山陽新幹線は建設時から夜行寝台新幹線計画があって、待避駅を増やしたともいわれている。「新幹線夜行列車」は国鉄時代から利用者の要望があり、どこかで長時間停車すれば可能ではないか、とたびたび話題になっていた。その夢が1つ叶いつつある。

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    JR東海が「東海道ルミエールエクスプレス」を運行。使用車両は未定で、蓄電池搭載のN700Sとは限らないとのこと

JR東海は、8月8日に「東京駅22時発、新大阪駅翌朝6時59分着」の特別列車「東海道ルミエールエクスプレス」を運行する。東京~新大阪間の途中停車駅は品川駅、新横浜駅、京都駅。深夜は走らず、24時までに岐阜羽島駅へ到着して長時間停車し、6時すぎに運転を再開する。旅行商品として7月3日にツアーサイトで販売し、10分も経たずに完売した。新幹線利用者にとって待望の「最終のぞみ後出発・始発のぞみ前到着」だけに、今後の運行も期待したい。

出発日が8月8日(土)のみとなった理由について、JR東海に聞くと、「多客輸送期間であり、通常期と比べ線路等の夜間作業が少ないため、保守作業に大きな影響を与えることなく運行できるためです」とのことだった。

「東海道ルミエールエクスプレス」の特別なダイヤを検証

8月8日の時刻表をもとに、「最終のぞみ後出発・始発のぞみ前到着」の運行ダイヤを検証してみた。東京駅22時0分発は、臨時列車の下り「のぞみ549号」(名古屋行)と同じ。品川駅22時7分発、新横浜駅22時18分発も「のぞみ549号」と同時刻となっている。「東海道ルミエールエクスプレス」は名古屋駅に停車しないが、同時間帯に運転される「のぞみ549号」は名古屋着23時33分着だから、ここまでは同じダイヤだろう。

「東海道ルミエールエクスプレス」は名古屋駅を通過し、岐阜羽島駅で停車して、翌朝の再出発を待つ。筆者の予想では、岐阜羽島駅到着は23時40分、発車は6時20分だろう。この発車時刻は、京都駅到着時刻と、他の「のぞみ」の所要時間から逆算した。この長時間停車の理由は、新幹線が24時から6時まで営業運転ができないため。国が定めた「新幹線鉄道騒音に係る環境基準」に則っている。東海道新幹線に限らず、すべての新幹線は24時から6時まで営業運転できない。「東海道ルミエールエクスプレス」は眠っている乗客を起こさないようにゆっくり走るのではなく、通常の「のぞみ」とほぼ同じダイヤで岐阜羽島駅までかっ飛ばす。

  • <!-- Original start --></picture></span>「東海道ルミエールエクスプレス」と前後の列車のダイヤ(岐阜羽島駅付近のダイヤは筆者予想。列車ダイヤ描画ツール「OuDia Second」で作成)<!-- Original end -->

    「東海道ルミエールエクスプレス」と前後の列車のダイヤ(岐阜羽島駅付近のダイヤは筆者予想。列車ダイヤ描画ツール「OuDia Second」で作成)

それはともかくとして、「東海道ルミエールエクスプレス」は岐阜羽島駅到着後と同駅発車前に30分ほどドアを開けるため、乗客はホームに出られる。このタイミングで改札内の喫煙所や自動販売機を利用できるが、自販機の在庫によっては売り切れてしまうため、飲み物など乗車前に用意しておくことを推奨している。車内販売はない。旅行に行く乗客を車内に閉じ込めておいて、財布を開かせないなんてもったいないと思うが、人手不足なのかもしれない。このあたりも営業運転で検証してほしいところである。

夜間の停車駅に岐阜羽島駅を選んだ理由は、「ダイヤ計画上の都合」とのこと。ダイヤを見ると、名古屋駅や米原駅でも良さそうに思えるが、名古屋駅は到着・出発ともに他の列車の乗降があるし、米原駅には大規模な保線基地があるため、都合が悪いのだろう。朝5時すぎに日の出を迎え、「東海道ルミエールエクスプレス」はすっかり明るくなった岐阜羽島駅を発車し、6時44分に京都駅へ到着する。7時台から近鉄京都線の特急列車やJR山陰本線の特急列車が走り始めるから、ちょうど良い乗継ぎ時間になると思われる。終着駅の新大阪駅は6時59分着。12分後に発車する下り「のぞみ101号」へ乗り継ぐと、博多駅に9時39分着。24分後に新大阪駅を発車する下り「みずほ603号」に乗り継ぐと、鹿児島中央駅11時11分着となる。

コストパフォーマンスの高い「乗り得」な列車に

販売は旅行会社「JR東海ツアーズ」が担当した。東京~新大阪間は大人1名で普通車1万5,000円・グリーン車2万円。他に品川駅、新横浜駅から乗車した場合と、京都駅で下車する場合に少し安くなる。ちなみに、東京~新大阪間で最繁忙期に「のぞみ」の普通車を利用した場合、運賃と特急料金の合計は1万5,120円。「東海道ルミエールエクスプレス」は夜間移動という特別な体験ができ、最繁忙期の運賃・特急料金(普通車)の合計と比べても120円安い。さらに、EX予約より370円安く、スマートEXより80円安くなる。

価格差が小さいだけでなく、「窓際席のみ販売」も大きな特典といえる。隣席が空いていてプライバシーを保てるほか、普通車のA席であればB席とC席、普通車のE席であればD席が空いているから、広々とした空間で過ごせる可能性が高い。実際の利用は乗務員の案内に従う必要があるものの、隣席が空いていれば広く使えるだろう。

