世の中の大半の仕事は、人がいることによって成り立つ。そもそも取引先がいなければ仕事の受注がないわけだし、上司や先輩のサポートもなくいきなりバリバリと業務はこなせない。

多くの他人が関係してくる以上、相手に対する敬意やマナーが必要となってくる。だが、職場で使用するツールの使い方や業務上必要なタスクを先輩社員からレクチャーされることはあっても、ビジネスマナーをイチから教えてもらった機会がある社会人は少ないはずだ。そのような人は、無自覚のうちに礼節を欠いた態度をとってしまい、ビジネスチャンスを逸してしまう恐れがある。

そこで本連載では、筑波大学および札幌国際大学の客員教授を務めながら、大学や官公庁などで「職場に活かすおもてなしの心」をテーマとした講演や研修を手掛ける江上いずみ氏に、社会人として知っておくべきビジネスマナーを解説してもらう。

  • スーツの着こなし、正しくできていますか?(写真:マイナビニュース)

    スーツの着こなし、正しくできていますか?

第一印象を高めるための「5原則」とは

就職活動が解禁になり会社訪問を始める就活生にとっても、また就職先にデビューする新社会人にとっても、新たな夢の実現に向けての大切な時期を迎えました。おそらく胸を高鳴らせながら緊張した面持ちで、新しい世界への第一歩を踏み出そうとしていることと思います。

そういった夢いっぱいの若者を迎え入れる上司や先輩たちは、人柄や性格、能力と同等に、いえそれ以上に「第一印象」を重要視していると思います。その第一印象を高めるための「5原則」があり、大きく「視覚」からくる印象と「聴覚」からくる印象に分かれます。

視覚からくる印象は「身だしなみ」「表情」「態度」、聴覚からくる印象は「挨拶」「言葉遣い」です。一度悪い印象を与えてしまうと、それを覆すにはその何倍もの時間がかかってしまいますから、初対面で良い印象をもってもらうことは新社会人としてとても重要なことです。そこで、記念すべき連載第1回として、「身だしなみ」についてお話ししたいと思います。

「おしゃれ」と「身だしなみ」の違い

就活の面談においても、新入社員として職場に行く際にも、初対面の方々に良い印象を与えるための「身だしなみ」はかなり気を配る必要があります。では「身だしなみ」とは何でしょうか。

「おしゃれ」と「身だしなみ」は違います。「おしゃれ」は自分のためにすることです。例えば自分の好きな洋服を着て、自分の好きな香水をつけることです。これに対して「身だしなみ」は自分のためだけではなく、「一緒にいる人に不快な想いをさせないこと」です。自分が好きな香水の匂いを他の人も好ましいと思うとは限りません。もしかしたら不快に思う人がいるかもしれないと思えば、職場にキツい香水をつけていくべきではない、ということです。

身だしなみの基本は以下の3点です。

1.清潔であること……これはすべての場合の基本です。どんなに素敵なスーツを着ていても、ワイシャツの首回りや袖口が黄色く変色していたらそれだけで台無しになってしまいますし、肩にフケがいっぱいという男性ではどんなにイケメンでも魅力は感じないでしょう。

2.控えめで機能的であること……大勢の就活生や新社会人がいる中で、少しでも目立とうと派手なスーツを着て行けば、上司や先輩から「まだ仕事も覚えていないのに格好だけは一人前だな」と思われてしまうかもしれません。就活生や新入社員は「スーツで個性を出す」べきではなく、「控えめな中にも何かキラリと光るものがある」と思われることで評価されなければなりません。また、女性がピンヒールや大きなブーツを履いて職場に行くのも「機能的である」とは言えませんから、靴選びも大切なポイントのひとつです。

3.常識的で誠実さが感じられること……職場にふさわしい格好であることは不可欠ですから、「この人に仕事を任せたい」「この人を採用してみたい」という誠実さをアピールすることが大切です。そういった意味でも就活生や新社会人は、悪目立ちせず、好印象を与えることのできるスーツを選ぶべきでしょう。

では、具体的に好印象を与えるスーツとはどのようなポイントで選べばよいでしょうか。昨今の就活生は本当に100%近い人が黒いスーツを着て会社訪問をしています。

しかし、ひとたび社会人になれば、黒は「冠婚葬祭に着用する色」というイメージが強いため、黒ではなく、紺や濃いグレーなどいわゆるダークスーツを着る方が好ましいといえます。濃紺やダークグレーは落ち着いた印象、知的なイメージを与えます。新人や若手のうちはダークカラーのスーツを選び、年数やキャリアを重ねるにつれて、季節に合わせた明るいグレー系のスーツも着こなせるのが理想的なスーツ選びと言えます。