JR北海道は4月15日、自社単独では路線を維持できない「黄色線区」について、沿線自治体のさらなる支援を求めていく方針を示した。自治体側が路線を維持し、JR北海道が運行を担う「上下分離方式」も視野に入れる。路線維持のためとはいえ、自治体の負担は大きい。自治体側が路線維持の負担に応じなければ廃止も不可避となりうる。JR北海道は2026年度末までに路線維持の枠組みをとりまとめるという。
「黄色線区」は2016年にJR北海道が定義した線区を示す。1日1kmあたりの平均旅客輸送人員が200人以上2,000人未満で、100円の収益を得るためにかかる費用が300~1,000円になる線区である。これよりもっと少ない線区が「赤色線区」で、今春廃止された留萌本線を最後に全廃となった。「赤色線区」が決着し、次は「黄色線区」の対策に本腰を入れることになる。
「黄色線区」は宗谷本線(名寄~稚内間)、石北本線(新旭川~網走間)、釧網本線(東釧路~網走間)、花咲線(根室本線釧路~根室間)、根室本線(滝川~富良野間)、富良野線(旭川~富良野間)、室蘭本線(岩見沢~沼ノ端間)、日高本線(苫小牧~鵡川間)の8線区。日本最北の稚内駅、オホーツク沿岸、釧路湿原、富良野など、国内外で知られる観光地を通る路線もあるが、観光輸送は流動的で、通勤・通学をはじめ、生活路線として毎日のように乗車する利用者によって支えられている。それが沿線人口の減少とモータリゼーションの影響で激減した。鉄道を維持するために固定費がかさむものの、それに見合う利用者が足りない。
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JR北海道の路線網。黄色が上下分離を視野に入れる8線区。日付はJR北海道が自治体に上下分離を打診した日。緑がJR北海道単独で維持する線区。黒が新幹線の並行在来線としてJR北海道から分離予定の線区と、すでに分離した道南いさりび鉄道(地理院地図を元に筆者加工)
JR北海道は「黄色線区」について、「当社単独では老朽土木構造物の更新も含め『安全な鉄道サービス』を持続的に維持するための費用を確保できない線区」と位置づけ、2016年の時点で「鉄道を維持する仕組みについて、地域の皆様と相談を開始したい」と表明していた。相談内容は4項目あり、「設備の見直しやスリム化、ご利用の少ない駅の廃止や列車の見直しによる経費節減」「お客様に応分の負担をしていただく運賃値上げ」「沿線の皆様に日常的に鉄道をご利用いただく利用促進策」「運行会社と鉄道施設等を保有する会社とに分ける上下分離方式」だった。つまり、10年前から「上下分離方式」を示唆していた。
一方、北海道が2018年に示した「北海道交通政策総合指針」を見ると、「黄色線区」について「インバウンドなどの観光客や道民のスムーズな広域移動」「地域の暮らしを支える交通網の確保」「本道の暮らしや経済を支える物流網の確保」「新幹線札幌延伸開業効果の全道への波及」などの観点から「黄色線区」を維持する方針を示していた。
この方針にもとづき、2019年から「黄色線区」8線区それぞれに「アクションプラン」を策定。地域と一体となった利用促進、コスト削減の取組みを実施している。しかし、コロナ禍など予期せぬ事態が発生した。「アクションプラン」の評価実施を遅らせるなど考慮したが、目標達成項目が少なく、収益改善に至らなかった。
現在、「事業の抜本的な改善方策の実現に向けた実行計画」(2024~2026年度)の最終年度として取組みが進められているものの、状況が好転する気配はない。8線区合計で、2024年度の営業収益は約27億円に対し、営業費用は約174億円にのぼり、約148億円の赤字になった。営業費用の内訳は、輸送に直接必要な費用が約53億円、車両の維持や修繕に係る費用が約21億円、線路や駅、信号などの施設の維持、修繕費用が約55億円、減価償却費や諸税が約24億円、管理費が約21億円となっている。
