第98回で、飛行場に設置する灯火の話を書いた。そこで取り上げた灯火には、着陸進入を支援するためのものが含まれていた。実のところ、天候が良ければ目視で灯火を見ながら進入する方法でも差し支えはないが、天候が悪いと事情が違う。そこで、さまざまな着陸進入支援手段がある。

PARアプローチ

PARとは、精測進入レーダー(Precision Approach Radar)のこと。進入する機体を、地上から進入コースに向けて設置したPARで捕捉・追尾して、適切な進入経路に乗っているかどうかを把握する。もしも外れていた場合には、担当の管制官がコースの修正を指示する。

これがPARアプローチで、着陸誘導管制(GCA : Ground Controlled Approach)という言い方もある。民航機では、多くが後述する計器着陸システム(ILS : Instrument Landing System)に取って代わられたが、軍用では今も使用している事例があるようだ。

艦上機が空母に降りる場合、レーダーで進入する機体を捕捉・追尾する仕組みがあるので、これもPARアプローチを使っていることになる。もちろんそれだけではなく、パイロットが自機の進入角を把握するためにフレネル・レンズ光学着艦支援システム(FLOLS : Fresnel Lens Optical Landing System)を装備しているほか、艦尾の左舷側に陣取ったLSO(Landing Signal Officer)が進入機を見ながら、無線で指示を出している。

  • 空母「ロナルド・レーガン」の上部構造物後部に取り付けられた着艦進入誘導用レーダー。AN/SPN-46と思われる

  • 空母「ロナルド・レーガン」の左舷側に取り付けられたFLOLS。進入する角度によって、灯火の見え方が変わるようになっている

計器着陸システム(ILS)

PARアプローチに代わって民航機で主流になっているのが、計器着陸システム。進入経路に向けて電波を出しており、機体側ではそれに基づいて適切なコースに乗っているかどうかを判断する仕組みになっている。出す電波はローカライザー(LLZ)とグライドスロープ(GP)の2種類。

ローカライザーは左右方向のずれを把握するためのもので、電波を出す範囲は水平の扇形になる。使用する周波数は、108.1~111.95MHzの範囲で50kHz間隔、出力10W。

対してグライドスロープは上下方向のずれを把握するためのもので、電波を出す範囲は垂直の扇形になる。使用する周波数は329.15~335.0MHzの範囲で150kHz間隔、出力2.0W。

ローカライザーの場合、中心線の左側は90Hz、右側は150Hzの変調信号が出ている。中央の正規のコースに乗っていると、両方の変調信号が等しくなるので、外れていないと分かる。グライドスロープも考え方は同じで、中心線の上側は90Hz、下側は150Hzの変調信号を出している。

機体の側では、コースのずれが計器に現れるので、それを見ながら操縦する。例えば、「正規のグライドパスより下にいる」との表示であれば、少し機首を上げてコースを修正する。

このほか、マーカー・ビーコンがある。これは、接地点からどれぐらいの距離にいるかを把握するためのもので、地上から真上に向けて電波を出している。使用する周波数は75MHz、出力は1.0~3.0W。接地点に近い側から順番に、以下の3種類がある。

  • インナーマーカー : 0.1海里、3kHz変調信号
  • ミドルマーカー : 0.5~0.8海里、1.3kHz変調信号
  • アウターマーカー : 3.6~6海里、400Hz変調信号

これらの上空を通過すると、「プープー」とブザーが鳴ったり、表示灯が点灯したりして知らせてくれる。なお、1海里は1.852kmである。

マーカー・ビーコンの代わりに、距離測定装置(DME : Distance Measuring Equipment)の派生品である、T-DME(ターミナルDME)を使用することもある。

ILSのカテゴリー

ILSには「カテゴリー」という言葉がある。着陸するかどうかを決心する最終チェックポイントとなる決断高度(DH : Decision Height)と、許容される視程が、カテゴリーによって異なる。

  • カテゴリーI : DH200ft以上、滑走路視距離550m以上(または視程800m以上)
  • カテゴリーII : DH100ft以上200ft未満、滑走路視距離350m以上
  • カテゴリーIII A : DH100ft未満または設定なし、滑走路視距離250m以上
  • カテゴリーIII B : DH50ft未満または設定なし、滑走路視距離50m以上200m未満

なお、1ft(フィート)は0.3048mである。DHは以前にも書いたように、海面高度ではなく地表からの高度で測る。

滑走路視距離が短く、DHが低ければ、その分だけ着陸するかどうかの意志決定をギリギリまで待てるという意味になる。すると、着陸の断念とやり直し(ゴーアラウンド : 着陸復航)に際して時間的余裕が乏しくなるが、ILSの精度が高ければそれが許容されるわけだ。

GPSによる着艦進入誘導

アメリカ海軍とレイセオン社では、空母の着艦進入誘導を行う新システム、JPALS(Joint Precision Approach and Landing System)を開発している。これが面白いのは、GPS(Global Positioning System)を使っているところだ。

JPALSでは、進入する艦上機と空母の双方が、常にGPSで高精度の測位を行いながら、無線データリンクで情報をやりとりしている。GPSは緯度・経度・高度の情報を得られるから、この情報のやりとりによって機体と空母の相対的な位置関係を高い精度で把握できる。

その情報に基づいて、機体が適正な進入経路に乗っているかどうかを判断して、必要なら修正を行うというわけだ。

このシステムの妙味は、有人機だけでなく無人機(UAV)でも適用できること。従来のようにLSOが指示を出すやり方だと、艦上にいるUAVオペレーターが遠隔操縦でコースしなければならない。だが、自分が機上にいない状態で適切に操縦するのは難しそうだ。揺れるフネの上からラジコン機を操縦して、それを自分が乗っているフネの上に降ろすことを考えてみてほしい !

その点、JPALSなら、GPSとデータリンクが完全に信頼できるという前提だが、自動着艦を実現しやすい。

ちなみに、2013年7月に無人艦上機の技術実証機・X-47B UCAS-D (Unmanned Combat Air System Demonstration)が空母艦上で発着艦試験を実施したが、このときにも同種GPSベースの着艦進入誘導機材を使った。

  • 空母「ジョージ H.W.ブッシュ」に着艦する直前のX-47B Photo:US Navy