半導体チップにID番号を付け、半導体チップのトレーサビリティを確立する動きは車載用チップに最も強い要求がある。前回、この動きを紹介した。2009年1月末に東京国際展示場(ビッグサイト)で開かれた「国際カーエレクトロニクス技術展」では早くも、トレーサビリティを確立するための技術が現れた。東レエンジニアリングが開発中のインクジェット方式で2次元バーコードを形成する、ウェハタイトラが展示されていた。

ICパッケージの表面には通常、製品番号を捺印しているが、中のチップが別物だったら偽物となってしまう。捺印を消して書き直すことは誰でも比較的簡単にできる。だからこそ、パッケージの外側からは見えないチップにも製品のID番号を付与しておこうというのがトレーサビリティの基本的な考えである。東レが進めている2次元バーコードの製造法はSEMIの標準化に諮られているが、SEMIではICパッケージの表面と裏面にも2Dバーコードを付与しようという考えもある。

チップのID番号を2次元バーコードで付与

トレーサビリティは、半導体チップにメーカー、製造年月、プロセスロット番号、ウェハ番号の情報を書き込んでおき、チップが万が一故障したとわかった時にそのチップのIDがすぐわかれば、同じロットのICチップにも影響が及んでいないかどうかをすぐ追跡することができるというもの。

故障したICチップと同じロットのチップを使うユーザーに対して迅速に知らせることができ、そのユーザーは同様な故障がないかどうか、あるいは重大な故障だとわかるとそのチップを搭載したクルマをリコール(回収)して問題を未然に防ぐことができる。

シリコンチップに2次元バーコードでこれらの情報を書き込むわけだが、その表示の形状やドットの形状、間隔などをSEMI標準化委員会で作成している。シリコンチップに書き込む2次元バーコードのサイズは50μm×50μmないし200μm×200μmという大きさだ。半導体メーカーはこのコードサイズをできるだけ小さくしてコストアップを防ぎたい。ICデバイスによってはボンディングパッド近くの狭い場所に形成する場合があり、2次元バーコードのサイズはできるだけ小さくしたい。一方、X線で読み取る装置側はできるだけコードを大きくして読み取り分解能を上げたい。

そして、このバーコードサイズの中に2次元のドットを20ドット×20ドットで表現し、そのデータ量としては31英数字あるいは44数字となる。

チップのウェーハ上の位置(XY座標)については、ユーザーへの開示が前提となるため、今のところオプション扱いとなっている。半導体メーカーには2次元バーコードを導入する前からウェハ内のXY座標にあるチップの履歴を1個ずつ工程管理コンピュータに記録しているところが多い。このためXY座標データ情報を2次元バーコードに含ませるかどうかはオプションになっている。

すべてのシリコンチップのIDを記録している情報をすべてのユーザーに公開する必要はないため、表示内容にセキュリティコード(暗号のようなもの)をかけることもできる。ただし、ユーザーごとに個別に検討することになる。

モールドパッケージを剥がす必要はない

こうして2次元バーコードにシリコンチップのIDを書き込むわけだが、問題が起きた時にプラスチックモールド樹脂を1個ずつ剥がしてチップを露出させるとすれば時間がかかりすぎてしまう。このためX線を利用してパッケージを剥がさずにチップの2次元バーコードを読み取ろうというのが東レの手法である。

東レの手法は、インクジェット方式を利用して2次元のバーコードを書き込むもの。ウェハの最終形態では、ロジックや複雑なSoCにはチップ全面にポリイミドなどのパシベーション膜(保護膜)を形成してある。2次元バーコードはパシべーション膜で覆われた1個1個のチップの上にインクジェットで形成する。しかもインクには銀メタルの粒を含ませておく。X線はメタルを通過しにくいため、チップの上をプラスチックモールド樹脂でパッケージした後でも、銀を含んだバーコードを読み取れる。プラスチックモールド樹脂を剥がす必要がない。

現在、チップのパシベーション膜の下にあるデバイスに対して2次元バーコードの銀メタルが半導体の信頼性や品質に悪影響を及ぼしていないかどうかの確認作業に入っている。東レはメタルを含むインクの開発と、インクジェットでシリコン表面に書き込むための装置の設計製造を行う。2010年3月までに装置化する予定で開発を進めている。

インクジェット法で2次元バーコードを書き込むための概要(中央が2次元バーコードの例、右がインクジェットでチップに書き込む様子)