今年2月に発売となったトヨタ自動車「ヤリス」と本田技研工業「フィット」。同じコンパクトカーのジャンルに属しながら、デザインは対照的だ。なぜここまで違うのか。メーカーの姿勢や車種のキャラクターに理由がありそうだ。

  • トヨタの新型「ヤリス」
  • ホンダの新型「フィット」
  • ほぼ同時期に発売となったトヨタの新型「ヤリス」とホンダの新型「フィット」。同じコンパクトカーに分類される2台だが、デザインは対照的だ

「今にも走り出しそう」なヤリス

「数ある工業製品のなかで『愛』をつけて呼ばれるのはクルマだけ」

トヨタの豊田章男社長が最近、何度も口にしている言葉だ。その考え方は、同社が2019年10月に発表し、2020年2月10日に発売したコンパクトカー「ヤリス」にも受け継がれていると感じた。それを思い出したのは、わずか4日後の2月14日に発売となったホンダの新型「フィット」試乗会でプレゼンテーションを聞いているときだった。

  • トヨタの新型「ヤリス」

    「ヴィッツ」の後継モデルとなる新型「ヤリス」

これはホンダのオフィシャルサイトでも紹介されていることだが、同社は新型フィットのエクステリアデザインについて、「心地よいパートナー」を目指して議論を重ねた結果、「愛犬」という考え方に行き着いたという。「愛車」に対抗する意図はないとのことだが、この2つの言葉がヤリスとフィットのデザインの違いを絶妙に表現していると思っている。

  • ホンダの新型「フィット」

    確かに犬っぽい? ホンダの新型「フィット」

ヤリスはまだ量産車を公道で走らせていないので、昨年末にサーキットでプロトタイプに試乗したときの説明をもとにデザインを考えてみたい。まず、エクステリアのキーワードは「B-Dash!」だ。「B」は「Bold」(大胆)、「Brisk」(活発)、「Boost」(加速)、「Beauty」(美)、「Bullet」(弾丸)の頭文字であり、今にも走り出しそうな凝縮感のあるデザインを表現したという。

  • トヨタの新型「ヤリス」

    「B-Dash!」をキーワードとする新型「ヤリス」のエクステリア

その言葉どおり、コンパクトに凝縮したキャビンに対し、前後のフェンダーからは踏ん張り感が伝わってくる。縦にも横にも大きく開いたグリルと吊り目のヘッドランプからなる顔つきには強さが感じられるし、リアウインドーとコンビランプを一体とした後ろ姿もインパクトがある。どこから見ても走りそうなフォルムは、「愛車」の2文字を想起させる。

愛車とはマイカーの意味であり、シェアリングなどで借りるクルマのことではない。シェアリングのクルマは移動のために使う人が多いのに対して、マイカーはデザインや走りを楽しむ、趣味のパートナーとしての色合いが濃くなる。ヤリスの躍動的なフォルムは、そんなシーンを目指しているような気がした。

  • トヨタの新型「ヤリス」

    トヨタは新型「ヤリス」を趣味のパートナーとして愛着を感じてもらえるようデザインしたのかもしれない

「用の美」を目指したフィット

一方のフィットは、昨年の東京モーターショーに出展された電気自動車「ホンダe」や、ひと足先に発表された新型「N-WGN」に似て、シンプルさが際立つデザインだ。ただし、コンセプトは微妙に違っていて、ホンダでは「用の美・スモール」と表現している。

  • ホンダe
  • ホンダの「N-WGN」
  • ホンダの新型「フィット」
  • 左から「ホンダe」「N-WGN」「フィット」

「用の美」とは、無名の職人の誠実な手仕事によって、暮らしの中で使われることを考えて作られた民藝品が、実際に使われることによって輝く様子を表した言葉だ。民藝に新たな価値を見出すべく「民藝運動」を推進した思想家の柳宗悦が生み出した表現といわれており、物質的な豊かさだけでなく、より良い生活とは何かを追求する姿勢も含まれている。

