アンテナの移送には特注のトランスポータが活躍

ALMAのパラボラアンテナ群は標高約5000mのチャナントール高原に設置されており、これらのアンテナに観測指令を送るコンピュータや、各アンテナで受信した電波信号を処理する設備などもアンテナの近くのArray Operations Site(AOS)と呼ぶ施設に設置されている。ALMAは、現在は、まだ、建設途中であるので、アンテナやその他の機器を開発した天文学者やメーカーの人達がAOSに来て設置や調整を行っているが、完成すると、AOSには、故障を修理したりアンテナの位置を変えたりするメンテナンスクルーだけになるという。

5000mの高地にならぶ20基のパラボラアンテナ(C)ALMA(ESO/NAOJ/NRAO),J. Guarda(ALMA)

このアンテナの移動であるが、なにしろ100tもの重量があるので、独Scheuerle Fahrzeugfabrikの特注の重量運搬車(トランスポータ)が使われている。また、アンテナは1mm以下の精度でアンテナパッドに置く必要があり、このトランスポータは図体は大きいが、非常に微細な位置調整を行うという繊細さを備えている。それに加えて、アンテナの移動中も受信機を冷却する機械式冷凍機を動かし続けるために電力を供給するという機能も備えている。

5000mの高地に立つAOS(山頂施設) (C)ALMA(ESO/NAOJ/NRAO)

アンテナ運搬用に開発されたドイツ製の28輪トランスポータ (C)国立天文台

そして、山頂のAOSで処理されたデータは光ファイバで標高2900mのOperations Support Facility(OSF)に送られる。ここでデータのアーカイブを行うと同時に、サンチャゴのJoint ALMA Observatory(JAO)のオフィスにデータを送る。サンチャゴでは、多数のアンテナペアからの信号を総合して2次元の電波地図を作製し、専用回線を使って日米欧の拠点に観測結果を送る。また、生の相互相関データも送られてくるので、天文学者は、自分独自のデータ処理を行って注目する現象がよりよく見えるようにデータ処理することもできるようになっている。

OSFで組み立てた12mアンテナをトランスポータでAOSに向けて運び出すところ (C)国立天文台

ALMA全体の開発、建造費は約1000億円で、日本は、そのうちの約250億円を負担し、毎年の運用経費を約30億円負担することになっている。ALMAの使用に関しては、ホスト国のチリには10%の観測時間が割り当てられ、残る90%は、東アジアと米欧の出資額に応じて観測時間が配分される。ALMAを使って観測を行いたい天文学者は、まず、JAOの観測提案の公募に応募する。集まった観測計画案は著名な天文学者などで構成される委員会でその観測の科学的重要性が評価され、得点づけが行われる。そして、日本の研究機関に所属する天文学者の観測提案は、東アジアの割り当て時間内で得点の高い順に採択されて、観測時間が割り当てられる。観測計画が承認されると、割り当て時間の範囲で観測の手順書を作成することになる。

ALMA望遠鏡の操作は現地の運用スタッフが観測手順書に従って行うので、天文学者は現地での観測に出向く必要はなく、日本で待っていれば観測結果が送られてくるというシステムである。

66基のアンテナの合計の消費電力が約5MWで、それにAOSやOSFの消費電力が加わる。また、 ALMAの建設予算は約1000億円とのことで、全体的な金額、消費電力は「京」スパコンとおおむね同じクラスの設備である。しかし、「京」スパコンが世界一となったのは1年間で、更新までの寿命も5年くらいであるのに比べて、ALMAはミリ波観測のトップレベルの施設として少なくとも30年間は使われる予定である。その意味では「京」よりずっと長持ちするので割安である。

(次回は9月5日に掲載予定です)