大和ハウスグループの物流部門を担う大和物流は、約50の物流拠点に約500台の車両を配して住宅・建築資材の調達から現場納入、廃材の産業廃棄物運搬といった建材物流のサプライチェーンを構築している。これに加えて近年は物流サービスの外販も進め、その比率を高めることで業績拡大を狙っているが、大和ハウスグループ外の顧客を獲得するには安全・安心を提供できる運行管理体制の確立が重要だ。

そこで同社は2013年後半より順次、乗務員にスマートフォン(ソフトバンクテレコム提供のAndroid端末)を配付して、新たな安心・安全サービスの構築に取り組んでいる。その概要は下記の動画の通りだ。


荷の積み下ろしや休憩の際にはスマートフォンから作業内容を入力する

運送業界のコンプライアンスは重要課題

現在の運送業界では交通事故防止の観点から、乗務員の連続勤務時間や休憩時間などが法令で厳しく定められている。

取締役 業務本部 本部長 作間寛氏

「運送会社には乗務員の運行管理を徹底して、事故を未然に防ぐ対策が強く求められています。荷主様に対して、安心して荷物を預けていただき、それを安全にお届けするサービスを提供していくために、当社では自社で雇用する乗務員への安全教育に努めるとともに、8年ほど前からデジタルタコグラフを導入して安全運転を支援する体制を築いてきました」と語るのは、同社 取締役 業務本部長の作間寛氏だ。

デジタルタコグラフ導入当初の目的は、タコグラフのデータを改ざんできないデジタル形式とし、人事・給与システムと連動させることで、サービス残業のない労働環境を実現することだった。こうしたコンプライアンスに加えて今回は安全・安心の強化を期してデジタルタコグラフの機器更新に際して、より正確な運行管理を実現するためにスマートフォン対応モデルを採用し、運行管理システムの独自開発に着手した。

デジタルタコグラフによる時間管理の精度を上げる

従来のデジタルタコグラフはリアルタイムに時間管理を行えない課題があったと、安全品質推進部 安全品質推進グループ長の坂本和隆氏は指摘する。

安全品質推進部 安全品質推進グループ グループ長 坂本和隆氏

「乗務員が乗務を開始するとデジタルタコグラフが自動で記録を開始し、休憩や荷降ろしなどの際にはテンキー式の操作パッドから都度作業内容を入力するのですが、乗務員は現時点での走行時間や休憩時間の累計をリアルタイムに確認できませんでした」(坂本氏)

乗務員は営業所に戻って運行記録をパソコンから出力するまで、自分は規定どおりに休憩をとっていたかなどは分からない状況で、現場では各自がメモを取りながら時間管理を行っていた。

「乗務員がいつでもリアルタイムに自身の休憩時間の累計などを確認できるシステムとして、スマートフォン対応のデジタルタコグラフを導入しました。スマートフォンにAndroid端末を選択したのは、アプリ開発の容易さが最大の理由です。今回自社開発した運行管理アプリは、スマートフォンとデジタルタコグラフが無線ネットワークを通じてクラウドサービスでデータを共有する仕組みです。デジタルタコグラフが記録した時間データやスマートフォンから入力した作業内容は、いつでもスマートフォンや営業所のパソコンから参照できます。乗務員はより正確に休憩や乗務などの累積時間をリアルタイムで確認できるようになりました」(坂本氏)

一日の乗務を終えてから運行ルールに適合していたか否かを確認する“結果管理”から、乗務員自身がリアルタイムで行う“予防管理”への移行が実現した。

乗務員を監督する運行管理者にもメリット

浦安第二営業所 業務主任 斉藤薫氏

営業所で乗務員の業務スケジュールや運行実績を管理監督する運行管理者にとっても、新しい運行管理システムはメリットが生まれた。運行管理者の斉藤薫氏は「乗務日報をパソコンから紙に出力すると、各乗務員の乗務時間の累計が表示されるので、その後の業務割り当てがやりやすくなりました。以前はパソコンから特別な操作をしないと累計時間は計算できなかったので、その乗務員が今月はあと何時間乗務できるか、次は何時から乗務可能になるか、といった状況を把握するのが大変でした。ほかにもエコドライブの達成度や安全運転の評価が得点として出力されるので、乗務員間での競争意識も生まれています」と業務改善を実感している。

