マシンビジョン 挿絵

先日、某社の担当の子息が現在、菓子の「きのこの山」「たけのこの里」工場で働いていると聞いたので、「それはYoutuberよりも夢のある仕事ですね」と素直に感嘆した。

残念ながら、どこの工程なのか、仮に私がその工場へ入ったら、きのこ派としてたけのこ製造側に妨害工作を仕掛けることは可能なのかなどは聞きそびれたのだが、少なくとも、きのこの山とたけのこの里を作るのに、人の手が必要なことはわかった。

機械がやれることは機械にまかせる

きのこ・たけのこのみならず、工場内を映すテレビ番組などを見ると「それ、人がやってたのかよ」と驚くことが多い。

もちろん、絶対に手ずからやらなければいけない部分(漫画家なら主役の目を描くなど)は今後もあるだろう。だが、Excelファイルなのに自動計算を使わず、自ら電卓で計算したものを直打ちして作り、それを渡した部下から「上司からとんでもないエクセルデータもらった」とSNSに晒されるのは「無駄」である。

機械ができることは機械にやらせた方がいい。今回のテーマも、そういう話である。

マシンビジョン(Machine Vision、MV)とは、産業(特に製造業)でのコンピュータビジョンの応用を意味し、自動検査、プロセス制御、ロボットのガイドなどに使われる。典型的な用途としては、各種製品(ICチップ、自動車、食品、医薬品など)の検査がある。工場のラインで人間の検査者が眼で見て製品を検査する代わりに、デジタルカメラ、スマートカメラ、画像処理ソフトウェアなどで構成されるマシンビジョンシステムが同様の検査を行う。 (引用:「マシンビジョン」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』2018年4月23日 (月) 17:00)

工場には検品という工程がある。「きのこの山」の製造にも、きのこの中に不良品やたけのこの野郎が紛れ込んでいないか監視し、見つけ次第非道の限りを尽くして抹殺するセクションがあるに違いない。

従来なら、それは人間の目による目視で行われるものだった。

しかし何せ人間の目である、壁のシミが人の顔に見えて恋したり、朝から午前2時まで働き続ければ疲れて、見えないものが見えてくることもある。

そんな、時にあてにならない人間の目の代わりになるのが「マシンビジョン」である。

きのことたけのこがランダムに流れてきて、たまに裏をかいてルマンドが来る、というような、ライン上の製品に規則性がない場合は現在でも人間の目で確認するしかないが、規格がすべて同じ時は、このマシンビジョンで検品した方が正確で効率が良い。

では、マシンビジョンはどのように製品の合否を判断しているか。まず製品がベルトコンベアーなどで流れてくると、センサーが反応し、製品の写真を撮影する。その画像データは、合否を判断するソフトウェアに送られる。不合格と判定されると、その製品をリジェクトするようコンベアーの進路が切り替えられる信号が送られる。

すごく回りくどいことをしているように見えるが、実際のマシンビジョンはこれらを一瞬で行い、製品をさばいていると思われる。

これを人力でやろうと思ったら、まず製品の写真を撮り、その写真を製品の合否がわかる奴のところに持って行き、「これイケると思う?」と判断を仰いだのち、ダメだったらコンベアー切り替え係に「それリジェクトしろ」と言いにいかなければならない。その間に、他の製品は検品を経ずに通過しまくっているだろう。

逆にいうと、今までこれらのことをやってきた人間の目というのは、たまに、幻覚を見たり、「おちこんでいる」などの表記を男性器の名称に空目してしまうこともあれど、なかなか優秀なものなのかもしれない。さらに都合が悪いものは見えなくしたり、見なかったことにしたりする機能までついている。

そうは言っても、マシンビジョンもこれからどんどん優秀になるであろう。今は判別できない複雑な判定もその内できるようになり、検品は完全に人間の仕事ではなくなるかもしれない。

長らく「機械には無理」と言われたひよこの雌雄判定ですら、最近「生まれる前に雌雄判別する装置ができた」というニュースがあったほどだ。もはや「機械に奪われない保証がある仕事」というのは存在しないのではないだろうか。

ただ、主人公の目を描く、と近い話で、「このフィギュアの表情は萌えが足りないから規格外だ」など、機械からすれば「知らねえよ」という部分を極めた職は奪われにくいかもしれない。

そこまで機械が出来るようになったら、もはや地球に人間が不要な気がする。

<作者プロフィール>

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カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集、「ブス図鑑」(2016年)、「やらない理由」(2017年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2018年5月8日(火)掲載予定です。