今回のテーマはメッセンジャーである。

おそらく、ほとんどの人が1999年に公開され、ナインティナインの矢部浩之が主演した映画「メッセンジャー」を思い浮かべただろう。私はもちろん見ていない。

時代と出会って「事故る」

今調べたら、「メッセンジャー」の主演は草なぎ剛だったのだが、なんとなくナインティナインの矢部が主役級で出ていたという印象の方が強い。ナイナイは今でも活躍している芸人だが、おそらく彼らが主役級のドラマや映画はもう、そうそう作られることはないだろう。中にはキムタクのように数十年にわたり主役を張り続ける者もいるが、たまたまその時代と正面衝突で事故った者が、ぶつかった勢いそのままで、ドラマや映画の主役をやるという現象は昔からある。

宗家襲名でゴタゴタしていた和泉元彌が大河ドラマの主役に抜擢され、その後もゴタゴタしたりプロレスでハッスルしたりするという、何かが麻痺した時代もあったのだ。しかし、これは時代と事故った者勝ちである。私も毎日、何かの間違いで事故らねえかなと思っているが、今のところリアルで車に轢かれる確率の方が高い。

やはり、一瞬でも時代にミートできる人間は、何かしら持っているからぶつかりに行けたのだろう。

主役じゃなくても、その時旬の芸人がドラマや映画に出るというのは良くあることだが、私の5億8千個ある急所の一つに「芸人のマジ演技」というのがある。芸人がドラマのシリアスなシーンで、シリアスな演技をするのに弱いのだ。

これは芸人がマジな演技をしているというギャップが笑えるとか、そういうものではない。NANAで言うと、ナナが初めて蓮と会った時のような感情が巻き起こり、いてもたってもいられないのだ。ナナは真っ赤なドレスでステージ上の蓮を見つめ、私はユニクロで8年前に買った元水色、現灰色のパーカーでテレビの前でもんどりうっている、という微々たる差はあるのだが、心情的には全く同じだ。つまり説明できないので「弱い」「急所」「一撃で死ぬ」としか言いようがない。

平素ドラマはおろかテレビすらあまり見ないので、そういうシーンに遭遇することはほとんどないのだが、数年前運悪く「出演者がほぼ全員芸人のスペシャルドラマ」を見てしまったのだ。しかも、ほぼ芸人なので全体的にコメディタッチでありながら、最終的には「いい話」という仕様だった。これは死ぬしかないし、私は実際その日5兆回死んだ。

LINEやSkypeは「難易度が高すぎる」

(インターネット)メッセンジャー: インターネット上で同じソフトを利用している仲間がオンラインかどうかを調べ、オンラインであればチャットやファイル転送などを行うことができるアプリケーションソフト。「IMクライアント」などとも呼ばれる。(IT用語辞典 e-words)

単語の解説が一昔前、皆がパソコンでやりとりしていたころのそれではあるが、今風かつ簡単に言うとチャットアプリだ。LINEやSkypeなどが代表である。この両者は私にとって「一応インストールしているが使わないアプリ代表」でもある。何故使わないかと言うと、言わなくてもわかるだろうが、話す相手がいないからだ。

このようにインターネットメッセンジャーはSNSなどとは違い、「特定の話し相手がいることが前提」のアプリだ、難易度が高すぎる。まず話し相手を用意しろと言うのは、三分クッキングが「どこのご家庭にもある余ったレアメタルを使って」から始まるのと同じである。

では何でインストールしているかというと、LINEは夫との業務連絡に使うからだ。しかし本当に業務連絡しかしないので、「了解」以外の発言をした記憶がない。また、私は2種類ほどLINEスタンプをリリースしているが、自分ではほとんど使っていない。何故なら「了解」しか言わないくせに「了解」という意味のスタンプを作っていないからだ。合計80種類も作っておいて、世間的にも利用頻度は高いであろう「了解」がないのだ。その代わり「断固拒否」と書いてあるスタンプはある。私がいかに人とコミュニケーションをとる気がないかがここでもわかる。

Skypeにおいてはそれよりひどく、3回ぐらいしか使ったことがない。仕事で対談企画があったのだが、端的に言うと「人と会話できない」という私の能力的な問題で「Skypeのテキストチャットで対談」という方式が取られたのだ。その時の関係者は皆、私のことを人見知りが始まった2歳児なのでは、と思ったかもしれないが、普通に中年なので安心してほしい。

TwitterなどのSNSも広義で言えばコミュニケーション、会話ツールではあるが、大きな違いがある。メッセンジャーは「あなたに私の話を聞いてほしいし、私もあなたの話も聞きます」というものだが、Twitterなどは「誰でもいいから俺様の話を聞け(別に誰も聞いてなくてもいい)、だが俺様が貴様の話を聞くとは限らん」というものだ。どっちが私に向いているのかというと、明らかに後者だ。

今ではメッセンジャーアプリはほぼ使わないが、十数年前、無職で暇だったころYahoo!メッセンジャーをインストールしていたことがある。これは、友達がいなくても使えた。なぜなら出会い厨がクソほど話かけてきたからである。

そして現在。Skypeはあまり知らない人が話しかけてくることはないのだが、起動しっぱなしにしていると、たまに「risa」という人が「Hi!」と話かけてくる。

出会い厨もグローバル化しているのである。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集「ブス図鑑」(2016年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2017年3月21日(火)掲載予定です。