その思想が色濃く表現されているのが新型フィットのボディサイドだ。キャラクターラインなどを限界まで減らし、塊そのものの造形美を強調したという説明どおり、とにかくすっきりしている。リアまわりもパネルとガラスやコンビランプの段差が少なく、ランプはオーソドックスな横長で、安定感や安心感が伝わってくる。

  • ホンダの新型「フィット」

    凝ったラインや凹凸がなく、とにかくすっきりした印象を受ける新型「フィット」のボディサイド

それでいて、フロントマスクは表情豊かだ。一部のグレードを除いてグリルをなくし、大きなヘッドランプを据えたそれは、なるほど犬っぽい。確かに愛犬だ。

  • ホンダの新型「フィット」

    新型「フィット」は確かに犬顔のクルマだ

このように、ヤリスとフィットのエクステリアは対照的だが、一方で共通項もある。ヘッドランプとグリル、サイドやリアのウインドーとコンビランプなど、線や面のつながりに気を配っていることだ。フィットに至っては、給油口のリッドまで周囲とのつながりを考えてある。個性的でありながらまとまりがあると感じるのは、こうした部分への配慮のおかげだ。

  • ホンダの新型「フィット」

    周囲のデザインと調和する新型「フィット」の給油口

しかし、インテリアに目を移すと、またも明らかな違いを感じる。ヤリスはエクステリア同様にダイナミックで、デジタルメーターは丸型2眼とし、小径のステアリングともどもスポーティーなイメージを出している。インパネに段をつけて立体感を強調しているところも目を引く。

  • トヨタの新型「ヤリス」

    新型「ヤリス」のインテリアはスポーティーな印象だ

個人的に好感を抱いたのはドアトリムだ。オープナー、グリップ、パワーウインドーのスイッチがひとつのユニットに集約した個性的な造形で、実際に使ってみると手の移動距離が少なくて楽だった。

楽しさか、心地よさか

一方のフィットは、出っ張りのない平らなインパネが新鮮。液晶メーターはコンパクトな角形としてその下に収めている。広報資料では心地よい視界とノイズレスインテリアという言葉を使っている。

  • ホンダの新型「フィット」

    平らなインパネが新鮮な新型「フィット」のインテリア

良く言えばにぎやか、悪く言えば煩雑なインパネが多かったホンダが、「ノイズレス」という言葉を使っていることからも、ホンダがデザイン面で方針転換したことがうかがえる。さらに、センターコンソールやドアトリムなどをソフトなパッドで覆ってあるところからは、優しさや親しみやすさも伝わってくる。

それ以上に印象的なのは視界だ。ヤリスも、歩行者保護などの制約がある最近の車種としてはインパネを低めに作ってあるが、フィットはドアの前の三角窓を挟むように2本あるピラーのうち手前を太く、奥を細くしており、平らなインパネのおかげもあってとにかく開放感にあふれる。

  • ホンダの新型「フィット」

    新型「フィット」の視界の良さは特筆すべきポイントだ

車内の広さはフィットが上だ。ヤリスも外観から想像するより車内は広くて、身長170cmの筆者は頭が天井に着くことはなく、ひざの前には10cmほどの余裕があったけれど、フィットなら楽に足が組める。

フィットは初代以来、多くの乗用車が後席下に置く燃料タンクを前席下に配することで、広く多彩なアレンジができるキャビンを実現してきた。だからこそ親しみやすい形、心地よい空間にこだわったのだろう。

一方のヤリスは、3年前から世界ラリー選手権(WRC)に参戦しており、そこで得たノウハウを取り入れたスポーツモデル「GRヤリス」を投入するなど、走りの楽しさをアピールしている。躍動的なデザインはその方向性に合致するものだ。

つまり2台のデザインは、それぞれのキャラクターを明確に表現したものといえるが、同じクラスにほぼ同じタイミングで登場した日本車が、ここまで対照的なデザインをまとってきたのは興味深い。日本のクルマづくりが成熟してきた証拠ではないかと思っている。

著者情報:森口将之(モリグチ・マサユキ)

1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に『これから始まる自動運転 社会はどうなる!?』『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』など。