子供の頃、学校行事などで観光バスに乗って移動すると、目的地で駐車する際にバスガイドさんが先に降りて、笛を吹きながら誘導していた。バスに限らず飛行機も同じで、地上側に誘導を担当する人や車両や機材がある

マーシャラー

割と有名なのは、マーシャラー。旅客機に乗ると見かける機会が多い。空港で、グランドハンドリングを担当するスタッフの中にマーシャラーがいて、スポットを出入りする際に誘導の指示を出している。

マーシャラーは誰でもできる仕事ではなくて、しかるべき教育・訓練と試験を受けた有資格者である。

  • エアバスA350がデモツアーで羽田空港に飛来したところで、日本航空の整備格納庫前に機体をとめるため、誘導中。この時は、フォローミーカー(後述)は出なかった

マーシャリングは手の動きによって指示を出す仕組みで、「これから誘導を開始する」「右に」「左に」「そのまま前進」「ゆっくり停止」「エンジン停止」「輪留めをかませ」「輪留めを外せ」などのサインがある。もちろん、サインの内容は万国共通。

誘導は昼夜・天候を問わず必要になるので、腕の動きが見づらい場面もあり得る。そこで、パドルやライトスティックを持つこともある。

普通、マーシャラーは地上に立っているが、大型の機体になるとコックピットの位置が高くなり、前方直下に立っているマーシャラーが見えにくくなることがある。その場合は、建物の壁面、あるいは車両に載せた台の上に立って誘導する。

もっとも最近は、生身の人間のマーシャラーが指示を出す代わりに、表示器だけ用意してあることもある。これを駐機位置指示灯(VDGS : Visual Docking Guidance System)という。

こうした誘導指示が必要になるのは、周囲の他機やモノとぶつからないようにするだけでなく、正しい位置にとめないと困るからでもある。特に旅客機の場合、停止位置を極端に間違えると、ボーディングブリッジ(PBB : Passenger Boarding Bridge)を接続できなくなってしまう。

同じ空港の同じスポットでも、そこに入ってくる機種は多種多様。サイズも違えば扉の位置も違う。そこで地上側には首脚の位置を合わせるためのマーキングがあるが、機種によって適切な駐機位置が違うので、マーキングは機種ごとに用意してある。

なお、マーシャラーがいるのは民間空港だけではない。軍用機でも同様に、地上員が誘導の指示を出している。空港のマーシャラーの写真はたくさん出回っているだろうから、違うものも出してみよう。

  • 米空軍のアクロバットチーム「サンダーバーズ」が展示飛行を終えて駐機場に戻ってきたところで、地上員が誘導の指示を出す。写真は「停止」の指示

アクロバットチームは地上にきれいに機体を並べるのも仕事のうちだから、適切な誘導は大事だ。それに、空を飛んでいる時だけが展示ではなくて、駐機場にいる時から演技は始まっている。地上員の作業や動きも展示のうちである。

上の写真と、それに続く一連の写真を確認してみると、サンダーバーズの場合、機体が所定の位置に停止したら誘導は終わり。エンジン停止の指示は出していなかった。展示飛行という性格上、6機すべてが戻ってきた後で揃ってエンジンを止めるからだろうか。

タキシングの際の誘導

では、地上からの誘導指示が必要になるのは駐機場を出入りする時だけなのか。必ずしもそうではない。タキシングの際にも誘導が必要になることがある。こうした誘導が必要になるのは、尾輪式の飛行機だ。

三車輪式なら地上にいる時に機体は水平になっているから、機首の操縦席から見ると前方の視界は開けている。それなら、タキシングに際して前方の状況は目視できるので、わざわざ誘導してもらうには及ばない。

ところが、尾輪式だと地上では機首が上がった姿勢になるから、前方の視界が効かない。前を見ても見えるのはエンジン(のカウリング)だけである。そこで、わざとグネグネとタキシングする手が使われる。

こうすると進路前方が機体の斜め前に来るので、前方の様子を確認できるというわけ。ただし、ずっと同じ方向に進路を逸らすと誘導路から飛び出してしまうから、左右交互に針路を逸らすことになり、結果としてグネグネになる。

場合によっては、機体がグネグネ動く代わりに、主翼の上に地上要員を座らせることもある。その地上要員が前方の様子を見ていて、パイロットに合図を出すわけだ。この場合、離陸する前に地上要員を降ろさないと、えらいことになる。

フォローミー

といっても「指揮官先頭、率先垂範」という話ではなくて。

普通、飛行場に着陸した航空機には、管制塔から「誘導路○を通ってスポット△へ」といった具合に指示が出る。パイロットはそれに基づき、指示された通りの経路をとりながらタキシングする(たまに、間違えたり、指示通りにしなかったりする事例があるが…)。

ところが例外があって、「Follow Me」と掲示を出した先導車が出てくることがある。これを「フォローミーカー」といい、それが意味するところは掲示の通りである。不慣れな外来機、あるいは間違いがあるといけない大事なお客様が乗った機体だと、フォローミーカーが出ることがあるようだ。

下の写真は、先にオープンした「Flight of Dreams」の主役であるボーイング787の初号機(ZA001)が、2015年6月22日に中部国際空港までラストフライトを実施した時に撮影したもの。

この時はターミナルビルではなく、駐機場の南端、DOC(Dreamlifter Operations Center)がある付近に機体をとめた。初めて飛来する外来機で、しかも駐機場所が通常と異なるので、誘導のためにフォローミーカーが出たのだろう。

  • ボーイング787の初号機「ZA001」が中部国際空港まで最後のフライトを実施した時は、フォローミーカーが出て駐機場まで誘導した。手前に立っているマーシャラーの右側・奥に見えるのがそれ

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。