中国の爆投資で混乱するディスプレイ市場

韓LG Displayが7月26日に公表した2018年第2四半期(4~6月期)の連結決算業績は、2017年までの好調が一転、連結営業損益は2四半期連続の赤字となり、赤字額も第1四半期ぁら倍増する結果となった。また、Samsung Electronicsが7月31日に公表した同第2四半期の連結決算では、ディスプレイ部門は赤字転落こそしなかったものの、営業利益が前年同期比の1/10以下の1400億ウォン(約140億円)にとどまる結果となった。中国勢による液晶パネルの過剰生産による価格下落やスマートフォン用ディスプレイの液晶パネルからOLED(有機EL)への移行の停滞が背景にある。

一方の中国勢は、半導体以上にディスプレイパネルに対して需給バランスを無視するほどの爆投資を行ってきており、2017年には生産量で韓国勢に追い付き、2020年には世界市場で過半のシェアを握ると英国の市場調査会社IHS Markitが予測している。

  • 国別に見たディスプレイ生産能力の変遷および今後の予測。

    図1 国別に見たディスプレイ生産能力の変遷および今後の予測。左がTFTアレイ(有機ELのバックプレーンを含む)の生産能力(単位:百万平方メートル)。右が有機ELの生産能力(単位:千平方メートル) (出所:IHS Markit)

これまで韓国勢によってほぼ独占状態だった有機ELについても2018年から中国勢が急成長し、2020年にはそのシェアを38%まで伸ばす見込みである。このような中国勢の市況無視の増産と、テレビやスマートフォンなどの需要減速でパネル価格が下落して、ディスプレイ業界は供給過剰状態が長期化しそうな様相を呈しつつある。

そんな状況下で、IHS Markitの日本法人は「第35回ディスプレイ産業フォーラム(2018年央版)」を2018年7月26~27日の2日間にかけて、「台頭する中国、OLED市場の行方」をメインテーマに開催した(図2)。

  • IHSディスプレイ産業フォーラムの会場風景

    図2 IHSディスプレイ産業フォーラムの会場風景(筆者撮影)

本連載では、同フォーラムの内容を元に、IHSのディスプレイおよび、搭載製品を調査している各分野の専門アナリストが語った2018年央時点でのディスプレイ業界と搭載製品の今後の動向を紹介していきたい。また、同フォーラムには、ノーベル物理学賞受賞者である名古屋大学の天野浩 教授による特別招待講演も行なわれたので、この模様についても紹介したい。

中国勢の台頭と有機ELの失速で韓国勢が抱く危機感

フォーラム冒頭のFPD産業総論セッションで、IHS Markitディスプレイ部門シニアディレクターのDavid Hsieh氏が述べたことは以下のようなことであった。

  • 中国勢は、2020年までに第8~10.5世代の大型液晶ファブを19棟、有機ELファブを20棟所有するようになり、特に有機ELの生産能力向上で、韓国勢を脅かす存在になるだろう。BOEは、世界初の第10.5世代パネル工場を2017年末に合肥市で稼働させたが、今後も中国内に巨大工場が続々誕生するだろう。これらの結果、BOEは2017年、液晶パネルの出荷数で韓国勢をおさえて世界トップに躍り出た。こうした動きは韓国勢にとって脅威となっている。
  • 中国勢の爆投資による供給過剰で、液晶テレビ向けパネル価格がここ1年で30~50%ほど下落。2018年初の予測では、価格低下は数か月以内に落ち着くと見ていたが、下振れが続いている。すでにキャッシュコスト(原価)に近づき、パネルメーカーは生きるか死ぬかのサバイバルゲームを強いられる状況に陥っており、古いファブの閉鎖は必至な状況である。
  • 液晶パネル各社は、65インチ以上の大型パネルに注力する方向なので、32~42インチパネルの価格が一時的に上昇するかもしれないが、これは一時的なリバウンドに過ぎず、今後ともディスプレイ供給過剰は続く。
  • ハイエンドテレビ分野で、量子ドット(QD)は有機ELと競合する。Samsungは、この2つの技術を組み合わせたQD-OLED(青色OLED+色変換の組み合わせ)を最終目標に掲げているが、いつ実用化するか決まっていない。
  • マイクロLEDは、長期的にも液晶や有機ELビジネスに影響を与えないと見ている。価格や性能で競争力があるか疑問である。
  • フレキシブルOLEDの需要はしぼんできている。価格が高いうえに、LTPS(低温ポリシリコン)液晶との差異化が難しいからである。しかし、中国勢の参入で、価格が大幅に下がるとか、フレキシブルさを生かした形状が受け入れられれば、スマートフォン用ディスプレイの主流になりうる。折りたたみ式の有機ELは早ければ今年末か来年早々に登場するだろう。

(次回は8月15日に掲載します)