「上下分離方式」を採用するとなれば、自治体が負担する「下」の部分だけで最低でも80億円以上になる。しかし、営業費用が収益の約2倍もあるため、「上」となるJR北海道の赤字も約30億円になるだろう。上下分離すればJR北海道が黒字になるわけではない。JR北海道が4月15日に示した「黄8線区を維持する仕組みの構築に向けた当社の考えについて」によると、今後、持続的な路線維持のため、沿線自治体と以下の4項目の協議を実施するとのこと。
- (1) 線区のご利用状況に応じた輸送体系のさらなる見直し
- (2) 持続的な運行に必要となる担い手の確保(踏切の除雪、駅業務の自治体への移管等)
- (3) 鉄道資産の自治体への譲渡による固定資産税の負担軽減
- (4) 運行会社と鉄道資産を保有する法人等とに分ける「上下分離方式」の検討
(1)~(3)をまとめると、今後はさらに減便する。除雪作業は北海道の要請により自治体が発注する。無人駅を増やし、窓口業務が必要であれば自治体に簡易委託する。線路や駅などの不動産、建築物は自治体保有とし、JR北海道に無償で貸し出す。
ただし、これらの方策を実施しても、路線の赤字に対する効果は限定的で、抜本的な改善には至らない可能性がある。そこで、(4)の施策となる。自治体が線路、駅、信号設備、場合によっては車両も保有し、JR北海道が運行のみ行い、収益に応じた使用料を支払う。現状では運行だけでも赤字だから、使用料は免除されるだろう。上下分離せずに、自治体がJR北海道に線路設備の費用を補助する方策もある。これを「みなし上下分離」という。費用負担を自治体側にするかJR北海道側にするかの違いだけで、総費用が減るわけではない。誰かが負担しなければならない。それは道なのか、国なのか、という話になる。
上下分離は、国交省負担と総務省負担の違い
国土交通省はJR北海道に対し、2024~2026年度の中期経営計画期間に1,092億円の支援を実施。これとは別に、「黄色線区」について設備投資や観光列車などの取得に対して67億円の支援を実施している。その上で、国はJR北海道に対して「監督命令」を出した。「JR北海道と地域の関係者が一体となって、2026年度末までに、線区ごとに事業の抜本的な改善方策を確実にとりまとめなさい」という内容だった。
上下分離して、沿線自治体に「下」の部分を担ってもらうには負担が大きすぎる。筆者は毎年冬に北海道を訪れるのだが、現状の道路除雪や整備だけで限界だと感じる。幹線道路は除雪され、舗装も整っているものの、交差する道路や補助関係にある並行道路の舗装は荒れている。道東では、通学路の坂道のロードヒーティングが片側1車線分にとどまる場所も見た。生活に密着した道路整備の予算も足りないのだから、鉄道に割く余裕はなさそうに思える。道路は観光客だけでない。救急車や消防車、警察車両などの緊急車両も通行する。それらが通らない鉄道は相対的に優先順位が低くなりがちだ。
だから鉄道を上下分離するとしても、自治体は負担できない。国に地方交付税を増額してもらいたい。そしていま、JR北海道は国から経営自立化に向けて必要な支援を受けている。上下分離という施策は、「黄色線区」に対する国の支援金の流れがJR北海道経由になるか自治体経由になるかという違いでしかない。
それではなぜ、JR北海道が上下分離を持ち出したかというと、公共交通の責任の所在を明確にし、総務省に支援してほしいからだろう。国土交通省はもうこれ以上、財務省から予算を引き出せない。JR北海道だけでなく、全国の鉄道、とくにローカル線についても同様で、それは整備新幹線の貸付料問題を見てもわかる。国土交通省が国に整備新幹線の建設予算を増額してもらおうにも、財務省から「整備新幹線が予想より儲かっているようだからもっと金を取れ」と言われれば、言いなりになってしまう。