そうなると、7号車の「S Work Pシート」や隣に座席を設けない車いすスペースなど、普段なら魅力のある感のある席は少し残念なことになるかもしれない。JR東海は「あくまでもおひとり様1座席の販売です」としており、隣に空席があるかどうかは利用者の運次第となる。さらに言うと、JR東海は今回、「夜行新幹線」あるいは「新幹線夜行列車」といった言葉を使用していない。この列車は「首都圏を22時台に出発、翌朝には関西着」の「東海道ルミエールエクスプレス」である。前述した「新幹線騒音に係る環境基準」の下で運行される列車であり、沿線住民への配慮もあると思われる。

ちなみに、8月8日夜に出発する東京~大阪間の夜行バスは、当記事の執筆時点で4列シートの料金が6,000~1万7,700円(3列独立シート)だった。「東海道ルミエールエクスプレス」の普通車1万5,000円は決して高くない。「いつでもトイレに行ける」「約6時間の揺れない時間がある」など、居住性で圧倒的に優れている。10分も経たずに完売したところを考えても、コストパフォーマンスの高い「乗り得」な列車といえる。JR東海は価格設定について、「同区間の運賃・料金と同程度の価格設定とする方針のほか、分かりやすい価格設定で、多くのお客様にご愛顧いただける商品にしたいと考えたため」と説明している。

なお、新聞報道などで「販売動向に応じて号車を拡大」とも報じられている。当初は車両数限定としたようだが、発売当日から反響が大きく、結果として全席予約完売となった。ちなみに窓際席に該当する座席数は普通車424席・グリーン車104席、合計528席とされている。3列シートの夜行バスに換算すると17~18台分である。一部の夜行バス需要と競合する可能性もあるだろう。あるいは夜行バスが不得手とする新たな夜行需要を獲得したと見るべきか。

JR東海は、「主なターゲットは、首都圏から関西圏へ前日に移動を開始し、翌朝の早い時間帯から観光・イベント・仕事等の予定のあるお客様です。加えて、宿泊費の高騰を背景に前泊を避けたいお客様や、夜行バスには抵抗があるものの移動ニーズを持つお客様(例えば、夜行バスより座席を広く使われたいお客様・子供同伴のためトイレ・デッキを使用されたい家族連れのお客様等)も想定しております」と説明。新たな客層の開拓を重視したようだった。

N700Sを使用するかは「当日にならないと分からない」

筆者としてはもうひとつ、どの車両を使用するのかという点も気になった。最新型のN700Sは車体床下に大容量のリチウムイオンバッテリーを搭載している。このバッテリーは走行中に停電した場合に、安全な場所へ走行するために使う。2026年度増備車からは、自走させない場合に空調装置を稼働できる仕様となった。営業車検測機能を有した「ドクターS」の導入も発表しており、営業開始予定は10月からとされている。

夜間の保守で停電しても、「ドクターS」を使えば空調を維持できる。もしかしたら、営業運転のデビューは「東海道ルミエールエクスプレス」になるのではないか。

これについてJR東海に聞くと、「多客輸送期間であり営業列車本数が多いため、N700Sが充当されるかは当日にならないと分からない状況です」との答えが返ってきた。そういうことなら、「ドクターS」のデビューを繰り上げる必要性は低いだろう。そもそも「通常期と比べて線路等の夜間作業が少ない多客輸送期間に運行するため、保守作業のために当該列車への架線通電を止める必要はありません」とのこと。

車両運用が当日までわからないとなると、乗降扉の横にある行先・列車名表示も「東海道ルミエールエクスプレス」にする可能性は低そうに思える。せめて駅の発車案内に表示してくれたなら、粋なはからいだと思う。ちなみに、東海道新幹線は1970年の大阪万博で新大阪駅21時10分発・東京駅0時20分の列車を走らせた際、「ひかり326号」として運行していた。2002年、サッカーW杯の観客輸送で深夜運転を実施した際の種別は「特別」だった。こちらも最終列車の東京駅到着は深夜2時だった。朝まで走ったわけではない。

「東海道ルミエールエクスプレス」は定着するのか?

「東海道ルミエールエクスプレス」は、現在の「のぞみ」「ひかり」「こだま」のどれにも当てはまらない列車となる。「東海道ルミエールエクスプレス」が列車の愛称であり、座席を販売する際の旅行商品名でもある。「ルミエール」は「光」を意味するとのこと。ならば往年の名列車「月光」でも良かったのではないか……と「昭和鉄オタ」は思う。

SNSでは、岐阜羽島駅付近に「ルミエール」と付く建物が多く、その関連を指摘する投稿も見られた。興味深い話だが、実際には品川駅にも名古屋駅にも「ルミエール」と付く建物が複数ある。どうやら、賃貸物件で「ルミエール」は定番となっている名前のひとつらしい。

「東海道ルミエールエクスプレス」の上り列車を設定しなかった理由について、「今回は利用状況やお客様の声、また運用する際の課題などを確認する目的もあるため、下りの設定のみ行っております」とJR東海は説明している。今回は実験的な試みのようで、今後の運行に含みを持たせている。そして、JR東海は「東海道ルミエールエクスプレス」の商標登録を出願中とのこと。これは高速路線バスなどの競合する類似サービスに使われないようにするためだろう。しかし、商標登録するということは、今後も運行の意向があるということかもしれない。

早朝に大阪で所用がある場合、いままでは夜のうちに移動して大阪のホテルに泊まるか、夜行バスで行くかという選択肢しかなかった。そこへ新たな選択肢が誕生する。現在は満席だが、キャンセル待ちの可能性が残されている。幸運にも乗車が叶った人は、ぜひ感想をSNSに投稿して盛り上げてほしい。きっとJR東海にも伝わるだろう。なお、JR東海によると、乗客へのアンケート調査を行うかは「検討中」とのことだった。