幼少期から熱血ドラマオタクというライターの小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。第37回は女優の桜井ユキさんについて。現在、ドラマ『G線上のあなたと私』(TBS系)に出演する桜井さん。数年前からずっと気になっていました。出演者の中にものすごく美人なのだけど、得もいえぬ雰囲気を漂わせている女優さんがいること。それが桜井さんでした。2020年はきっと跳ねる予感がするので、バイプレーヤーでいてくれるうちに書かせていただきます。

アイドルオタ、婚約破棄と不幸を背負って

  • 桜井ユキ

    桜井ユキ

婚約破棄、無職、彼氏なしと三重苦を背負った小暮也映子(波瑠)が見つけた趣味はバイオリン。教室で出会った大学生の加瀬理人(中川大志)、専業主婦の北河幸恵(松下由樹)。年齢も性格もまるで違う3人が奏でる、新しい自分とそして恋の行方は?

というのが『G線上のあなたと私』のあらすじ。物語は終盤を迎え、也映子と理人に恋の予感がしたり、何かと心を騒つかせる展開を見せている。この作品で桜井さんはあらすじに提示した3人が通う、バイオリン教室の先生・久住眞於役。でもただ教えているだけではなく、かつては理人の兄の婚約者だったという背景がある。それが浮気相手を妊娠させて、結婚は破談になり独身に。当初、彼女に好意を抱いていた理人は、距離を縮めるために教室へ通う。

眞於にはさらなる不幸が襲う。手に病気が発覚して、バイオリニストとしての生命も絶たれることになるのだ。そして教室を辞めて、姿を消そうとする。

……ややこしい設定なのである。もう不幸のサンドイッチ状態。でも眞於には不幸が次々に投げられていく、という状況が観る側の心をそそる。そう、私が見ている限りではあるけれど、桜井さんには影のある役が非常に似合う。

今夏、桜井さんはドラマ『だから私は推しました』(NHK総合)で初主演を飾った。これも婚約者に捨てられるという設定から物語はスタート。そしてついハマった先が地下アイドルの追っかけ。それも仕事も退職に追い込まれて、警察の事情聴取を受けるところまで自分の生活を捧げてしまう。

アイドルオタク、婚約破棄、病気。闇を抱えていそうな女性の役を、桜井さんは見事に手中にしていた。桜井さんの演じる恋は、2作連続で不幸から始まっている。これは選ばれた人なのだ。

伏せ目がち、そして物憂げな仕草がそそる

華やかさ、聡明さというのはドラマの中でも目立つ。それらを持ち合わせた人だからこそ主役として輝く。でも薄幸さを放つ、というのは、それらとは一線を画す。違った目立ち方をする。

これまでの薄幸女優といえば、代表格として木村多江さん、吉田羊さん、戸田菜穂さんなどを思い出す。みなさん、それなりの人生経験を経たクールな顔立ちが特徴だ。でも桜井さんは彼女たちとは対照的。こぼれそうな大きな瞳、スレンダーで完璧なスタイル。まだ結婚経験もない、32歳で期待と希望に満ち溢れている。一見すると、女優として華やか路線を歩いているようにさえ見えてくるのだが、醸し出すムードはどこかに哀愁を漂わせている。

そして演技に入ると一気に哀愁は増量する。『G線上のあなたと私』でも、伏せ目がちにタメを作って吐くセリフ、ドキドキしたなあ。

「人を好きになるとか、本当、暴力です」

「(好きな相手に)気にしてもらいたいなら、待っているだけじゃなくて、誰かのスペシャルになる努力をするべき。自分からはなにもせず、察してほしいというほうがワガママ」

彼女がセリフを放つことで、ひと言ひと言に違和感を感じることのない、妙な残り香がする。これが癖になる。普通の美しさに、人は食傷気味になる時もある。そんな時に現れた、新・薄幸女優の美しさを2020年も見守りたい。行く末はホラー映画出演か、それとも……? 

小林久乃

ライター、編集者、クリエイティブディレクター、撮影コーディネーターなど。地元タウン誌から始まり、女性誌、情報誌の編集部員を経てフリーランスへ。エンタメやカルチャー分野に強く、ウエブや雑誌媒体にて連載記事も持つ。企画、編集、執筆を手がけた単行本は100冊を超え、中には10万部を超えるベストセラーも。著書『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ刊)が11月29日(水)発売。静岡県浜松市出身。正々堂々の独身。