英語教育界では「中学からの英語教育では手遅れだから、小学校から英語教育を始めよう」というわけで、来年度から小学5、6年生が週に1コマ英語を勉強することになっている。10才から英語を学べば英語を使える日本人が育つはずというわけだ。

ところが10才からではすでに遅いかもしれない、というニュースが飛び込んできた。

先週、理化学研究所(略して理研)とフランスの研究機関との共同研究成果が発表された。それによると、英語耳ならぬ日本語耳は生後14か月にすでに完成しているというのだ(理研からのリリースはこちら)。

詳しくはこの記事を読んでいただくとして、研究成果の概要を説明しよう。

まず日本語耳とは何か? 日本語と外国語の違いのひとつは、日本語は母音と子音がセットになった音韻体系であるということだ。英語では子音が連続する単語がある。たとえば、springのsprは子音が3つ続いている。これを日本人は「スプリング(su-pu-ri-n-gu)」と発音してしまいがちだ。すべての子音に母音を加えて発音してしまうのだ。springが音節が1つなのに対して、スプリングでは5つになるので、外国人には絶対通じないらしい。

個々の母音、子音の発音の違いもさることながら、音節の数が通じる/通じないに大きく影響を与えるのだ。だから英語の場合も音節の数に注意して発音することが大事。これはリズムと言ってもよい。よくあるでしょ、"英語はリズム"という教え方。あれは正しいのですよ。springは音節は1つなので、手拍子をパン、パン、パンとしながら、spring、spring、springと、一拍で発音すべきなのだ。

で、理研の研究成果だが、生後8カ月の赤ちゃんと生後14カ月の赤ちゃんに対して子音のみの音と、それに母音を加えた音を聞かせたところ、フランス人の赤ちゃんはすべて両者を区別できたのに対して、日本人の赤ちゃんは14カ月経つと区別できなくなっていることが、実験によりわかったというのだ。つまり、母音を自動的に挿入しながら音を聞くという「日本語耳」を14カ月の赤ちゃんがすでに獲得していたということがわかったのだ。

このニュースを聞いた日本人の反応は「これで自分が英語ができない理由がわかった」とか、「で、どうすればよいのだ」「自分の赤ちゃんに英語を聞かせまくればよいのか」というもので、その反響はTwitterなどで大きいものがあった。

だが、ちょっと待ってほしい。この研究結果は必ずしも「日本人は英語はあきらめなさい」というものではない。今までは子供が文字を覚えていくことにより、母音を自動的に挿入するということを脳が覚えていくのだろうと考えられていたのだが、14カ月という文字を知らないころからすでに日本語の音韻体系に則した聞き取り能力を獲得していたという事実が研究成果なのである。一般人からすると、ただそれだけなのである。

理研はニュースリリースの最後で次のように述べている。今後の研究により、英語のどこが日本人の英語習得を困難にしているかがわかれば、それを克服する教授法もわかるはずである、と。

よく考えれば当然である。幼稚園くらいからアメリカに渡り、すっかりバイリンガルになって帰国する日本人がいることを私達は知っている。いったん日本語耳になったとしても、また英語漬けの生活になれば英語耳ができるのだ。ただし大人になってから渡米して英語漬けの生活をしても英語耳になるのは難しいことも同時に経験的に知られている。

だから私たちが知りたいのは、

  • 何才までなら英語漬けの生活により確実に英語耳になれるのか
  • 英語漬けといっても1日どれくらい英語に触れれば英語耳になれるのか
  • 日本にいながらにしてどのようにすれば英語漬けに相当する生活ができるのか
  • できればその時間は短ければ短いほど良く、苦労は少ないに越したことはない

といったことだ。これらが今後の研究で明らかになってほしいと思う。

来年度より小学5年生から週に1コマの英語の授業が始まるわけだが、果たして英語耳になれるかどうかは不明だ。大人が週に1回英会話スクールに通うようなものだとするとたいした効果は望めないが、そこは子供のことだから、柔軟な頭で英語を吸収していってほしいと思う。と同時に、授業以外でも家庭でも英語に触れるような機会を持つことが英語好きになる近道だろうとも思う。

もっとも、もし私に赤ちゃんがいたら、普段から英語のCDを流しっぱなしにして子音の連続する音にも慣れさせておくといった英才教育をしてしまいそうで怖い。

私達大人としては、新たな研究成果により画期的な英語耳養成教材が生まれるのを心待ちにしながら、今あるさまざまな英語教材や英語習得法のどれかを信じて、今日も愚直に英語を聞き続けるしかないのである。Let's listen to English!

著者紹介

本多義則 (Yoshinori Honda)

日立製作所勤務のIT系研究者。10年前に趣味と実益を兼ねて英語学習を再開以来、アナログからデジタルまであらゆるツールを駆使して英語学習に励んでいる。職場では「英語ができる男」と見られているが、実はそうでもない真の実力との差を埋めるべく、英語学習をやめられなくなっている。休みの日の朝は英語のメルマガ執筆にいそしむのが習慣。取得した英語関連の資格は、英検1級、TOEIC955(瞬間最大風速)、通訳案内士(英語)。座右の銘は「あきらめない限り必ず伸びる」。著書に『伸ばしたい!英語力―あきらめない限り必ず伸びる』Twitterアカウントはこちら