アンドロイド 挿絵

今回のテーマは「アンドロイド」である。アンドロイドとは日本語で「人造人間」のことだ。

前項でやったヒト型エンタテイメントロボットと何が違うのかというと、担当がロボット警察に「御用だ」と言われるのを恐れた通り、明確に線引きは出来ない。イメージとしては、アンドロイドはより人間に近い姿をしており、「人工生命体」と言っていいかもしれない。

オリエント工業さんのWebサイトを見ればわかる通り、人間そっくりのドールを作る技術はすでにある。だが、人間と同じレベルで自分の意志で動いたりしゃべったりするところにまでは至っていない。

よって、長らくアンドロイドはSFなどの、創作上の存在だった。古くは、ユダヤ伝説の「ゴーレム」、ギルガメシュ叙事詩の「エンキドゥ」、SFでは「フランケンシュタイン」と、ソシャゲの「Fate/Grand Order」をやっている人間にはおなじみすぎる名前が出てくる。というか「あいつら全員同カテゴリやったんかい」という感じだ。

アンドロイドは「私」を超える

現実でもアンドロイドの開発は進んでおり、日本で有名なところだと大阪大学の石黒浩教授が、マツコ・デラックスや黒柳徹子そっくりのアンドロイドを作ったそうだ。

よりによって「1人いれば十分」な方を率先して選んでいるような気がするが、阪大の他に京大などが参加し作ったという美人アンドロイド「ERICA」を見ると、オリエント工業さんのドールの顔が浮かんでくるので、やはりアンドロイドを作るならまず「マツコ&徹子」、という選択は最適だったようにも思える。

これらのアンドロイドは、もちろん見た目が人間そっくりというだけではなく、人間らしい仕草をしたり、会話をしたりすることもできるようだ。

また、サウジアラビアでは、すでに「市民権を持ったアンドロイド(ロボット)」が存在するようだ。そのアンドロイドは「ソフィアさん」という名前で、精巧な瞳や肌を持ち、60種類以上の表情を表現できる上、人間の顔を認識し、目を合わせて自然に会話できるそうだ。

もうこの時点で、少なくとも私を越えている。「笑顔」というカテゴリが存在しないので60種類も表情がないし、自然な会話どころか、人と目を合わせることもできないからだ。

ソフィアさんの写真を見てみたが、何故か頭部が機械丸出しなせいで一目でロボットだとはわかるが、顔は本当に人間そっくりである。その顔はオードリーヘップバーンと開発した博士の妻がモデルだという。妻だけだとモチベーションが上がらなかったのだろうか。

そんな美人で頭の良いソフィアさんだが、最近さらにすごい進化をしたという。今までソフィアさんには上半身だけしかなかったが、下半身を与えられ、なんと「二足歩行」ができるようになったそうだ。

私は頭が悪い上に他人と目を合わせることもしゃべることもできないが、三分ぐらいなら二足歩行はできるし、それは多くの人間が1、2歳でできるようになることである。

しかしロボット界隈では「なんと二足歩行」という偉業なのである。

ソフィアさんがニ足で歩く動画も見たが、足は人間そっくりなどではなく、完全な「ロボット足」だ。おそらく歩かせるにはこの形状でないと不可能なのだろう。歩き方もなめらかとは言えず、移動速度は見たところ時速100メートルぐらいである。

開発者によれば、ソフィアさんの性能はそのうち「人間を超える」らしい。アンドロイドが人間を超える、というのはSFでは良くある展開で、そうなると反旗を翻したアンドロイドに人間が乗っ取られてしまうのだが、ソフィアさんの動きを見るに、方針を転換してキャタピラやロケットランチャーを搭載してしまわない限りは、いきなり乗っ取られるということはない気がする。

しかし「人間を超える」ということは、人間の思いもよらぬことをする、ということである。ソフィアさんが人間を超えたら、取り付けられた足を高速で投げつけてくるかもしれない。 このようにアンドロイド開発が進む一方で、そんな危険な物は作らない方が良い、という意見も出ているようだ。

それ以前に、アンドロイドは何のために開発がすすめられているのだろうか。何度も言うが、人間なら腐るほどいるのだから、わざわざ巨額の投資をしてさらに「人間」を作る必要はない気がする。エンタテインメントロボットの時も思ったが、おそらく人間より高性能で、かつ人間の面倒くさい部分を廃した存在を作ろうとしているのだろう。

そうなると、誰も人間とつきあいたいと思わなくなるような気がしてならない。見た目が人間と変わらず、ハイスペックで性格が面倒くさくなかったら、絶対そっちとつきあいたいに決まっている。

人間がアンドロイドに乗っ取られるかどうかは別として、アンドロイドが実現したら間違いなく少子化は促進すると思う。だが、人間より高性能になったアンドロイドがわざわざ人間とつきあってくれるかは謎である。

もしかしたら将来「アンドロイドとつきあっている」ことがステータスになる日も来るかもしれない

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」は今回で最終回となります。長らくのご愛読、ありがとうございました。ビジネス分野の新連載を8月より開始予定です。

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カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集、「ブス図鑑」(2016年)、「やらない理由」(2017年)、「カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄 - 」(2018)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。