電子機器の認証試験を行い、製造業者に認証を与える第三者機関であるUL(Underwriters Laboratories)の日本法人UL Japanが、クルマ用の認証試験を行えるような設備を拡大している。千葉県香取市の鹿島EMC試験所に車載専用のEMC試験サービスを拡充、EHV専用の電波暗室(図1)を2基設置することをこのほど、明らかにした。

  • EHV専用の電波暗室

    図1 EHV専用の電波暗室 (資料提供:UL Japan)

EMCは電磁波ノイズを出さない、受けても誤動作しない、というこの2つを両立させるという意味の言葉である。このため、単なる電磁波ノイズという言い方ではなく、Electro-Magnetic Compatibility(両立)という言葉を使う。

クルマの環境はノイズだらけ

クルマはノイズの発生源が無数にあるほどノイズだらけの環境の中にある。クルマのエンジニアは、内燃エンジンの点火プラグから発するノイズを解決するために長年、奮闘してきた。クルマにはエンジンだけではなく、モータが簡単な動力として、例えばウィンドウの開閉やワイパー、ステアリングなどにたくさん使われている。モータをオン/オフさせると、コイルやコンデンサを使っているため、それらに電力が蓄えられ過渡的な大電流が流れ、ノイズが発生しやすい。さらに最近は、マイコンやSoCなどデジタル回路を使う例が非常に多くなっている。ほとんどすべてのECUにマイコンが搭載され、カーナビゲーションシステムを中心にSoCも多用されている。これらのデジタルICはクロックを中心にして動作しているため、常にオン、オフのパルスを出し続けている。これらもノイズ源だ。

ノイズの厄介なところは、対策がうまくいったクルマを設計したエンジニアでさえ、次のモデルの開発では、成功したクルマと同じようにうまくいくとは限らないことである。クルマのデザインのよってECUの配置が微妙に変わり、接点を利用する機構デバイスからもノイズが発生しやすいからだ。

無接点のブラシレスモータでさえ、インバータやチョッパでモータの回転数を制御するため、パワートランジスタのオン/オフ動作をさせる。オンからオフへ電流を切るときには瞬時に大電流が流れ、その一部が漏れて外へ飛びだすことがあり、これが電磁波ノイズとなる。

クルマの動力源にモータを使うハイブリッド車や、回生ブレーキを使うマイルドハイブリッド車、さらにはモータを動力として積極的に使うプラグインハイブリッド車や、電気自動車など、モータに流す電流レベルが高まってくると、オン/オフする時に漏れてくるノイズは増大する。

新車開発で必須となっているノイズチェック

そこで新車開発ではノイズのレベルをチェックして、クルマからノイズを発生しないことを確認しなければならない。ノイズを調べるためには電波暗室(anechoic chamber)を使って、外からのノイズを遮断し、室内のノイズを外には漏らさないようにして測定する。このため、大きな設備が必要となる。電波暗室では、すべての壁や天井、床に電磁波を吸収する材料や構造を取り付け、外からも入れない外へも出さないようにしている。

ULの日本法人であるUL Japanは2018年、愛知県みよし市の試験所にEHVチャンバー(後述)を導入したのに続き、このほど千葉県香取市にある鹿島EMC試験所にEHVチャンバーを2基導入する。鹿島に次世代モビリティ棟を新設し(図2)、2019年6月末に完成し、2020年1月から稼働する予定である。

  • 次世代モビリティ棟

    図2 2019年6月末に建屋が完成する次世代モビリティ棟 (資料提供:UL Japan)

EHVチャンバーとは、固定型のダイナモを搭載したハイブリッドカーや電気自動車専用の電波暗室である。従来の電波暗室が3m法などを使ってECUや電子回路あるいは電子機器を暗室内に設置し、3m法を使って3m離して電子回路を動作させ、ここからの電磁ノイズを測定する。これに対してEHVチャンバーはクルマの走行時を模擬してダイナモやモータからの電磁ノイズを測定する電波暗室だ(図3)。このため、モータや振動体を外へ出しておく。室内でのノイズ測定は3m法が基準となっているという。

  • UL JapanのEHVチャンバー

    図3 UL JapanのEHVチャンバーでは3m法を使ってノイズを測定する (資料提供::UL Japan)

鹿島には通常の車載用電波暗室も4基備え、UL Japan全体では24基の電波暗室を備えることになる。また鹿島EMC試験所にはこれらに加えて、電子機器から10m離してノイズを測定する10m法を使える大きな電波暗室も1基あり、その最大ターンテーブルの大きさ・重さは、3m・1トンと大きく重い。さらに電気試験室4室、シールドルーム4室などが揃っている。

東日本のOEMやティア1をサポート

UL Japanはもともと三重県伊勢市に本社を置き、トヨタ自動車などの中部および西日本をカバーしていた。東日本には日産自動車やホンダ技研工業、SUBARUなどといった自動車OEM工場やティア1サプライヤがいる。鹿島EMC試験所の目的は主に東日本の顧客へのサービスを拡充するためだ。これにより、UL Japanが所有する全電波暗室は合計24基になる。全拠点数は7カ所で、UL Japanの従業員数は600名以上だとしている。

その親会社であるULはもっと大きな組織で、米国シカゴに本部を置き、ULグローバルの全従業員数は1万4000人強で、拠点数は170カ所以上に上る。ULは認定試験だけではなく、標準化規格も制定しその数は1600件以上、評価してきた件数も10万件以上に上るとしている。ULは難燃性試験などの標準規格(いわゆるUL規格)も策定しており、ULの試験に合格し認証を受けるとULマークを使うことができる。