エッジコンピューティング

今回のテーマは「エッジコンピューティング」だ。

かなり前になるが「クラウドコンピューティング」の話をしたと思う。賢明な読者はもう内容を忘れていると思うが、賢明な私も何を書いたか忘れているのでイーブンだ。

クラウドとはゲーム「ファイナルファンタジー7」の主人公である、と言って怒涛の古のオタク回顧録を展開したいところだが、それをやって「関係ないことは半分までにしろ」と叱責されたことだけは覚えているし、その恨みは入念な準備をしていつか晴らすので、今回はやめておく。

ITの方のクラウドの仕組み

クラウドとは「雲」の意味である。従来であれば、自らのPCなどにソフトをインストール、作業、データを保存と、何でも己の機器内で行ってきた。だが現在、そういったことを自分のPC内でやるのはもう古いのだ。

ではどこでやるかと言うと「ここではないどこか」、であり、その集合体がクラウドだ。何になりたいかもわかっていないのに自分探しの旅に出ようとしている奴ぐらい話が漠然としてきたが、つまりユーザーのPC上ではなく、離れた場所にあるコンピューターで処理することである。

ソフトなら自分のPCにインストールするのではなく、クラウド内にあるソフトにアクセスして使うし、データも自分のPCではなく、クラウド内に保存する。

なぜそんな遠まわしなことをするのか、貴様の文章か、と思われるかもしれないが、この方法だと、己のパソコンが低容量のポンコツでも、外部のコンピューターを使えば高度な処理ができるのだ。

また、免許証、保険証、キャッシュカード、クレカ、うどん屋の回数券など、自分のすべて入れた財布を紛失してしまったらしばらく生活が詰むのと同じように、何でも自分のパソコンに入れていた場合、それが突然爆発したらあらゆるものが消えてしまうということである。

自分の死後ならぜひPCには自動で爆発してもらいたいが、大事な仕事の途中だったら大変だ。だが、データを爆発したPC以外に保存していれば、PCが木っ端微塵になってもデータは無事である。PCを使用していた本人が無事かどうかは置いておいて、とにかくデータだけは無事だ。

つまりリスクヘッジ的な意味でも、これからはクラウドコンピューティングの時代というわけである。

「ここではないどこか」ではなく、目の前にある「エッジ」

しかしクラウドにも短所はある、「遠い」のだ。何せ「ここではないどこか」でやるのであり、どこかというのは、アメリカ西海岸だったりする。しかもその「どこか」は一箇所ではない。一つのタスクをするのに、何箇所も経由するのだ。

そうすると、どうなるか。「遅い」のだ。

「遅い」というのは、大きな問題である、ただ作業が滞るというだけではない。前にも書いたが、人の凶暴性を駆り立てるのは、暴力ゲームではなく、ロード時間が長いゲームだ。

処理が遅いと、隣のデスクの人間に殴りかかる恐れがあるし、そこから未曾有の会社バトルロワイヤルが開催されても不思議ではない。みんなクラウドの遅さにイラついているなら当然だ。

よって、「ここではないどこかでやるにしても、俺たちは東京で仕事してるんだから、せめて東京のサーバ使わね?」というのが「エッジコンピューティング」である。

エッジコンピューティングは、すべてのデータをクラウドに集めて処理するのではなく、エッジ(現場)とクラウドで協調分散処理する仕組みです。ネットワークの負荷を抑えながら、現場でのデータ処理と状態検知における即応性を高めます。従来の「クラウドコンピューティング」に頼ったデータ処理では、高頻度に発生する多種多様なIoTデータのすべてをクラウドに集め、時系列の変化から一瞬の異常値を逃すことなく見つけ出すことは非常に難しい課題でした。
「エッジコンピューティング」では、機器やゲートウェイ側にもインテリジェンスをもたせることで、エンドユーザーに近い現場でも処理を実行。クラウドに上げるべきデータか、あるいは現場で処理すべきデータかを機器側で判断し、必要な情報のみをクラウドに送ります。(東芝HP「エッジコンピューティングとは」より)

つまり、利用者の近くにサーバをたくさん作ることにより、クラウドより処理を速くすることができるのである。また、クラウドにすべてデータをアップロードしなくて済むため、通信帯域を圧迫しないで済むという利点もあるそうだ。

エッジコンピューティングは、特に遅延が許されない場で運用されていくと予想されている。遅延が許されない場というのは、いつバトロワが起こってもおかしくない殺伐とした会社ではなく、例えば車などだ。

車で移動する先の事故情報や天候情報など、その場に突入してから知らされてもどうしようもないし、今まさに落石が目の前にあるのに「落石注意」と言われても困る。このような、とにかく早さと正確さが求められる場ではエッジコンピューティングは活躍していくだろうということである。

しかし、早く正確な情報を得られても、それに対して適切な処置ができるかはまた別問題である。「10秒後落石がきます」と言われても、人間が「落石てwww」と判断して、そのまま進んだら無意味だ。

正確で早い情報だけではなく、その情報を元に、正確で早い行動をしてくれる、人間ではない何か、つまりシステムも同時に求められるだろう。

<作者プロフィール>

カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集「ブス図鑑」(2016年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2017年12月5日(火)掲載予定です。