新幹線の貸付料はJRが新幹線を引き受けるときの契約であって、一方的な増額や期間延長などはビジネスの常識としてありえない。それが政治だと言われるとそれまでだが、国土交通省は鉄道事業者など公共交通を守る立場であるべきではないか。それができないなら、地方交付税を管轄する総務省に面倒を見てもらい、地方活性化の責務を担っていただきたい。つまり、地方交通の維持費用は国土交通省ではなく総務省に付け替えたい。ただし、総務省が鉄道事業者を守ってくれる保証もないわけだが。
自治体もJR北海道も「もっと稼げる」
筆者の見聞きした範囲で事例を挙げると、前述した通り、ここ数年、ほぼ毎年、釧網本線の「流氷物語号」とその周辺を訪れている。冬のオホーツク沿岸では、流氷が重要な観光資源になっている。ところが、流氷観光からお金を取るしくみが少ない。流氷を眺める場所として北浜駅のホームに小さな展望台がある。ここは列車で訪れる人のための設備である。
しかし、流氷シーズン中は団体貸切の観光バスが次々にやってきて、展望台が大混雑になる。北浜駅は無人駅だから入場券を売らない。喫茶店があるだけで土産物店はない。大型バスは無料で駐車し、ひしめき合っている。ここはバス1台1時間あたり5,000円くらいいただいてもいいはず。観光資源への対価設定は今後、検討の余地があるのではないかと思う。
観光列車「流氷物語号」は当初、一般形気動車を使用し、普通運賃だけで乗車できた。後にキハ40形の観光車両を投入したが、この時点で特別料金を設定しても良かった。現在は海側の席に限り840円の指定席料金を設定しているが、それでも安すぎるくらいに思える。なにしろ世界で唯一と言っても良い絶景で、アジアその他海外からも観光客がやってくる。その価値が金額に見合っていない。
地域の交通としてはどうか。観光客の獲得に力を入れている方針は正しいと思うが、地元の人々にとって鉄道が便利であるか。それは列車ダイヤだけの問題ではない。たとえば、道東の出入口である女満別空港には1,239台分の駐車スペースがある。もちろん有料だが、公式サイトに「30日以上駐車される場合は、管理事務所にお届けください」とあるから、長期の旅行や出張も対応するはず。料金に関して、最初の1時間は無料、以降1時間あたり150円(多客期200円)、24時間最大800円(多客期1000円)となっている。
これに対して、網走駅にはJR北海道が設置した無料駐車場「パーク&トレイン」がある。特急「オホーツク」と特別快速「大雪」の利用者限定で、30台分しかない。女満別空港の40分の1であり、駅前にあるレストランの駐車数より少ない。「パーク&トレイン」はJR北海道の取組みで、マイカー利用者を獲得する良い施策だが、苫小牧駅の500台を筆頭に、旭川駅、帯広駅、函館駅、釧路駅が300台以上。25カ所が100台以下。ひと桁の駅もある。
ここに自治体が協力して土地を確保し、駐車台数を増やす取組みも欲しい。これはJR北海道に限らず、JR西日本の芸備線など各地のローカル線に言えることである。マイカー利用者に乗り継ぐ機会を与えないと、マイカー利用者はどこまでも走って行く。網走から札幌に行こうとして、網走駅まで車で行けないなら、女満別空港まで車で行き、飛行機に乗る。このような稼ぎどころは他にもあるのではないかと考えられる。
JR北海道は「黄色線区」について「路線を維持する」方針を示した。上下分離は方策のひとつであり、必ずしもゴールではない。とはいえ、沿線自治体としては上下分離から逃れられないのではないか。いや、いっそ「黄色線区」は三セク化して、自治体がもっと運行に関与できる枠組みにしたほうがいい。そのほうが稼げるし、地域の経済に貢献するかもしれない。
鉄道だけでなく、地域全体を視野に入れた活性化プランを作れば、総務省が話を聞くのではないか。筆者にとって、総務省の考え方は国土交通省よりわからないが、自治体の担当者、地域の関係者が働きかけてみてはどうだろう。そのためにも、貪欲に稼ぐ姿勢がほしい。

