「インテル、入ってる?」

誰もが一度は聞いたことがあるキャッチフレーズだろう。これをパロディしたタイトルのセクシービデオも探せば絶対ありそうだ。

駄洒落である。しかし、頭に残る。やはり、ダサさとキャッチーさは全く別問題なのだ。いくらオシャレでも、全く胃に入った手ごたえのないカフェ飯のようではダメだ。

カレー沢薫、インテルとの真の遭遇

しかし、インテル、誰だ貴様は。名前は知っているが、インテルが何なのかは未だに良く知らないのだ。つまり今、正体不明のものに入られているかもしれない、という状態でありこれは気持ちが悪い。

だが、思えば自分の体でさえ、どんな内臓が入っていてどんな働きをしているのか良く知らないし、内臓は「困ったら売るもの」という認識しかない。体でさえそうなのだから、パソコンに何が入っているかなんて知る由もない。仮に電器屋の店員とかに「人間と同じ臓物が入っています」と言われても、「そうですか」と言ってしまうだろう。むしろ内容物が同じなら、人間も自分の内臓を使ってセクシー単語を検索できたりしても良いはずである。

しかし、ついにインテルが何なのか調べる日が来た。これがそういう仕事だからだ。

まず、インテルというのは会社名らしい。もちろん、パソコンの中に会社が入っているわけではない。正確には「インテル社のCPU」がパソコンに入っている状態が「インテル、入ってる」なのである。 ちなみに今回のテーマはインテルではない。「CPU」だ。

実は「インテル」ではなかった今回のテーマ

CPU:コンピュータを構成する部品のひとつで、各装置の制御やデータの計算・加工を行う装置。メモリに記憶されたプログラムを実行する装置で、入力装置や記憶装置からデータを受け取り、演算・加工した上で、出力装置や記憶装置に出力する。(IT用語辞典 e-wordsより抜粋)

すごく重要なパーツである。おそらく、CPUが入っていないパソコンは、爆発するか、暴れだしたりするのだろう。インテルは大いに入っている必要がある。

CPUには1回の命令で同時に処理できるデータの量によって8bit(ビット)、16ビット、32ビットなどの種類があるらしく、ビット数が多いほど、複雑な処理をこなすことができるというわけだ。

そういえば、一昨年、パソコンを新調した時、カタログに32ビットとか64ビットとか書かれていた。あれはCPUの話だったのだ。CPUのことだとはわからなかったが、「数はデカイ方が良いに違いない、何故なら値段もデカイから」というシンプルな理由で64ビットを選んだ。(編集注:PCのスペック表に書いてある「64bit」はおそらくOSの情報と思われる)

しかし実際、漫画などを描く画像処理ソフトは容量を食うため、なんでもデカイにこしたことはないのだ。

そんなすべてを最大限でかくして注文したパソコンであるが、何と本体も巨大であった。普通の事務用PCよりふたまわりぐらいデカイ。それだけで机のスペースを相当取る。その上高さもかなりあるので完全に壁となり、おそろしく閉塞感のある仕事場になった。

これだけデカイ箱に入っているのだから、もしかしてCPUとは意外と巨大なものなのかと思い、画像検索をしてみたら明らかに「チップ」である。しかし、高性能CPUを受け止めるには、ガワもでかくしなければいけないのだろう。特に意味もなくでかいとは思いたくない。

もちろん、それだけ処理能力も高い。しかし、デカイのはCPUのビット数や、本体だけではない。音もデカイのだ。特に、容量の大きいデータを処理するときは、もはや「轟音」としか言い様のない音を立てる。

全然スマートではない。「俺、今メチャクチャがんばってまっせ」というアピールをしてくるのだ。「インテル、頑張っている」である。

しかし、インテルは本当に頑張ってくれている。処理能力は確かに高いし、激重な3Dソフトを使っても、抗議のような音はたてるが、画面が固まることはなかった。

しかし、唯一、高性能インテルが負けた時がある。しかも、画像処理ソフトを使っている時ではなく、ブラウザゲーム「一血卍傑-ONLINE-」をプレイしたときだ。

このゲームはリリース直後、とにかく動作が重いことで有名であった。だが、可能な限りハイスペックにした私のパソコンの敵ではない、と思いゲームを立ち上げた。するとすぐにPCは轟音を立てはじめた。しかも、いつもの音と様子が違う。その音はだんだん大きくなり、次第に断末魔へと変わっていった。

そしてゲームは固まり、私の一血卍傑は終わった。敗北である。しかしインテルに罪はない、敵が強すぎたのだ。

さっきからインテルインテルと連呼しているが、本当に入っているのはインテル製のCPUか?と思われるかもしれない。だが、CPU業界というのは長らくインテル社一強、という状態だったようなので、多分インテルだろう。違ったら、本体や音がでかすぎるのはそのせいかもしれない。

だが、ライバル社のAMDも追い上げてきており「ついにインテルの牙城が崩されるやも?」という点で、PCオタクにとっては今「アツい展開」らしい。(編集注:アツイ展開についての記事はこちら)

この「アツさ」に関しては、もし説明されても全くわからないだろう。オタクの言う「アツい」というのは、その分野がわからない者からしてみれば全然理解できない。むしろオタクがアツく説明すればするほど相手は冷める。私も2次元オタクとして、そのことを十分理解している。

それでもアツい説明をやめられないから、当コラムで刀剣乱舞の話とかをしてしまうのである。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集「ブス図鑑」(2016年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2017年4月18日(火)掲載予定です。