尾輪式の航空機なら、最初から尾部が地面についた状態になっているから、しりもちは無関係の問題である。ところが三車輪式の航空機では、離着陸の際に機首を引き上げるため、引き上げの度が過ぎると尾部を地面に擦ってしまう事故が起きる。それを防ぐためにどうするか。

戦闘機の着陸 vs 民航機の着陸

航空祭などの場で、F-15、F-16、F-2といった戦闘機の着陸を御覧になったことがある方ならおわかりかと思うが、機首を大きく上げた状態で進入・接地している。接地した後もしばらくその姿勢を保ったまま滑走して、主翼やエアブレーキの抵抗で速度が落ちてきたところで、機首を下げて首脚を接地させる。

もちろん、機首を上げすぎれば尾部を滑走路に擦りつけてしまうが、姿勢計をちゃんと見ていれば大丈夫。それに、戦闘機は主脚から尾部までの距離が比較的短いので、機首を大きく上げてもしりもちは起こりにくい。

着陸した瞬間のF-15Cイーグル。「えっ」というぐらい機首を高く上げている。このまましばらく滑走して速度を落とした後に、首脚も接地させる Photo:USAF

民航機の着陸を空港ターミナルビルの展望デッキあたりで眺めていると、戦闘機ほど強烈な機首上げは行っていないのがわかる。離陸の時も着陸の時も、もちろん機首の上げ方は比較的おとなしい。

下の写真はボーイング777-300が着陸した瞬間。数ある民航機の中でも、とりわけ胴体の長さが際立つ機体である。本来なら後部胴体と地面の間には十分な余裕があるのだが、わずかな機首上げでも後部胴体と地面の間の間隔にはかなり影響しそうだ。

主脚を接地させた瞬間のボーイング777-300。3軸6輪ボギーのうち、いちばん後ろの車輪だけが接地した状態。このすぐ後に6輪とも接地する

民航機は胴体が太いから、厳密にいうと尾部というより、後部胴体の下面を擦りつけるかどうかという話になる。もちろん、姿勢計をちゃんと見て適切な姿勢を保っていれば、尾部を滑走路に擦りつけるような事故は起こらない(戦闘機の場合と同じだ)。

その、普通なら起こらないことが起こったのが日本航空のB747による「しりもち事故」である。そして、その際に発生した機体の損傷を修理するプロセスに問題があったことが、1985年に発生した日航123便墜落事故につながったとされている。

テールスキッド

この話はいずれ回を改めて書くつもりだが、民航機では同じシリーズの機体で、定員が異なる複数のモデルを用意するのが普通だ。例えばボーイング737の現行モデルであれば、-700、-800、-900と3種類のモデルがあり、この順で機体が大きくなって定員が増える。

大型化するといっても、胴体の直径を変えたのではまるっきり別の機体を開発することになってしまうので、それは避けたい。だから、胴体の長さを変える方法で対処する。そして胴体が長くなれば、主脚から尾部までの長さが増える。

ということは、機首上げの角度が同じでも、機体の全長の違いによって尾部を擦るか擦らないかが違ってくるわけだ。短胴型なら尾部を擦らない機首上げ角でも、長胴型だと尾部を擦る可能性が出てくる。

そこで、ボーイング767の長胴型(767-300)やボーイング777の長胴型(777-300)などでは、後部胴体の下面にテールスキッドと呼ばれるパーツを追加した。離着陸の際に、これが降着装置と一緒に出てくる。

着陸進入中の、ボーイング777-300。水平尾翼の前端部付近で後部胴体下面に小さく突き出ているのがテールスキッド

離陸して降着装置を上げた直後のボーイング777-300。上の写真と見比べてみると、後部胴体下面のテールスキッドが首脚や主脚と同様にしまわれている様子が分かる。なお、写真のタイミングではまだ首脚も主脚も上がりかけで、少し外部に残った状態。だから収納室の扉は開いている

実はMRJにもテールスキッドが付いている。左下で胴体下面に突出しているのがそれ

テールスキッドは「万一の備え」だから、通常は出番はない。機首上げ角が過大になり、尾部を擦ってしまいそうになった時に、胴体下面が直接、地面に接するのを避けるのが目的だ。

だから、テールスキッドと主脚を直線で結ぶと、ギリギリで胴体下面が地面に擦らないような位置関係になるはずだ。そういう風に設計しておかないと、ただの役立たずになってしまう。

同じようなメカを持っていた昔の機体として、ツポレフTu-95ベア爆撃機をベースにして胴体を大幅に改設計した旅客機、ツポレフTu-114がある。このツポレフTu-114は、後部胴体下面に2個の車輪を持つ収納式テイルバンパーを備えていた。これも万が一の「尻擦り」に備えたものだ。

「爆撃機をベースにした旅客機 !?」とビックリされるかもしれないが、アメリカにもボーイング377ストラトクルーザーという例がある。これはB-29爆撃機から派生した軍用輸送機・C-97ストラトフレイターを旅客機に仕立て直した機体。どちらも、主翼やエンジンや主要システムを流用して、胴体を大直径のものに載せ替えるわけだ。

Tu-114の外見はかなり特徴的で、ベースモデルのTu-95ベアと同様に、大直径の二重反転プロペラを使っていた。しかも低翼だから、プロペラが地面に接触しないようにするため、脚柱が異様に長い。脚柱が長ければ尻擦りの可能性は低くなりそうなものだが、それでも心配になるぐらい胴体が長かったということだろうか。それとも離着陸時の引き起こし角度が大きかったのだろうか。

ドラケンと第四の車輪

ボーイング767-300やボーイング777-300のテールスキッドは「万一の備え」だが、最初からそれを使う前提で、後部胴体下面に第四の車輪を追加した飛行機がある。それがサーブ35ドラケン。問題の尾輪は空気が入っていないソリッドタイヤを使っていて、離陸後は他の降着装置と同様に、胴体内に引き込まれる。

ドラケンは着陸後も機首上げを継続して、大きなダブルデルタ型の主翼をエアブレーキ代わりに使い、スピードを落とす。その際に、後部胴体下面に取り付けた第四の車輪も設置させるところが、「万が一の尻擦り防止」のために設けているテールスキッドと違うところ。

つまり、接地直後のドラケンは、首脚は地面に着いておらず、主脚と尾輪だけを接地させた状態で滑走する。接地したときは尾輪式で、減速すると三車輪式に変身、というと言いすぎか。

前述したように、最近の戦闘機は着陸後も機首上げ姿勢を保って行き脚を落とすやり方が一般的だが、ドラケンが登場したのは1950年代の話である(初号機の初飛行が1958年2月15日)。つまり、着陸時の操縦操作という一点について言えば、えらく時代に先駆けた機体だったわけだ。

といっても、これにはちゃんとした理由がある。有事の際に空軍基地が破壊されても作戦行動を継続できるように、ドラケンは高速道路での離着陸を想定して設計された。だから、当初から短距離離着陸性能が求められていて、それでこういう設計と操縦操作になった。

そして、空軍基地以外のところに降りた戦闘機をちゃんと支援できるように、地上支援機材もホームベースとなる空軍基地から別のところに機動展開できるようにしていた。いざという時に他国を頼れないのが永世中立だから、空軍力を生き延びさせてゲリラ的な運用を可能にするところまで徹底する。それがスウェーデン空軍である。