今回のテーマは「花粉症、あるいはアレルギーについて」である。

私は花粉症ではないし、今年もどうやらセーフのようである。だが、もちろんいつ発症するかはわからない。これに関してはもう運であり、かかった暁には顔中の穴から液体を流しつつ「スギ花粉(ハードラック)と踊(ダンス)っちまった」という他ない。

そして、花粉症以外にもこれと言ったアレルギーは持っていない。そう言った意味では恵まれて生まれてきたと言えるが、生まれもった体質というのは何も花粉症やアレルギーなどだけではない。

極論を言えば、当方がブスなのも体質である。むしろこれ以上ないほどの体質だ。

ブスという「体質」

ブスというのは、ただ人の目に対してドS過ぎるデザインで生まれてきただけであり、本人のせいではない。そういった意味では花粉症と同じであるはずなのに、私などは「卵・乳製品を入れないでください」のようなノリで、「合コンにブスを入れないでください」と言われたりと、何故かこちら側がアレルゲン扱いなのである。

しかし、ブスという体質は非常にメジャーであるがゆえに、世界中で研究が進められている分野と言える。よってこの世には、化粧品や美容サプリ、他美容器具などのブス改善商品があふれかえっている。ドラッグストアもドラッグと謳いながら、薬よりもそれらの商品が幅を利かせているぐらいだ。

もちろん、自他とも認めるブスから、「私ブスだから…」と口では言いながら実は全然そう思っていない新型ブスまで程度の差はあるだろうが、美容関連商品の需要ひとつ見ても、自分の容貌に何らかの不自由さを感じ、改善したいと思っている者は多いということが見て取れる。

私も若いころは随分それらの商品を買った。自分的には投資のつもりだったが、端から見れば「ブスがドブに金をちぎっては投げちぎっては投げしている図」だったと思う。しかし「これ1本でブス知らず」とか言われたら買ってしまうのである。

つまり、ブスには希望がある。何故なら、個体差を超えて「美」を実現するための研究は前述の通り世界で総力を挙げて行われており、毎日のように新しい美容メソッドが発表されているからだ。そのため、「このファンデは私には合わなかったけど、こっちはイケるかも」と、ブスからの脱却を永遠に諦めずに済むのである。人から見れば無間地獄かもしれないが、ブスにとっては希望なのだ。

このように、ブスというのはメジャーな体質なので、どうにかなるかは置いておいて、「この商品を買い、あと奇跡が起こればどうにかなるかもしれませんよ」という方法は山ほど提示されている。しかし、世の中にはマイナーすぎて誰も研究しておらず、どう対策を取っていいかすらわからない、そもそも誰も理解してくれないという悩みを持つものもいるのだ。

理解されにくい身体の悩みと思いやり

ちなみに、私は人より歯が小さい。多くの人が「だからどうした」と思っただろう。しかし、歯が小さいと、歯のエナメル質も比例して薄くなるらしく、大変虫歯になりやすいのだ。この体質と自らの不摂生という合わせ技で、私は数年前、二十代にして入れ歯の危機に瀕した。そして、危機を脱するために、軽自動車が買えるぐらいの金と二年近くの月日をかけて治療をする羽目になってしまった。

歯医者にそれを言われるまで、自分の体にそんなハンデがあるとは知らなかったし、小さくて困るのは胸くらいかと思っていた。いや、それは別に小さくても困らないだろう。小さすぎてルーペがないと見えないとかなら話は別だが、日々の食事に関わる分、虫歯の方が実害としては大きいと思う。だが実際は、歯よりも胸を大きく見せる方法が研究・開発されているのだ。そうは言うものの、当事者である私ですら「小さい歯をでかくする方法」は聞いたことがないから、やはり需要があまりないのだろう。

おそらくこういった「どうにもならないし、どうにかするほどでもなく、しかし地味に、そしてたまに派手に困るような悩み」というものを誰しも持っていると思う。

私の「歯が小さい」という悩みも、色んな部位に当てはめて考えることができる。まず「ケツの穴が小さい」という問題はどうだろうか。もちろんここで取り上げるのは慣用句としてのそれではなく物理的な話題としてだ。やはり出すにも入れるにも、小さいと何かと不便な気がする。しかし「ケツの穴がでかすぎる」というのも問題があるような気はする。一瞬でも気を抜くと大惨事が起きそうな緊張感を感じる。

しかし、小さければ広げたり、大きすぎれば括約筋を鍛えたりと、努力する余地はあるような気もする。では「ケツの穴の皮が薄い」場合はどうだろうか。色々当てはめてみると言いながら、徹底徹尾ケツの話しかしていない気もするが、ここまで来ると努力ではどうにもできない域だ。私の歯のエナメル質が薄いのと同じである。そして、常人のケツを持つ人にはわからぬ悩みが絶対にあると思う。

結局、悩みというのはそれを持っている本人しかわからぬもので、歯が小さいことを理解されないと悩む自分も、花粉症の人の辛さはわからない。しかし重要なのは、その人の辛さを想像して、思いやることだろう。

つまり、温水洗浄便座の出力を上げたのなら、次に利用する大小厚薄さまざまな尻の持ち主に思いをはせて、必ず元の強さに戻せ、ということである。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。直近では、猫グルメ漫画「ねこもくわない」単行本が4月28日に発売される。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2016年4月19日(火)掲載予定です。