岡山市は1月26日、路面電車の延伸環状化を実現する「ハレノワ線(仮称)」の事業計画を発表した。清輝橋線の大雲寺前電停と東山線の西大寺町電停を結ぶ約0.6kmの単線を整備し、左回りの環状運転を実施する。劇場やタワマンを含む再開発ビル「ハレノワ」付近に電停を設置して、ピーク時に1時間あたり3本以上の運行を見込む。この環状線は岡山市路面電車ネットワーク計画の核となる路線で、2029年度中の運行開始を計画している。
岡山電気軌道と岡山市は、路面電車を岡山駅前電停から岡山駅前広場に乗り入れる工事に着手しており、2027年3月に完成予定。先に開業した広島電鉄の広島駅乗入れが成功していることから、岡山電気軌道の岡山駅前広場延伸も大いに期待される。その次の交通改良計画として、「ハレノワ線」による延伸環状化が挙がった。
路面電車を環状化した先例として、富山地方鉄道の環状線(市内電車)と札幌市電がある。「ハレノワ線」は両者の良いところを取り入れている。複線の2路線を単線で結び、片方向のみの運行にするところは富山地方鉄道に似ているし、「ハレノワ前」電停は札幌市電が採用した「サイドリザベーション」とすることで、利用者は車道を渡ることなく路面電車に乗れる。
運行ルートは「岡山駅→柳川→大雲寺前→西大寺町→城下→柳川→岡山駅」という「Pの字形」に。これは富山地方鉄道の環状線(富山駅経由)に似ている。岡山駅前電停を発着することにより、再開発ビル「ハレノワ」と岡山駅を直結。整備効果として、岡山市の中心部で1km四方の「都心kmスクエア」として回遊性が向上し、駅前エリアに集中しているにぎわいを市街地全体に広げることが期待されている。
「ハレノワ」の正式名称は「岡山芸術創造劇場」。「ハレノワ」という愛称は一般公募によるもので、「晴れの国岡山」「晴れ舞台」の「ハレ」と、つながりや連帯を表す「輪」を組み合わせた。「ハレノワ」は1,753席の大劇場、807席の中劇場、300席の小劇場からなり、「ハレノワ」を収容するビルは「ハレミライ千日前」とされる。地下2階から地上4階までが「ハレノワ」で、岡山市民会館と市民文化ホールを移転統合した施設。5~7階はオフィスフロア、8~20階はマンション「ライオンズタワー岡山千日前」となる。
これだけの集客施設があるなら、「ハレノワ線」の収支も安泰と思えるが、岡山電気軌道は路面電車の延伸に慎重だった。路面電車の利用者数がコロナ禍前の85%にとどまっていること、営業収支が赤字であり、運賃収入もコロナ禍前の水準ではないことに加え、製造から40年を超えた車両が多く、しばらくは車両の更新も必要になってくる。岡山電気軌道としては、新路線への投資が困難で、利益の拡大は考えにくかった。
しかし、2023年に国の補助制度が改正され、事業者が整備する場合の補助率が3分の1から2分の1に増額された。同年に「ハレノワ」が開館し、好調に推移していく中、翌年から岡山市と岡山電気軌道による協議を再開。建設に関して国と市が2分の1ずつ負担すること、運行に関して「みなし上下分離」の方式を導入することで合意した。
岡山市は路面電車について、「定時性、速達性、路線の分かりやすさ、輸送力の高さから、都心の重要な交通手段」ととらえている。その一方で、「交通事業者は厳しい経営状況、新たな投資が困難」という状況も把握していた。
「みなし上下分離」は、施設の保有も営業運転も鉄道事業者が主体となって行いつつ、施設の維持費は市が負担するというしくみ。上下分離方式は軌道設備等を自治体が保有し、営業運転を鉄道事業者が担う。ただし、事故やトラブルがあった場合に責任の所在が不明確になるという欠点もあった。「みなし上下分離」は鉄道事業者がすべて責任を負うことになるため、事故やトラブルの責任が明確になるという。
