2004年の開業以来、21年間連続赤字という肥薩おれんじ鉄道で、4月から10年間の鉄道事業再構築実施計画が始まる。鉄道施設と車両を同社が保有しつつ、その費用を熊本県と鹿児島県、沿線自治体が負担する「みなし上下分離」方式で、10年後の黒字化をめざす。最大の課題である「運転士不足」は、国の課題として取り組む必要がありそうだ。

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    肥薩おれんじ鉄道は2004年の開業以来、21年連続赤字だという

肥薩おれんじ鉄道は熊本県の八代駅と鹿児島県の川内駅を結ぶ第三セクター鉄道。運行する路線はかつてJR九州の鹿児島本線として、門司港~鹿児島間を結ぶ幹線の一部だった。2004年に九州新幹線(新八代~鹿児島中央間)が部分開業するにあたり、並行在来線としてJR九州から経営分離され、第三セクター鉄道として再出発した。熊本県と鹿児島県をはじめ、沿線7市町、さらに貨物列車を運行するJR貨物も出資者に加わっている。

営業成績は開業年度からずっと赤字。こうした状況はある意味で想定されたものともいえる。鹿児島本線だった当時、おもな収入源だった特急列車は新幹線に移行し、廃止されてしまった。肥薩おれんじ鉄道の利用者は普通列車を短距離で利用し、しかも大半は通学定期である。運賃収入は激減する。しかし施設維持費の固定費用は変わらない。

  • <!-- Original start --></picture></span>肥薩おれんじ鉄道は熊本県と鹿児島県にまたがる。県をまたいで同一会社とした第三セクター鉄道は珍しい。人口の多い熊本駅付近と鹿児島中央駅付近の区間は引き続きJR九州の路線として運行し、比較的閑散とした区間のみ引き受けた(地理院地図をもとに筆者加工)<!-- Original end -->

    肥薩おれんじ鉄道は熊本県と鹿児島県にまたがる。県をまたいで同一会社とした第三セクター鉄道は珍しい。人口の多い熊本駅付近と鹿児島中央駅付近の区間は引き続きJR九州の路線として運行し、比較的閑散とした区間のみ引き受けた(地理院地図をもとに筆者加工)

もともと並行在来線自体の黒字営業は期待されるべきではない。整備新幹線の着工条件のひとつに「並行在来線のJRからの分離」がある。これはJRの負担を減らすための枠組みであり、自治体が並行在来線をJRから切り離しても良いと納得すれば新幹線が建設される。

ただし、「並行在来線を自治体が引き受けなければならない」という条件はない。自治体が並行在来線を引き受けなければ、並行在来線は廃止となる。実際に北海道新幹線札幌延伸に伴う並行在来線区間の函館~小樽間は、沿線自治体が鉄道で維持しない方針を示しており、代行バスの議論が進んでいる。

では、並行在来線を第三セクター鉄道で残す意味は何かというと、「沿線自治体にとって、公共交通として必要だから」となる。新幹線の開通によって得られる便益が第三セクターの赤字より大きければ、自治体にとってプラスであるという考え方もある。だから決算の収支よりも、「どれだけの市民が利用したか」「県外から乗客を集められたか」という数字のほうが重要。公共交通機関として利用推進を託されたから、利用者を増やす義務がある。

赤字で当然な路線とはいえ、経営努力は必要。赤字になった分は自治体が補填する必要があり、それは市民の税や国の交付金によるものである。赤字が増え続ければ税金の無駄遣いになってしまう。黒字化が難しいとしても、赤字は最小限にとどめなければならない。

希望の光は観光列車「おれんじ食堂」だろうか。不知火海や東シナ海など風光明媚な九州西海岸沿いを走り、沿線の食材を使ったコースメニューを提供する。車両デザインはJR九州で数々の名車、観光列車を手がけた水戸岡鋭治氏が担当。一流の空間と一流の料理を楽しめる「動く食堂」として高い評価を受け、1万~2万円台という高額ツアーになっていた。2017年までに5万人以上を集客したと報じられたが、後述する事情で現在は運休している。

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    収益源として期待された「おれんじ食堂」も現在は運休

熊本県と鹿児島県は肥薩おれんじ鉄道の開業時に経営安定化基金を設置し、鉄道の運行を支援してきたが、少子化を背景とした利用者の減少と燃料・資材価格の高騰で赤字が続く。開業年度(2004年度)に188万人だった利用者数は、2024年度に103万人まで減少した。営業損益も過去最大の約9億3,183万円に増加している。安定化基金も取り崩してしまい、単年度ごとに自治体が補助金を拠出して経営支援する形になっていた。

こうした状況の中で、2024年9月に脱線事故が起きた。今年2月、運輸安全委員会は原因について、「枕木の損傷で軌間が広がったため」と発表。赤字経営が続く中で保守体制への影響を懸念する声もあり、安全確保との両立が課題として浮かび上がった。

運転士不足も深刻になっている。南日本新聞電子版2月26日付の記事「資格取らせても若手は次々転職…『これでは運転士養成機関だ』人員不足で運休続く肥薩おれんじ鉄道 利用者離れ拍車を懸念」によると、2023年と2024年に18人が退職。2026年3月にも4人が退職するとのこと。ダイヤ通りに運行するには37人のシフト体制が必要だが、14人も足りない。

