あなたは文系? 理系? 高校時代に選ぶ方が多いこの二択。しかし文系だけれど社会に出てからIT業界に携わる「文系IT社員」という働き方もある。文系とIT、一見相反するように見えるが、顧客とエンジニアの橋渡しをしながら課題を解決する彼らの仕事とは……?

この連載では、AIと金融工学を活用したWebプラットフォームを開発・運営するMILIZEに所属する著者による、実体験をベースにした「文系IT社員の日常」を紹介する。

文系大学を卒業後、銀行の営業マンとして10年務め、IT企業に転職した主人公「三浦悟」は、データを活用して顧客の課題にどう応えていくのだろうか。

前回の話はこちらから

NDA(秘密保持契約)は各社によってフォーマットが異なる。会社によっては内容が細かい企業もあれば、そこまで細かくない企業もある。私・三浦が働く「mirai diagram」のNDAは多分中間位の内容だと思う。

前回、肉の売り上げ予測をして欲しいと依頼を受けたスーパー「フレッシュネス」の企業情報等を盛り込み、NDAの準備が完了したので、法務担当にメールで送って確認してもらうことになった。

さて、NDAの準備もできたことだし、この件を担当してくれるエンジニアの大野に、事前に今回の内容を話しておくとしよう。

大野は32歳のデータサイエンティストである。趣味はフットサルで、色々なことに興味を持つ男性である。同年代ということで私とはウマが合うのでよく一緒に食事に行ったり遊びに行ったりしている。

三浦「フレッシュネス様の件、もう聞いている?」

大野「なんとなく聞いてはいるよ。AIを活用してスーパーの肉の売上予測を行うんだよね。昔、お惣菜の需要予測を行った経験が活きてきそうだ」

三浦「AIを使った肉の売り上げ予測を行うことで予測精度を全体的に高め、フードロスを減らしていきたいというのが先方のご意向なんだよね。今はNDAの準備をしていて、締結後に先方から肉の過去データを頂く予定になっているよ」

大野「なるほどね。肉は普段深く考えずに購入するけど、よく考えたら時期とかチラシの影響とか色々な要因で売上は変わるなあ」

三浦「確かに、クリスマスなんかはターキーレッグがよく売れるだろうし。あとは土日の方がまとめ買いをする家族が多そうだから、売れそうな気がする」

大野「そうそう。その辺りの話は仮説として使えそうだよね。あとはチラシに掲載していたとしたらどの位の大きさで掲載していたかとか、ライバルのスーパーで肉の特売を行っていたかとかそういう情報もあると良いかな」

三浦「その辺りの情報もあると良いけど、どこまで昔から情報を蓄えてきているかによって変わってくるよね。ライバルスーパーの情報の蓄積は難しい気がするけど、自社のチラシの過去データ位はあるかなあ。チラシへの掲載面積と売上は常識的に考えて正の相関関係(※メモ1)にあるはずだからね」

文系IT社員メモ

■メモ1「正の相関関係」とは?
2つの確率変数の間にある線形な関係の強弱を測る指標。相関係数は無次元量で、−1以上1以下の実数に値をとる。相関係数が正のとき確率変数には「正の相関」が、負のとき確率変数には「負の相関」があるという。また相関係数が0のとき確率変数は「無相関」であるという 。

大野「あとは天候、周辺のイベントなんかも影響してくるね。例えば夏なんかだと天気が良いとバーベキューをしに行ったり、キャンプに行ったりする人が増えるし。また近隣の小学校で運動会があると、お弁当のおかず用に買う人も増える」

三浦「バーベキューいいね。天気もそうだけど気温も関わってきそうだな。バーベキューはやっぱり暑い日でないとね。寒いと面白くないしね」

大野「データは先方からはいつ頃に頂けそうかな?」

三浦「今NDAの準備をしていて、それを締結してからだから2~4週間後位じゃないかな。過去3年分位のデータを頂ければ良いかな?」

大野「どんなに少なくても2年分は欲しいね。1年分だけだとその年がたまたま異常な年の場合に参考にならないんだ。例えば、極端に肉が売れたり、逆に売れなかった年だと比較しようがないから。あと必ずデータは通年分ね。季節毎での売上の変化も見ていきたいんだ。それから可能な限り、地域差もあるはずだから全店舗分欲しいな」

三浦「2年以上の通年分で、全店舗分で……他には条件はある?」

大野「そうそう。あとは廃棄データも欲しいかな。売れた肉の量はレジでのPOSデータ(※メモ2)から把握はできると思うけど、売れ残って廃棄になってしまった肉のデータがあればより正確な肉の量の予測ができるから」

文系IT社員メモ

■メモ2「POSデータ」とは?
お店のレジで商品が販売されたときに記録されるデータ。 買われた商品や、商品を買った人の属性などを分析でき、それを活用して販売に活かすことができる。

三浦「売れた肉の量と廃棄した肉の量から各店舗から工場への肉の発注量が分かるわけね。分かった。先方にデータをお願いする時にはその辺りも留意して依頼するよ」

大野「なんか燃えてきた。今から肉の売り上げ予測に関係しそうな書物とか読んでおくよ」

そう言うと大野は不敵な笑みを浮かべた。

三浦「それは頼もしい。フレッシュネス様から肉の過去データを頂けたら連絡するね」

この後、法務担当よりNDAについては問題ないとの回答が来たため、フレッシュネスとNDAの締結を行った。それから2週間後、都内23店舗の過去2年分の肉の販売データ、廃棄データが先方より送られてきた。

さて、ここからが本番である。データを元にいかに分析していくかが私達の仕事だ。早速、データを大野に送って共有する。

三浦「データはさっき君に送ったけど、分析にはどれくらい時間かかりそうかな?」

大野「データは確認したよ。腕の見せ所だね。1週間くらい時間をもらっても良いかな? データをじっくり見てみるよ。燃えてきたぜ」

三浦「オッケー。先方には1~2週間、時間を頂けるよう連絡しておくね」

こうして1週間が経過した。そろそろ大野の分析が終わる頃である。結果はどうなっただろうか……。

次回に続く