岡山市はどうしても「ハレノワ線」を建設したい。岡山電気軌道としては、運行するなら全責任を持ちたい。これが「みなし上下分離」で合意した背景といえるかもしれない。
岡山市路面電車ネットワーク計画とは
岡山市は2020年6月の「岡山市地域公共交通網形成計画」で、路面電車の延伸環状化に関する構想を示した。この中に「ハレノワ線」もあったが、岡山市の路面電車整備構想は「ハレノワ線」だけではない。
岡山市は「高齢化の進行などから公共交通の重要性が高まる」「利用者の減少から公共交通の衰退が課題である」として、「持続可能な公共交通ネットワークの維持拡充が必要」という認識を持っている。2020年2月、岡山市は「路面電車ネットワーク計画」を策定。ここで示した路線は6本あり、すべて単線だった。
(1) 岡山駅前~大供交差点(約1.0km)
岡山駅と岡山市役所を結ぶ路線。短いながらも、沿線に「イオンモール岡山」「杜の街グレース」という2つのショッピングモールがあり、ビジネスホテルもある。
(2) 大供交差点~清輝橋電停(約1.2km)
(1)を延長し、水道局前交差点から東へ向かって、清輝橋線の終点である清輝橋電停を結ぶ。途中に岡山大学病院がある。(1)(2)と清輝橋線を結ぶ環状ルートができる。
(3) 大供交差点~大雲寺前電停(約0.6km)
岡山市役所のある大供交差点と、清輝橋線の大雲寺前電停を結ぶ。(1)と清輝橋線を組み合わせて環状ルートを形成する。あるいは(1)と(4)、さらに東山線を組み合わせた大環状ルートも可能になるだろう。
(4) 大雲寺前~西大寺町(約0.6km)
「ハレノワ線」として、岡山市と岡山電気軌道が事業着手に合意した路線。
(5) 城下電停~丸ノ内ヒルズ付近(約0.3km)
東山線の城下電停から分岐して東へ。岡山城の手前にある道路終点までの路線となる。岡山城までは150m。月見橋を渡ると後楽園に行ける。観光客にとって、岡山駅から岡山城へ行きやすくなる。「丸ノ内ヒルズ」は大型介護施設で、1日78名の滞在が可能。岡山電気軌道と同じ両備グループが運営している。
(6) 岡山駅西口~岡山大学(約2.6km)
既存の路面電車路線とは独立して、岡山駅西口側に路線を建設する計画。岡山大学のアクセス向上だけでなく、岡山済生会総合病院、岡山県総合グラウンド付近を経由する。岡山県総合グラウンドは、「JFE晴れの国スタジアム」(旧桃太郎スタジアム)をはじめ、「シゲトーアリーナ岡山」(体育館)や野球場、武道館など備えている。「JFE晴れの国スタジアム」はJリーグ「ファジアーノ岡山FC」の本拠地となっている。
(6)’ 岡山駅~JR津山線経由~岡山県総合グラウンド
(6)の副案として、JR津山線に乗り入れ、「旧津山往来」と呼ばれた道路へ分岐して、(6)のルートをたどる。岡山総合グラウンド内に乗り入れるルートや、津山線の一部区間をLRT化する案もあるとのこと。
これらの路線を需要予測、道路交通の影響、バスへの影響、概算事業費、費用対効果から検討した結果、「(4)」が「○」、「(1)+(2)」が「×」となった他は「△」となった。これを受けて、(4)の「ハレノワ線」計画が優先された。なお、「(1)+(2)」については、岡山大学病院まで短縮する「(1)+(2)’」案が検討されている。費用対効果はすべて「1」以上、区間「(1)+(2)’」案がとくに高く「2.45」であり、「ハレノワ線」の「1.93」を上回っている。
全体的に高等教育機関と病院を重視した計画に見える。これは岡山市に限らず、通学者や高齢者向けの公共交通機関に力を入れているからだろう。
富山ライトレール(現・富山地方鉄道富山港線)や宇都宮ライトレールの開業により、LRTの可能性が高まっている。それを踏まえても、岡山市の路面電車ネットワーク計画は壮大に感じられる。「ハレノワ線」の成功と、すべての計画路線の成就に期待したい。

