今回のテーマは「HEMS」だ。

長い人生、「生きてるだけで金がねえ」という状態に陥ることが、一度や二度ではなくある。

この場合の「生きてるだけ」というのは、衣食住、それに加え私の場合はソシャゲのガチャなどが挙げられる。ガチャは呼吸と同じなので、しないわけにはいかないのだ。つまり、ライフラインに関わる出費だけで金がなくなるという状態である。

確かに、これらの出費も削ることはできるが、ゼロにするのは無理だし、繰り返すがガチャは呼吸なのでやめるわけにはいかない。とはいえ金がないのは困るので、ガチャ以外はできるだけ節約するにこしたことはない、という話である。

何となく体感でわかる「HEMS」

「HEMS」はライフラインのひとつ、電気代を抑えるためのシステムだ。読み方にひねりはなく「ヘムス」と読む。

これがガチャ費を抑えるシステムでなくて、本当に良かった(もしそうだったら話はここで終わりだ)。正確には「Home Energy Management System(ホーム エネルギー マネジメント システム)」の略である。

当コラムに出てくる用語は略語が多い上に、略されてない状態を見てもわからないし、その意味を説明されてもわからない、という、とにかくわからないとしか言いようがない状況に陥ることが多いが、今回は珍しくなんとなくわかる。家で使われている電気を管理して、それで節約しようということだろう。

HEMSを導入すると、使用電力に合わせて自動的にエアコンや照明を省エネモードにしてくれたり、また電気の消し忘れなども教えてくれたりするようだ。そして、どの時間帯に、何で電力が多く使われているかなど、消費電力を「見える化」することにより、どこを節約して良いかがわかるようになっている。また、電気を使いすぎているときはアラームで教えてくれたりもするようだ。

なるほど、確かに今まで、一体家の中の何が電気を食っているかがイマイチわからなかった、と言いたいところだが、実はHEMSがなくても、みんなすでにわかっているのではないだろうか。我が家は、他の季節に比べ、冬の光熱費が2、3倍になる。明らかに原因は暖房器具である。あとはお湯を良く使ったり、風呂の温度を上げたりしているからだろう。

では原因が判明したので、節電のため、暖房器具は全部焼き捨て、風呂は冷水、氷の如き便座に座れるかと言うと、無理だ。健康を害して余計金がかかる。

それに、どうしても今日仕上げなければいけない原稿を描いているときに「電気使いすぎだぞ」と言われても「わかった、パソコンも照明も落として寝る」というわけにはいかないのだ。

もちろんHEMSも、ただ「使いすぎてるから何とかしろよ」と言うだけではなく、最初言ったように、自動的に省エネ状態にしてくれたり、太陽光発電を効率良く使ってくれたりするようなので、HEMSを導入すれば実際電気代は安くなるのだろう。

HEMSで得られるお得さはホンモノか

ではやはりHEMSにした方が得なのかというと、これは断言できない。なぜかと言うと初期投資問題がある。

我が家はオール電化で、太陽光発電を設置しているため、一年の電気代はトータルでプラマイゼロぐらいだ。一見得をしているように思えるが、まず太陽光発電装置を設置するのに数百万はかかっている。そして、元が取れるころにはおそらく装置が経年劣化しているので、修理するか、新しく設置しなおす必要があるのである。当たり前だがそれには金がかかる。

実際、太陽光発電をつけたは良いが壊れた上、修理する費用がかけられないので、太陽光パネルが屋根に置かれたオブジェになっている、という家はあるのだ。例えば私の夫の実家とか。そういったことを考えると、果たして、太陽光発電は本当に得なのか怪しいところがある。

HEMSも同じことで、それを設置する費用が多分かなり高いと思う。それによって節約できる電気代で元がとれるのは一体いつになるのであろうか。

そもそも、HEMSを導入できる時点でかなり余裕のあるご家庭のような気がする。生きているだけで金がなくなる人間が、「よしもっと電気代を節約するためにHEMSを導入するぞ」というのは不可能である。HEMSを使えば便利になることは確かだろうが、それが節約になるとは今のところ断言できないような気がする。

このように、電気のみならず、原因はわかっているがどうしようもできない、といことは良くある。むしろ世の中の問題の大半は、解決策はわかっているが、その策が実行できない、という問題によって解決できていないのだ。

もちろん、私に金がない原因もわかっている、電気の使いすぎではなく、ガチャの回しすぎだ。だからと言ってそれを止められるかと言ったら不可能だ。何度も言うが呼吸と同じなので、やめたら死ぬ。

わかっていてもやめられない。まして、機械に言われてやめられるはずもないのだ。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集「ブス図鑑」(2016年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2017年7月4日(火)掲載予定です。