第162回では、巡洋艦、駆逐艦、フリゲートといった、いわゆる水上戦闘艦(surface combatant)に設けるヘリ発着甲板とヘリ格納庫について、基本的な話を説明した。今回はその続きで、ちょっと変わった構造のヘリ格納庫を紹介しよう。

入れ子式格納庫

第162回で書いたように、水上戦闘艦のヘリ格納庫は上部構造物の一部となることが多い。ところが、艦のサイズや上甲板のレイアウトによっては、ヘリ格納庫の長さを十分に確保できない場合がある。そんな時に登場するのが、入れ子式格納庫。

入れ子式というと何のことかと思うが、要するに伸縮式の格納庫である。外から見ると、外見が段々になっていて、後方に行くほどサイズが小さくなっているので、容易にそれとわかる。

ヘリコプターが発着する時は、格納庫を縮めた状態にして、ヘリ発着甲板のスペースを十分に確保する。発着が終わったら、格納庫を伸ばして十分な格納庫スペースを確保する。つまり、ヘリ発着甲板の前寄りは格納庫でもあり、ヘリ発着甲板でもあり、ということになるわけだ。

着艦したヘリコプターを係止位置まで移動した時点では、当然ながら格納庫に頭を突っ込んだだけで、ヘリコプターの後ろ半分は露出している。そこで格納庫を後方に伸ばして展開すると、ヘリコプターが完全に囲まれた状態になるので、最後に後ろ側の扉やシャッターを閉める。

発艦の際には逆の操作になる。つまり、まず格納庫の後端にある扉やシャッターを開けて、次に格納庫を前方に縮める。するとヘリ発着甲板のスペースが広がるので、ヘリコプターを後方に押し出してから飛び立たせる。

最近では、このタイプの格納庫を使用する水上戦闘艦は少なくなったが、ロシア海軍や中国海軍で使用しているソブレメンヌイ級駆逐艦が該当する。アメリカ海軍だと、過去にドック型揚陸艦やドック型揚陸輸送艦、それとノックス級フリゲートでこのタイプを使用していた。

  • 米海軍のノックス級フリゲート「エインズワース」。入れ子式格納庫の外観がよくわかる一枚 Photo : US Navy

昇降式格納庫

普通、上甲板の下に格納庫があり、搭載機をエレベーターで上げ下げするのは、いわゆる空母型の艦に限られる。ところが何事にも例外はあるもので、過去にアメリカ海軍で運用していたヴァージニア級原子力ミサイル巡洋艦は、艦尾のヘリ発着甲板の下に格納庫を設けていた。

このクラスはヘリ発着甲板にエレベーターを設けていて、降りた機体はそのまま格納庫に降ろす。発艦する時は、まずエレベーターで機体を上甲板レベルまで上げて、それから発進させる。この構造だと、船体内に設けたヘリ格納庫の高さはどうしても制約される。

高さというと問題になるのが、ロシア海軍で使用しているカモフKa-27系列の機体。この機体は2重反転ローターを使用しているので、テイルローターは必要ない。だから長いテイルブームは必要なくて、結果的に全長を短くできる。しかし、メイン・ローターが2段積みになっている上に胴体も高さがあるので、全高は高い。実機を見ると、そもそも機内の床面がずいぶんと高いところにある。

普通なら、背の高い機体を収容するために、ヘリ格納庫の高さも増してやる必要がある。ところがロシア海軍のウダロイ級駆逐艦は、ヘリ発着甲板と比較するとヘリ格納庫の屋根が低く、どう見ても着艦したヘリの高さより低い。

実はこのクラス、ヘリ格納庫の屋根が開くようになっている。着艦したヘリコプターを前進させて格納庫に押し込むのだが、その状態ではヘリコプターの上のほうは、開いた屋根より上にはみ出している。

格納庫内への移動が完了したら、なんとヘリ格納庫の床が下に沈み込む仕組みになっていて、それによってヘリの最上部は屋根より下に来る。その後で屋根を閉じれば収容完了というわけ。

発艦の際には逆に、屋根を開き、床を持ち上げてヘリ発着甲板と同レベルにしたところで、ヘリコプターを後方のヘリ発着甲板に曳き出す。面倒くさいことこの上ないが、重心、重量、あるいはレーダー視界の関係で、上部構造をあまり高くしたくなかったのだろうか。

  • ウダロイ級駆逐艦「アドミラル・パンテレーエフ」。角度の関係で分かりにくいが、左にいるヘリコプターのローター・ヘッドよりも、右にある格納庫の天井の方が低いのがお分かりいただけるだろうか?

ヘリ発着甲板とヘリ格納庫の意外な用途

最後に、余談を1つ。

ヘリ格納庫にしろヘリ発着甲板にしろ、今時の水上戦闘艦にとっては数少ない、「まとまった広いスペース」である。だから、ヘリコプターの格納・整備・発着に使用するだけでなく、他の用途にも活用していることがある。

例えば、艦の就役や退役、艦長の離任・着任など、乗組員が勢ぞろいしなければならない場面がある。すると、100人ないしは200人ぐらいが集まることになるので、相応に広いスペースが必要になる。そこで、ヘリ発着甲板を利用する。

また、観艦式の時は内閣総理大臣、海上幕僚長、防衛大臣などといった「えらい人」が観閲艦に乗り込んでくるが、その際に栄誉礼を実施してお迎えをする。その時は儀仗隊や音楽隊が整列するので、これまた広いスペースが必要になる。そこで、ヘリ発着甲板やヘリ格納庫を利用する。

このほか、レセプションを実施する時にもヘリ格納庫やヘリ発着甲板を使用する。これも、広いスペースが必要だから、という理由は同じ。例えば、外国の艦が日本を訪問すると、海上自衛隊から接遇を担当する「ホストシップ」を出すが、そこで相手の艦の乗組員を迎えて、ヘリ発着甲板やヘリ格納庫を使ってレセプションをやる。

また、日常的なところでは、運動不足を解消するためのランニングの場所にもなる。艦内の通路は狭いから、そこを走るのは危ない。まとまった広いスペースがある、ヘリ発着甲板の方が、ランニングの場所には向いている。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。