高速道路を走っていると、ところどころで「ハイウェイラジオ」があって、周波数1,620kHzなどのAMラジオ放送で情報を流している。実は飛行場にも似たような仕掛けがあり、ATIS(Automatic Terminal Information Service)という。

ATISによる情報提供

ATISは、飛行場に出入りする飛行機のパイロットに対して、飛行場の運用状況を告知するためのもの。情報の受け手(つまり飛行機と、それを操縦するパイロット)がたくさんいる場合、こうすることで情報提供を合理的に実現できる。

ATISで流す情報は「飛行場の名前」「情報記号」「発出時刻」「運用中の進入方式と使用滑走路」「気象関連データ」「その他、飛行場の運用に関わる各種情報」といった辺り。

情報の内容が変わるとATISの放送内容は更新されるので、識別のために「情報記号」を使う。その正体はA~Zまでのアルファベットで、Zまで行ったらAに戻る。

管制官にコンタクトするたびに、いちいち説明を受けるのでは煩雑な上に、手間と時間がかかってしまう。常に最新の情報を自動放送しておいて、それを必要に応じて受信するほうが、情報を提供する側にとっても助かる。

パイロット向けの情報提供というと、第115回で取り上げたノータム(NOTAM : Notice to Airmen)もある。NOTAMがあるのに、さらにATIS?と疑問に思われるかもしれない。

NOTAMとATISを比較すると、後者のほうが更新頻度が高い。「日が単位」と「時間が単位」の違い、といえるだろうか。同じ日のうちにどんどん変化する、気象状況や使用滑走路の情報を、いちいち文書化してNOTAMにして発出するわけにも行かないだろう。

  • 離着陸の際に必要となる各種の情報を常にATISで放送しておけば、情報の提供や入手が円滑になる

ATISの実際の利用

例えば、これから羽田空港を出発しようとする定期便のパイロットが、羽田空港のATISに無線機の周波数を合わせて情報を聴知する。それにより、使用している滑走路の向きや気象関連データなどを把握できる。

そして、これからエンジンを始動してランプアウトしようというところで、管制官にコンタクトする。その時に、いつのATIS情報を聴知したかについても、併せて報告する。

「クリアランス・デリバリー、こちらは○○航空××便~(予定している経路や高度の情報)~インフォメーション・デルタを得ている」といった具合。この「インフォメーション・デルタ」がATIS情報のことで、「デルタ」は「D」を意味する音標アルファベットだ。

管制官はこれにより、当該機のパイロットが最新のATIS情報を得ているかどうかを把握できる。最新が「デルタ(D)」なのに、パイロットが「インフォメーション・ブラヴォー(B)を得ている」といってきたら、「その情報は古い」ということになる。実際には、そんなことは起こらないだろうけれど。

そして、ちゃんと最新のATIS情報を得ているということであれば、当該機のパイロットはATISで放送している情報を承知していると見なせる。

これは着陸進入も同様。進入にかかる前に、目的地となる飛行場のATIS情報に周波数を合わせて最新の情報を聴知しておく。そして、これから進入しようというところで、管制官にコンタクトするとともに、いつのATIS情報を聴知したかについても、併せて報告する。

つまり、「□□アプローチ、こちらは○○航空××便~(中略)~インフォメーション・フォックストロットを得ている」といった具合に連絡する(フォックストロット=F)。

例えば、滑走路の方向は、着陸進入経路をどうとるかに影響するし、結果として所要時間にも関わってくる(大回りを必要とすれば、余分な時間がかかる)。気象状況は、着陸の可否や難易度に影響する。そういう情報を事前に得ておくことは重要である。

トップを知らせてほしい

ATISで流す気象情報は、飛行場の中でも地上におけるもの。雲底がやたらと低かったり、視程の数字が悪かったりすると、着陸ができなくなる。これらは地上から見て確認できる。

ところが、気象条件の中には地上にいるとわからない種類のものがある。その1つが「トップ」。トップといっても組織のボスのことではなくて、雲の上限がどれぐらいの高度か、という意味。

そこで、これから離陸する機体のパイロットに「トップを知らせてほしい」と頼む。パイロットが上昇のついでに気象状況調査をやるようなところがある。

最終的には雲の上まで上昇して巡航するのだから、離陸して上昇する過程で、まず雲の中に突っ込んで、その後に雲から抜け出す場面が必ずある。そこで、雲から抜け出したときの高度を調べて無線で報告してもらおうというわけ。

それを地上にいる管制官に報告すると、その情報も管制業務の参考にできる。お互いに持ちつ持たれつのところがある、という話だろうか。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。