入力デバイスというとスイッチやダイヤルが一般的だが、軍用機では変わった入力デバイスを使うことがある。今回は、そんな話を取り上げてみよう。

音声入力の必要性

まず、音声入力だ。コンシューマー向けの機器では、カーナビにおける利用がもっともポピュラーではないだろうか。

では、どうしてカーナビで音声入力が使われるのか。それは、安全性との関係による。カーナビに目的地を入力するために、いちいち画面を見ながら手作業で名称を入力する方法は、停車しているときでなければ使えない。走っているときにそんなことをやられたら危なくて仕方がないし、事故を起こせば本人だけでなく周囲のクルマにも累が及ぶ。

その点、音声入力なら正面を見たまま、ステアリングを握ったままで操作できるので便利だ。ただしひとつ問題があって、誤認識が少なくない。筆者のクルマに付いているカーナビも音声入力機能付だが、一発で認識してくれると「おおお !」と驚くぐらいだから、あとは推して知るべし。

さて。その音声入力が飛行機とどう関わってくるか。主として出番があるのは戦闘機である。民航機や輸送機であれば、「両手両脚がふさがっていて超多忙、音声入力ぐらいしか手がない」という事態は滅多に起きない。あったとしても、何か緊急事態が起きたときぐらいだろう。

ところが戦闘機の場合、戦闘任務中は両手も両脚も使っている。しかも、両手を操縦桿やスロットルレバーから離さないで済むように、必要なスイッチ類を全部操縦桿やスロットルレバーに取り付けてしまう、いわゆるHOTAS(Hands on Throttle and Stick)が一般化しているぐらいだ。手を離して計器盤のスイッチを操作していたら、それだけでもたついて命に関わる、というわけだ。

実際、組んずほぐれつの格闘戦をやっているとか、地上から飛来する地対空ミサイルをかわそうとしているとか、地上にいる小さな目標を見つけ出そうとして躍起になっているとかいう具合に、戦闘機パイロットが多忙になる場面はいろいろ考えられる。そうなれば、操縦桿やスロットルレバーを握ったままでセンサーの操作や兵装の発射・投下を指示できるHOTASのメリットは明白だ。

ところが、「それでも足りない」となったらどうするか。すでに両手と両脚はふさがっているのだから、残された手段は音声入力ぐらいしかないわけだ。だから「将来の戦闘機では音声入力を」という話は1980年代から延々といわれていた。実際、航空自衛隊のF-Xで候補になったユーロファイター・タイフーンみたいに、音声入力機能を備えた機体もある。

音声入力の難しさ

ところが冒頭で書いたカーナビのお話でお分かりの通り、音声入力には「いかにして誤認識を避けるか」という厄介な問題がある。空中戦の最中に、たとえばレーダーの動作モードを切り替えようとして音声指示を発したら、誤認識によって意図していない動作をしてしまった、なんていうことになったのでは生死に関わる。

もちろん、日本全国のさまざまな地名や施設の名前を認識しなければならないカーナビと比べると、戦闘機の音声入力で認識しなければならないコマンドの数はずっと少ないと考えられる。それに、たいていは英語ないしは英語みたいなものだろうから、限られた単語に対してチューニングを徹底する手間は、カーナビのそれと比べれば少なくて済むだろう。

それでも、現場のパイロットが音声認識に全幅の信頼を置いてくれるところまで追い込むのは、あまり簡単ではなさそうだ。昔と違い、パイロットごとに専用機を割り当てているわけではないので、機体ごとにパイロットに合わせたチューニングをやるわけにも行かないのである。

それに、戦闘機は輸出商品でもあるから、さまざまな国のパイロットが乗る。英語のコマンドだけ受け付けるといっても、きれいな英語を喋る人ばかりとは限らず、むしろ訛った英語を認識させられる可能性の方が高いのではないか。しかも空中戦の最中となればパイロットは気が立っているから、普通の発声だけでなく、怒鳴り声だって認識しなければならないだろう。

頭はどっちを向いている?

これも軍用機限定の話だが、パイロットの頭の向きを検出する、という入力デバイスがある。何に使うのかというと、ヘルメットのバイザーに外部映像や照準の情報を投影する場面だ。

たとえばF-35にはAN/AAQ-37 EO-DAS(Electro-Optical Distributed Aperture System)というメカが載っていて、機体の各所に取り付けた光学センサーの映像をヘルメットのバイザーに表示する。だから、パイロットが下を見れば、あたかも床を透過したかのように機体下方の映像を見ることができる。そこのところの開発が難航の一因になっているのだが、それはともかく。

EO-DASは最先端・開発中のメカだが、もっとポピュラーなところでは、敵機の方を見て空対空ミサイルの狙いをつける、いわゆるHMD(Helmet Mounted Display)というデバイスもある。攻撃ヘリコプターで流行っていたが、最近では格闘戦用空対空ミサイルの狙いをつける手段として戦闘機でも導入が増えている。

EO-DASにしろHMDにしろ、実現するにはパイロットの頭の向きを検出するメカが必要だ。どっちを向いているかが分からなければ、EO-DASは何の映像を表示すればいいのかが分からない。HMDにしても、正しい目標に狙いをつけられなくなるから、ミサイルに目標の位置情報を指示することができない。

そこでどうするのかというと、ポピュラーなのはヘルメットに磁石を仕込んでおく方法だ。頭の向きが変われば磁場の変化が生じるから、それをセンサーで検出する。それで上手くいくのかと疑問に思ったが、メーカーの方によると上手くいくのだそうである。

磁石以外のデバイスを使う方法もあるが、なんにしてもヘルメットにセンシング用のデバイスを組み込むところは同じだ。タイフーンのパイロットが使うヘルメットは、表面にイボイボを並べた珍妙な形をしているが、これも位置検出のためのデバイスを組み込んであるためである。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。