幼少期から熱血ドラマオタクというライター、エッセイストの小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る“脇役=バイプレイヤー”にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第67回はタレントの草なぎ剛さんについて。現在『青天を衝け』(NHK総合ほか)に出演中の草なぎさん。彼が大スターで"バイプレイヤー"と称してしまうのは、失礼なのかと思いました。でも2021年の大河で見せる演技があまりにも素晴らしいと思ったので、一筆。

"努力"という文字が"草なぎ"に読めるなぜ

  • 草なぎ剛

まずは草なぎさんが出演する『青天を衝け』のあらすじを。

天保11年。武蔵国血洗島村(現在の埼玉県深谷市)で、養蚕と藍玉作りの農家に生まれた、渋沢栄一(吉沢亮)。彼が百姓から日本経済を動かすまでの革命を起こした生涯を辿る。父・市郎右衛門(小林薫)の背中を見ながら、経済改革へ大きな希望を抱く栄一。千代(橋本愛)と無事に祝言を終えて、江戸に向かいたいと志願をする。

渋沢栄一といえば、2024年度から新しく紙幣に印刷される人物だ。数々の社会事業を作り上げてきた。そんな彼に全幅の信頼を置いたのが、草なぎさんの演じる徳川慶喜。徳川幕府最後の将軍となり、大政奉還(政治を行う権限を明治天皇に返還する行為)を実施した人物だ。

戦国時代において、慶喜はめちゃくちゃキレ者だったと聞く。静かに、熱く、日本の先を見越して改革を進めていったらしい。そんな人物を誰が演じるのかと思ったら、草なぎさんの登場である。録画放送を後から見ていたので、話題についていけなかったのだが、視聴をして納得。

まず、衣装が本当によく似合っている。まだ栄一と慶喜は出会っていないけれど、モンスター級に美形男子の吉沢亮さんと"対"になっても、まったく見劣りがない。出演陣では一人だけ演技とは思えないほど、ハマっていた。その立ち振る舞いは華麗を超えて、ひさびさに"流麗"という言葉を使いたくなったほど。

その理由どうやらは単に彼が"歌も踊りもパーフェクトにこなせる人物"としての、賜物というわけではなさそうだ。

アカデミー賞のその先もどこまでも続いていく"努力"

草なぎさんの場合、説明不要の人物像が世間には周知されている。その歴史を追い続けるのは、あまりにもここでは文字数が足りないので個人的な主観を思い返してみたい。

彼を思い返すと、本当にどこまでも"努力"という言葉が浮かんでくる。そのきっかけになったのが、確かどこかのテレビ番組で「個性を出さなくてはいけない」と本人が話していたことだ。その一環として、一時期テレビで放送されていた『チョナン・カン』(フジテレビ系 2001年)があると。流暢に韓国語を話す姿は、てっきり趣味の延長戦かと思っていたけれどそうではなかった。

当時、SMAPといえばする事なす事、すべてが斬新な国民的アイドルグループ。多忙な中、時間を削って外国語をマスターまでしなくても、仕事はグループの周りを駆け巡っていただろうに。きっと存在だけではまかり通ることのない、凡人には絶対に分からない緊迫感があったのだ。だから彼が数年前に泥酔事件を起こしたときも「普段は計り知れないストレスがあるよね……」と私も含めて周囲は、彼の行為を責めることはなかったことを思い出す。それだけファンにはない人も"努力"が伝わっていたのかもしれない。

でも結果的に『チョナン・カン』の数年後に、日本には韓流ブームが起きた。30年以上、淡々と"努力"を続けていた草なぎさんは映画『ミッドナイトスワン』で、主演男優賞を受賞した。もう十分すぎるほどに個性もある。いつだって、世間の期待を良い意味で裏切るような、名作をこの世に残してきた。

多くを語らず、先見の目を光らせて時流を読む。その姿勢、まるで徳川慶喜そのものだ。この役がひどく似合うのも、そのせいなのだろうか。

ツラツラと格好いいことを書いたけれど、実はSMAP、生まれて初めて好きになったアイドルだった。で、でも、ごめんなさい……森くん推しだったので、彼の記憶がない。申し訳ない。