現在、JR九州からの人員支援に加えて、被災により一部区間運休となっているくま川鉄道から2名が応援要員として出向しているという。収入を増やしたくても、列車を動かす人がいない。それどころか減便となっており、人気の「おれんじ食堂」も運休に。出水駅で「動かないレストラン」として営業している。

鉄道事業再構築実施計画の内容は

このような状況を打開すべく、肥薩おれんじ鉄道、熊本県、鹿児島県、八代市、水俣市、芦北町、津奈木町、阿久根市、出水市、薩摩川内市は2025年6月に鉄道事業再構築実施計画を策定。これが1月27日に認定された。地方公共団体その他による支援内容として、「両県・沿線市町等による鉄道施設等の整備及び維持修繕等に要する費用の負担」と「沿線地域による利用促進・増収策の推進」がある。肥薩おれんじ鉄道は現状のまま施設と車両を保有するため、「みなし上下分離」という枠組みになる。

事業費合計は252億5,800万円。自治体負担分の一部について、国が社会資本整備総合交付金(地域公共交通再構築事業)を支給する。事業の効果として、10年後に年間輸送人員91万4,000人、当期純利益で2,700万円の黒字をめざす。この事業がない場合、年間輸送人員は84万5,000人まで落ち込み、当期純利益は4,700万円の赤字になるところだった。

具体的な施策として、「鉄道施設の改修・更新の実施」に10年間で71.6億円、「鉄道施設の維持修繕」に10年間で180.1億円を投じる。利用促進として、「キャッシュレス決済の充実」「MaaSの取り組み拡大」「観光等の他分野の機能や拠点の集約による駅の賑わい創出」「二次交通の接続強化」を実施する。

さらに、地域の経済・産業振興として、「商業施設・観光施設の割引等をセットにした企画切符の販売」「沿線地域の自然・歴史・文化・観光資源を効果的に活用した話題性のあるイベントの企画等」「おれんじ食堂等を活用した企画列車の運行等」が挙げられた。定期利用者が減少する中で、観光誘客に期待する内容に見える。観光客がどれほど頼りになるかは未知数であるものの、鉄道をきっかけに観光客が増えれば、地域全体に経済効果がある。結果測定は輸送人員と収支だが、外部要素の効果も加味してほしいと思う。

南日本新聞電子版3月14日付の記事「JRも驚いた…『想定外の利用者』。無人新駅が支点、効いた観光リバレッジ――磯海水浴場も世界文化遺産もにぎわい増大 仙巌園駅開業1年」によると、2025年3月にJR日豊本線の新駅として開業した仙厳園駅は、1日の乗車人員が想定の300人を超え、付近の海水浴場も利用者が前年比1.5倍になったという。商店の売上げも2割増しとのこと。鉄道の可能性を見せる心強い話ではないかと思う。

人材不足は国の育成支援が必要

肥薩おれんじ鉄道の再構築実施計画で、最大の懸念は「運転士不足」だろう。前出した南日本新聞電子版2月26日付の記事でも、肥薩おれんじ鉄道で運転士候補を採用し、1年間の研修や訓練を行っても、資格取得した後に大手鉄道会社に転職してしまうとのことだった。記事のタイトルにもあった通り、「これでは運転士養成機関だ」という状況になっている。肥薩おれんじ鉄道の費用で免許を取っても、同社で乗務せずに他社へ行ってしまう。これでは肥薩おれんじ鉄道の丸損であり、悔しい気持ちもわかる。

解決方法はいくつかある。ひとつは、かつて千葉県のいすみ鉄道が実施した「免許取得費用を運転士が負担する」という方法。若い頃、運転士に憧れた鉄道ファンに向けて、その夢をかなえようというアイデアである。実際に応募し、運転士として乗務していると聞く。

もうひとつはプロ野球にならい、運転免許取得後、一定期間は他社に移籍できないという雇用契約とする。いわば「運転士フリーエージェント制」だが、これは一般の企業だと「職業選択の自由」を侵害するおそれもある。

いっそのこと、肥薩おれんじ鉄道に「運転士養成機関」となってもらう方法はどうか。逆転の発想である。JR・大手鉄道各社などへ就職を志望する人にも採用の門戸を広げる。免許を取得した後、一定期間の乗務経験を得たら転職してもかまわない。転職されたらどうするかといえば、また運転士志望者を雇えばいい。

雇って、免許を取らせて、現場を経験してもらって、巣立っていく。また運転士志望者を雇って……の繰り返し。肥薩おれんじ鉄道が損をしているように見えるが、その費用を国が負担する。厚生労働省の「教育訓練給付制度」「人材開発支援助成金」のようなしくみをつくり、肥薩おれんじ鉄道など人材不足に悩む鉄道会社を「運転士養成機関」として認定する。育成費用は国の負担。これで、肥薩おれんじ鉄道はつねに若手運転士がいる会社になる。

鉄道に限らず、「公共交通機関で働く資格を持つ人」を「国の財産」として育てるしくみが必要だと思う。地方鉄道に負担を押しつけてはいけない。肥薩おれんじ鉄道の10年計画だけでなく、困っている地方鉄道の人材支援策。日本の鉄道の未来のために、検討してほしい。