ルネサス エレクトロニクスは、カーエレクトロニクスのSoCであるR-Carシリーズに対する考え方を明らかにした。R-Carシリーズは、旧ルネサス テクノロジのSH-Naviシリーズと旧NECエレクトロニクスのEMMA Carシリーズからなる。この2つを同じR-Carという製品グループに入れてエントリ製品からミッドレンジ、ハイエンド製品までカバーしていく。R-Carシリーズは2011年から順次、市場へ出していく。

たくさんのパートナーに開発を手伝ってもらう

R-CarシリーズSoCの基本戦略は、基本的なシステムアーキテクチャはオープンにし、差別化すべきソフトウェアと周辺回路を独自なものを開発すること。システム制御用CPUはARMのプロセッサIPコアとして、周辺回路部分をSH-NaviあるいはEMMA Carで構成する。システム全体を制御するCPUはARMで統一し、共通のソフトウェア開発環境を標準APIで構成し、OSもオープンにすることで、さまざまなパートナーが一緒に開発できるような環境を作っておく。

図1 リアルタイム処理部が差別化すべき周辺回路となる

SoCの価値はシステム制御のCPUや基本アーキテクチャでは決まらない。むしろ、ソフトウェアと周辺回路で決まる。集積回路として見る場合、差別化すべき周辺回路の制御部分をSH-NaviとEMMA Carで構成する訳だから、ここに差別化すべき肝を置くことになる。SoCにおける周辺回路こそ、図1のリアルタイム処理部である。

R-Carシリーズは3種類のプラットフォームを作り、それぞれハイエンドの「R-Car H」、ミッドレンジの「R-Car M」、エントリレベルの「R-Car E」とする。エントリレベルからハイエンドまでスケーラブルにソフトウェアを開発することができることが強みとなる。

図2 3つのプラットフォーム

旧ルネサスのSH-Naviを中心に展開

R-Car Hでは、画像認識IP搭載によるドライバ支援機能に対応する応用や、ハイエンドのグラフィックスを駆使して高品位ナビとマン-マシンインタフェースを構築するような応用に使う。R-Car Mは、マルチコアで複雑なアプリケーションとリアルタイム処理を同時に動作させる応用や、1080p対応のマルチメディアで車載エンターテインメントを実現するのに使う。R-Car Eでは、オールインワンによるシステムコストを最適化したり、オーディオとナビとの一体化を実現したり、低消費電力設計でエコに対応したりする。

新しい統合プラットフォームでは、ハイエンドのR-Car Hには高性能ARMのマルチコアを搭載し、DDR3のインタフェースとマルチメディア処理用のSH-4を集積する上に、高性能3Dグラフィックスコアと地図描画エンジンやHDビデオ、画像認識機能などを集積する。かつてのSH-Navi1、SH-Navi2V、SH-Navi2G、SH-Navi3、EC-4260、EC-4350がこのハイエンドのプラットフォームを形成する。ミッドレンジでは、高性能のARMコアを使い、DDR2/3インタフェースやSH-4、HDビデオ、高性能3Dグラフィックスコア+地図描画エンジンなどを集積する。旧ルネサスのSH-NaviJ1とSH-NaviJ2、SH-NaviJ3、旧NECエレクトロニクスのEC-4255がこのレンジに相当する。エントリレベルのR-Car Eでは、ARMコアでシステムを制御し、DDR2/3インタフェースと3D描画エンジン、SDビデオなどを集積する。SH-Navixがこのシリーズに相当する。

新生ルネサスの強みは、画像認識など車載に特化したIPを持っていると同時に、車載マイコンで培った高品質技術を持っていることであり、エントリレベルからハイエンドレベルまで統一した基本アーキテクチャでソフトウェアを再利用できる環境を持っていることだ。このためにはソフトウェア開発するためのパートナーが必要不可欠である。両社が統合したことでパートナーの数は増えたともいえるが、逆に思っていたほどは増えていないとも言える。というのは2009年には、SH-Naviコンソーシアムは70社弱のパートナー企業がいたが、2010年にはわずか79社にしか増えていないからだ。旧ルネサスは2009年において100社を目指すと言っていた。

事例 - 熊本大、日立情報制御と共に開発

新生ルネサスは10月下旬にR-Carコンソーシアムフォーラムを開催し、これまでのパートナーとの共同で開発した事例をデモンストレーションした。事例を1つ紹介しよう。これはカーナビの地図情報と車線認識技術を連動させて、より正確な白線を認識するための技術である。パートナーを組んだのは、熊本大学と日立情報制御ソリューションズ、そしてルネサスの3者である。コアとなる製品にはSH-Navi2Vを用いている。

図3 熊本大、日立情報制御とのコラボで高精度の白線検出システムを開発

白線を検出するレーンを認識する場合の難点は、特に一般道の車線を認識できないことが多いことである。雨の日の白線は見えにくい上に、日陰になっていると認識しにくい。また白線がかすれていたり、途切れていたりする白線も少なくない。一般道では、道路の周囲に木や電柱、灌木など道路以外の情報が多すぎるため白線認識が難しい。しかも一般道路は直線ではなく曲がっていたり細くなったり太くなったりさまざまに変化している。

そこで、ナビの地図情報と、クルマに設置したイメージセンサからの道路情報、車線情報に基づいて、白線と認識すべき領域候補を決定し認識する方法を用いた。ナビ情報とセンサ情報から候補を赤くて四角い枠線で囲み、その赤い枠をリアルタイムで次々と描き、白線と認識する。白線の認識にはHarris作用素による特徴点抽出手法を用いた。この方法は、明るさやスケールなどを変化させても強い特徴となる点を探して見つけるというもの。その特徴点を記しておく。

画像データベースには、地上の目印となるランドマークを入れておく。全国の主要交差点の特長的な画像を登録しておき、地図そのものも取り込んでおく。この方法だと特に交差点では10cmという高精度で認識できるという。従来の自律型のGPSだと5m位の精度がやっとである。

こういった特徴点抽出などのアルゴリズムを熊本大学が開発し、ルネサスはそれをチップにインプリメントする。そのSH7774を実装してシステムを作ったのが日立情報システムだ。これら3者のコラボレーションによって、より高精度な車線認識システムが出来たという訳だ。

ルネサスは今後、LTEを活用して高速インターネットとつなぎ、クラウド技術を活用して新しいアプリケーションを顧客である自動車メーカーやセットメーカーに提案していきたいとしている。加えて、R-Carシリーズには開発コンソーシアムをより活用してもらうため、新しいSoCパートナープログラムを提案する。ルネサスのパートナーはすべて、このコンソーシアムに入り、その下の分科会としてR-Carコンソーシアムに入ることで、ルネサスと一緒に成長できるというメリットを強調している。北米と欧州でのR-Carコンソーシアムを進めており、パートナーの海外進出も手伝えるとしている。