ店舗に行くだろうか。そもそもクーポン券などと言う物は紙でもらってもそうは使わず、使用期限を半年過ぎたものが財布から発掘されるなんてこともザラである。

「O2O2O」をやる側もそこは分かっているようで、スマホに発送されたクーポンが使える店舗の近くに行くと、プッシュ通知を出してくれる、という仕組みも考えているらしい。確かにクーポンを使いにわざわざ店に出向くことはなくても、近くに来ていれば行ってみようという気にもなるし、それがコンビニだったりしたら余計な物まで買うに決まっている。とても良くできた仕組みだ。

ただ、欠点をあげるとしたら「地方無視問題」というのがある。例えば「スタバのクーポン券をあげます」と言われても、私の家から最寄りのスタバまで車で1時間かかるため、全然いらない。ファッション誌を読んでも、そこに出てくる服を売っている店舗が一切ないのと同じ現象である。

使えないものをもらえる企画に参加する者はいないだろうし、そういう者にとっては番組途中に「O2O2O」の説明が入るだけで苛立つだろう。ゲームでやる予定のない友達通信の説明を勝手にされるぐらいの屈辱であり、最悪チャンネルを変えるか、テレビを爆破する。

よって、「O2O2O」はいかに万人が欲しいと思うものを特典として設定するかがポイントになると思う。「鉄道模型が当たる!」とかではダメなのである。

O2O2Oでは追いつけない存在

また、オムニチャネルの時にも言ったが、売る側が顧客を逃すまいとどれだけ周到に考えた作戦でも、それを見事にぶっ壊す「せっかち野郎」がここでも登場する。

せっかち野郎にとっては、家の外にある店で使えるクーポンをやると言われるのは、5億年後に使えるものをやると言われたに等しく、それこそ、もらって4秒で使えるものでなければいらないのだ。

それに関してはソシャゲ界隈の方が1歩先んじており、「このツイートが〇〇RTされたら、ガチャが回せる石を全員にプレゼント」という参加型キャンペーンをよく打っている。それならもらってすぐに使う(ガチャを回す)ことが出来るし、ガチャというのは一度回すと際限なく回したくなってしまう人間が少なからず存在するため、その無料ガチャが呼び水となり、ジャブジャブ課金ガチャを回してくれるのだ。

もちろん、ガチャを回すのに、テレビ番組を見てから店舗に行って云々などという手間はいらない。全てスマホ内でカタがつき、ものの数分で大金を失うことができる 。これには、さすがのせっかち野郎も大満足であろう。

若者の消費離れの根源とは

つまり「O2O2O」も、このコラムにたびたび出てくる「いかに客の財布からクレカを出させるか法」の一種であることがわかった。このように消費者がスピーディに金を失える方法は日々進化しているわけだが、一番の問題は金をスピーディに得る方法が全く確立出来ていないことではないだろうか。

「若者の消費離れ」などとよく言うが、それは「若者の収入離れ」から来ていると思う。ないものを出させる方法ばかり考えても仕方ないのではとも思うし、ないものを出させた結果は「多重債務問題」など、他人の不幸ソムリエである私の一番の大好物へと発展していくのである。

人は金があれば使うだろうし、面倒な客である「せっかち野郎」だって、金さえあれば「しゃらくせえから、今ある奴全部くれ」みたいな優良顧客になるはずだ。

よって、「いかに客の財布からクレカを出させるか法」を発展させるのにまず必要なのは、何の理由もなく与えられる2兆円(非課税)である。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2016年8月23日(火)掲載予定です。