飛行機好きの間で、「レジ」という言葉が飛び交うことがある。もちろん、「お会計をする場所」ではない。個々の飛行機につけられている登録記号のことである。

機体の登録とは

身近なところで、われわれが持っている自家用車に例えてみよう。

筆者はスバル「インプレッサ・スポーツ」の先代モデルに乗っているが、メーカー形式は「DBA-GP3」という。同じ「DBA-GP3」が何万台も作られているので、個体識別のために「車台番号」が付けられている。シリアルナンバーのようなものだ。

しかし、これはメーカー側の管理上の話で、陸運局における「登録」は別の問題。作られた車がオーナーの手元に届き、陸運局の登録リストに載ることで、ナンバープレートが付与される。

つまり筆者のインプレッサは、スバルから見れば「DBA-GP3の車台番号○○」だが、陸運局から見ればナンバープレートの内容で識別される。余談だが、アメリカに行くと「ナンバープレート」ではなく「ライセンスプレート」という。

実は、飛行機も似たところがある。もちろん、メーカーごとの形式やシリアルナンバーがある。さらに、カスタマーごとに異なるコード番号(カスタマーコード)を割り当てて、それを組み合わせることもある。

ボーイング機のカスタマーコードは有名で、日本航空は「46」、全日空は「81」。だから、同じ777-300ERでも日本航空なら「777-346ER」になるし、全日空なら「777-381ER」になる。ただし、ボーイングの近年の機種ではカスタマーコードを廃止している。

このほか、クルマでいうところの車台番号と似た、機体ごとの連番もある。エアバス機なら「MSN○○○」(MSN = Manufacturer's Serial Number)という。日本航空のA350-900を例にとると、1機目は「MSN321」、2機目は「MSN333」、3機目は「MSN343」となる。数字が飛んでいるのは、間に他のカスタマー向けの機体が入っているから。

中部国際空港の「Flight of Dreams」を終の棲家としたボーイング787初号機は、しばしば「ZA001」と呼ばれているが、これも、787の最初の機体を示す内輪の呼称。

一方ではカスタマーがそれぞれ、自国の当局に機体を登録して、登録記号の割り当てを受けている。軍用機も同様で、個々の機体に、それぞれの軍のルールに則った登録記号を割り当てている。

民間機の登録記号は、日本なら、「JA○○○○」という書式。だから「JAナンバー」と呼ばれることもある。「○○○○」の部分は、かつては数字だけで機体の分類ごとに数字の範囲を変えていた。しかし、今は数字とアルファベットの混在が可能。この登録記号が、後部胴体の両側面と主翼の上面・下面に書かれている。

日本航空の場合、「○○○○」のうち最初の桁で機種、次の2桁で機種ごとの連番、最後が日本航空を示すと思われる「J」。最初の数字は、737が「3」、767が「6」、777が「7」、787が「8」となっていた。そこでA350は「9」にするかと思ったら、違う形にしてきた。Xはおそらく、「A350XWB」にちなんだのだろう。

  • 日本航空のA350初号機は「JA01XJ」

全日空機もルールは似ているが、最後は「A」になる。例えば、全日空向けボーイング787の初号機は「JA801A」である。全日空の場合、最初の桁は777が「7」、787が「8」、737が「5」、A321が「1」。A321にはA321ceoとA321neoがあるが、2桁目の数字を変えて区別している。

他社もだいたい似たような付番だが、面白いのがスカイマーク。ここはすべて「JA73○○」で、最後の「○○」を機体ごとに異なるアルファベットとしている。

海外はどうなっているの?

では、海外はどうか。アメリカは「Nナンバー」といわれる通りで、「N○○○○○」という書式。先にも出てきた787の初号機は「N787BA」だった。「BA」は株式市場におけるボーイングのティッカー・シンボルと同じである(アメリカの株式市場では、日本のような番号ではなく、アルファベットで識別している)。

  • ボーイング787の初号機「ZA001」は、登録記号「N787BA」をつけていた

民航機に限らず、軍用機が納入前に民間機として仮登録することもあり、例えばF-22Aラプターの技術実証機・YF-22Aは、「N22YF」「N22YX」という登録記号をつけて飛んでいた。

イギリスは「G-○○○○」、フランスは「F-○○○○」、ドイツは「D-○○○○」、カナダは「C-○○○○」で、「○○○○」の部分はアルファベット。台湾や中国は「B-○○○○」で、「○○○○」の部分は数字。韓国は「HL○○○○」で、「○○○○」の部分は数字。ロシアは「RA-○○○○○」で、「○○○○○」の部分は数字。

こういったルールを頭に入れておくと、登録記号を見ただけで登録国を区別できる。

参照 : 国際民間機登録記号(航空実用事典)

登録記号が変わるケース、変わらないケース

同じ日本のエアライン同士で機体が転籍した場合、登録記号はそのまま、ということがある。

例えば、エアドゥのボーイング767「JA601A」。末尾で「A」でおわかりの通り、もともと全日空にいた機体である。同じエアドゥの767でも「JA01HD」は当初からエアドゥの機体。「HD」は「Hokkaido」が由来だろうか?

日本のエアラインが使用していた機体が用済みになり、海外のカスタマーに売却されると、もちろん日本では登録抹消となる。この場合、当該機は新たな登録先のルールに基づいて、新たな登録記号の付与を受ける。

ついでに軍用機の話も少し書くと。こちらも考え方は同じだが、1つの機体が複数の登録記号を持っている場合がある。それは、アメリカから他国にFMS(Foreign Military Sales)経由で輸出した機体。

FMSの場合、輸出先の国は米軍と契約して、米軍からメーカーに機体を発注する。納入先も米軍で、そこから各国に引き渡す。だからFMS経由で輸出する機体には米軍の登録記号も付いていて、これは航空自衛隊が導入中のF-35Aも同じ。

オーストラリア空軍のF-35Aは親切で(?)、自国の登録記号だけでなく、米空軍における登録記号も併記している。

  • オーストラリア空軍のF-35A(9号機)。首脚収納室扉に登録記号を略記してあるが、上の「155217」は米空軍の登録記号(正式には15-5217)、下の「009」は豪空軍の登録記号(正式にはA35-009)

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。