今回のテーマは「PLM」だ。

PMS(月経前症候群)に似ているし、こっちについて論じた方が有益な内容になるような気がする。だが、有益であると同時にデリケートな話題でもある。

PMSは体験しようのない男が理解しづらいのはもちろん、女同士でさえ非常な個人差があるので、症状が重い女が「PMSでつらい…」と言うと、軽い女は平気で「そんなの甘え、気持ちの問題」と言い捨てたりするのだ。

結局、その人間の苦しみは本人にしかわからない。同性だから、同じ立場だからわかってもらえると思ったら大間違い。全員敵、この世は地獄、慈悲はない。

このように、PMSについて語ると「人類は滅亡したほうがいい」という結論になってしまう、かと言ってPLMについて語るのも癪だ。

よって、間をとって一番平和的な「LS●」について書きたいと思うが、伏せ字にされてしまったところから分かるように、それだと「載せられない」という問題が出てくる。やはりこの世は全員敵で地獄である。

激アツホットシステムは「匠」の前に霧散する

PLM:工業製品開発の企画段階から設計、生産、さらに出荷後のユーザサポートなどすべての過程において製品を包括的に管理する手法。(IT用語辞典 e-wordsより)

「また出てきやがった」という話である。似たような意味の言葉を前に取り上げた記憶があるが、何だったか全く思い出せないので、このコラムは少なくとも筆者の知識向上には役立っていない。

(参考:連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(36)SCM連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(21)ERP)

だが、以前テーマにした言葉は思い出せなくても、こうも再三「今は全ての業務を一本化して管理するのがアツい」と言われれば、そういうのが旬なのだな、ということがわかる。

例えばフィギュア製作だったら、「このキャラにこういうポーズを取らせてオタクを爆発させよう」というアイディアから、嫁に勝手に捨てられるという廃棄段階までを一塊の単位として管理することにより、効率アップとコスト削減を図ろうというわけだ。

しかし、そういう激アツホットシステムを取り入れられるのは、そもそも余力のある大企業くらいである。新システムを構築するには金と時間がかかるし、外部のコンサルタントに依頼するならさらに金がかかる。

社員にやらせるとしたら、その社員は今までの業務をしながら新システムを作らなければいけないのだ。「残業をなくすシステムを作るために、まず法外な残業をしなければいけない」という矛盾が起こる。

さらに、それに携わる社員たちの意識と給料が激低だと、ほぼ5億パーセント「新システム」の話はいつのまにか霧散する。意識が低い人間は、物事をうやむやにしてフェードアウトさせる能力だけは「匠」と呼んでいいほど上手いのだ。会社ならそのうやむや期間にもコストはかかっているだろうから、企業にとっては「ただ小銭が出て行っただけ」という事態にもなりかねない。

昔ながらの製法を脱するには…

しかし、「新しいシステムを作るより、今やってることを続けた方が早い」というのは、典型的な淘汰される側の発想だということはわかる。

漫画だってそうだ、今私は、出版社などの依頼により原稿を描き、原稿料をもらうという「昔ながらの製法」で生計を立てている。しかし現在、作家が食っていく方法はそれだけではなくなっている。ネットを使い、出版社などを通さず利益を得ている作家はおそらくいくらでもいる。

昔ながらの製法だと、正直、仕事がもらえなくなったら餓死である。そして、その日はいつか来るだろう。だからその前に、自分一人でも利益が出せる方法を考えなくてはならない。

だが、考える時間と、実現するための金がないのだ。

何においても、利益なんてすぐ出るものではない。よって、利益が出ない期間に餓死しないだけの余力がいる。そのためには、今ある仕事をやるしかない。そして、今ある仕事をしていたら、とても新しいことを考える時間がないのだ。

「新しいことを始める余力がないので、今出来ることをするしかない」。個人でもこのようなジリ貧になるので、企業ならもっと新しいことを始めるのは難しい。

ではどうしたらいいかというと、やはりそれを考える時間がない。考えたとしても良いアイディアが出るとも限らないし、出たとしてもまた「それを実行する金と時間がない」という結論に達することがほとんどだ。

つまり「このことを考えると確実に暗くなるので考えないようにする」ようになる。もう何度目の登場かわからないが、「カーズ様状態」である。

暗い話になるだろうからPMSの話はやめたのに、PLMの話をしても結局暗くなったし、むしろより深い地獄の話になってしまったような気がする。

やはり、LS●の話をするのが一番ハッピーだったのではないか。使用したことはないが、上記のような悩みからは一時的に開放されるような気がしてならない。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集「ブス図鑑」(2016年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2017年3月14日(火)掲載予定です。