乗務員の石渡貴弘氏はスマートフォンにインストールされた運行管理アプリの使い勝手を次のように語る。

「タップ操作でメニューから項目を選ぶだけなので活動内容の入力はとても簡単です。休憩時間の累計はいつでも確認できるようになり、自分でメモを取るわずらわしさがなくなりました。またスマートフォンになって便利になったのは、車両から離れても入力操作できることです。以前のデジタルタコグラフでは活動内容を入力するためにいちいち運転席へ戻る必要がありました。スマートフォンは電話やメールといった連絡手段のほかにも、地図アプリはカーナビ代わりによく利用しています」(石渡氏)

乗務員 石渡貴弘氏

産業廃棄物マニフェストをペーパーレス化

デジタルタコグラフをスマートフォン対応モデルに切り替えることでより正確な乗務員の時間管理を実現した同社だが、そもそもスマートフォンを導入するきっかけとなったのは、建築現場から出る産業廃棄物を運搬する際に必要となるマニフェストを電子化する目的だった。親会社の大和ハウス工業が進めているICT導入によるペーパーレス化に連動するもので、建築現場から出る廃材を産業廃棄物として処理する業務をスマートフォンによって電子化した。

産業廃棄物のマニフェスト制度とは、排出業者(大和ハウス工業)が収集運搬業者(大和物流)および処分業者に委託した処理の流れをマニフストに記録して不法投棄を防止するというもの。当初は紙のマニフェストで運用していたが、法令で5年間の保管が義務付けられており、書類の仕分けや実績データの入力、保管場所といった管理業務が大きな負担となっていた。

そこで情報処理センターの運営するネットワーク「JWNET」を介して電子化したマニフェストをやり取する「電子マニフェスト」の採用を決めた。従来は排出業者から紙マニフェストの交付を受け、運搬終了後に報告書を排出業者に送付、さらに処分業者から受け取った報告書を保管するといった煩雑な書類の送付は不要になり、乗務員が産業廃棄物の積み込み、荷降ろしをするその場でスマートフォンから必要項目を入力し、情報処理センターに送信するだけでよくなった。データは情報処理センターに保管されるので、紙マニフェストの送付や保管業務は不要で、年1回の行政への報告も軽減された。

乗務員の安全教育にデジタルタコグラフの記録を活用

同社が開発した運行管理アプリは単にデジタルタコグラフのデータを収集するだけにとどまらず、乗務員の安全運転を支援する仕組みも盛り込まれている。前述の得点表示のほかにも、例えばバックギアに入れてから3秒以内に後進を開始すると評価対象になるといった機能もある。後方確認が不十分なまま後進を開始すると事故のリスクが高まるので、一呼吸おいてから車を動かす習慣づけを徹底するための施策だ。

また今回導入したデジタルタコグラフは、事故発生時の前後を映像として記録するドライブレコーダーとセットになっており、内蔵のジャイロセンサーと連動して急発進や急ブレーキなどの状況も、イン/アウト・カメラの双方からの映像で記録している。こうした映像を収集して、乗務員の集合研修にも活用したいと坂本氏は語る。

さらにスマートフォンのGPSを活用した位置情報システムなども、今後のシステム拡張を進める中で利用を検討しているという。顧客が地図アプリを開くと、荷物の現在地がリアルタイムに表示されるといったサービスだ。汎用性の高いスマートフォンを全乗務員に配布したことで、運行管理やペーパーレスといった業務改善を達成しているが、まだまだ多くの可能性を秘めていると作間氏は語る。ICTを使った安全・安心の追求や適正な労働環境の実現は、運送業界の地位向上や人手不足の解消にもつながると同社では考えている。