こんにちは。このところ、外の空気もだいぶ春めいてきて、そろそろ桜の開花予想も出てきてなんだかうきうきしてしまう今日この頃です。

この3月は年度の終わりということで、4月からの新生活に向けての準備をされている方もいらっしゃるでしょうか。いろんなことが新しく見えて、新しいことを始めてみたくなるこの季節は結構好きです。

ということで、連載もはや13回目となりました。今回はどんなテーマにしようかなーといろいろ悩みました。CADの基礎用語はだいぶ出し尽くした感じがあるので今回は、3D CADによる設計についてお話してみようと思います。今回だけでは書ききれないので、次回と2回に分けて書く予定にしています。

皆さん、トップダウン設計って聞いたことはありますか?私は長年3D CADのメーカーで仕事をしていましたが、「3D CADでトップダウン設計はできないのでしょうか?」とよく聞かれました。

ではトップダウン設計とは何か?というと、3D CADが世の中に普及するずっと以前から設計の現場で実施されていた設計手法。設計のコンセプト検討を行い、製品全体のレイアウトを設計し、その後サブユニットや部品の単位にバラしながら詳細設計に落とし込んでいくという、上から下に向かっていくイメージの設計手法です。2Dで設計をする場合には、特に何の疑問もなくこの手法で設計をするのが通常であったはずです。

ではなぜ、3D CADを目の前にすると「トップダウン設計はできないのですか?」という質問がでてくるのでしょう?

「トップダウン設計」の対義語としては「ボトムアップ設計」というものがあります。3D CADを導入する際には、基本操作トレーニングを受けたり入門書を見て勉強したりされる方が多いと思いますが、それらのコンテンツはほぼすべて、以下のような流れになっています。

部品作成の操作方法 → アセンブリ作成の操作方法(その後、図面作成方法)

これは「ボトムアップ設計」の手順で、部品を先に設計し、それらを組み立てていくという流れになっています。

アセンブリ完成図の例

ボトムアップのイメージ。各パーツを設計し、その後各々を組み立てます

ただし、現実的にこの手法で設計することが適切である製品はあまり存在しません。製品を設計する場合、通常は製品の仕様を決定し、全体像を決定してから個々の部品の検討に落とし込んでいきます。このことから、「トップダウン設計はできないのか?」という疑問が湧いてくるわけです。

トレーニングコースや入門書は、CADの操作方法の基本を学ぶために理解しやすい流れで組み立てられています。その際にはまだ設計思想については考慮せず、操作習得に集中しています。その結果が、まずは部品の作り方を覚え、その後にアセンブリの作り方を学ぶという順序です。

しかし、CADは設計のための道具でしかないので、使い方を覚えたら実際の設計に適用できるスキルを身に付ける必要があります。つまり、トップダウン設計を行えるようになることで、3D CADを使いこなしていくことができるようになります。そしてこれは操作方法ではなく、テクニックの話になります。

こういう言い方をすると、何か難しいことをさらに学ばなければならないのではないか?と思われるかもしれませんが、必要なのは「コツ」のようなものです。

2D CADメインで設計をしている場合、平面上に全体のレイアウト図を描くことから始めますが、3D CAD上でもそれと同じことをすればよいわけです。ただし3D CADには奥行きもありますし、その後のサブユニットや部品へ落とし込んで詳細設計をする際のやり方も2D CADで行う場合とはCAD上の操作が異なるので、最初のレイアウト検討については3D CADの特性を活かしたやり方をすればよいだけです。

「すればよいだけです」と言っても、そこに3D CADのテクニックが必要になります。テクニックを発想し、使いこなしていくためには、CADの基本操作やその特性を理解した上で作業を行うことが重要です。そして、企業において設計というのは誰か1人だけで行うわけではなく、複数の人によってチームで行うことがほとんどです。従って、チームのすべての人がそのCADの操作をマスターし、トップダウン設計のテクニックを身につけて理解している必要があります。

3D CADでの設計がなかなかうまくいかないという話はよく聞きますが、そのほとんどはここで躓いていると思います。逆に言うと、ここをうまく乗り越えられれば3D設計は成功できるでしょう。

新しいツールを習得する時は、今抱えている仕事を止めたくないので、習得に時間をかけたくないと思ってしまうと思います。しかし、最初だけはある程度習得や情報共有のルール作りに時間を取ることで、その後の業務が格段に効率化することが可能になります。

そのテクニック自体の詳細は、使用するCADごとの特性を考慮する必要がありますが、基本的なプロセスは共通と考えて問題ありません。今回は3D CADによるトップダウン設計が必要になることについて概要のみをお話ししましたが、次回はもう少し具体的なことをお話ししていきたいと思います。

ではまた次回をお楽しみに!

著者紹介

草野多恵
CADテクニカルアドバイザー。宇宙航空関連メーカーにて宇宙観測ロケット設計および打ち上げまでのプロセス管理業務に従事し、設計から生産技術および製造、そして検査から納品までのプロセスを習得。その後、3D CAD業界に転身し、製造業での経験をもとに、ベンダーの立場からCADの普及活動を行う。現在は独立し、ユーザーの目線に立ち、効果的なCAD導入を支援している。 著書に「今すぐ使いたい人のためのAutoCAD LT 操作のきほん」(株式会社ボーンデジタル刊)がある。