12月15日、自民党(自由民主党)と維新(日本維新の会)が参加する「与党整備新幹線建設推進プロジェクトチーム(与党PT)」の下部組織、北陸新幹線整備委員会が初会合を開いた。決定済みの小浜・京都ルートの他に、維新が提案する7案を加えた8案について再検討すると決めた。決定事項を白紙に戻した印象だが、建設を進めるために必要な手順といえる。

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    北陸新幹線の延伸で再検討する8案

維新が提案した8ルート案を紹介すると、次の通りとなる。

(1) 小浜・京都ルート

与党PTが2016年12月に敦賀~京都間、2017年に京都~新大阪間の「南回り案」を決定。2024年8月7日に国土交通省と鉄道・運輸機構が詳細ルートを策定した。京都市駅の位置と通過ルートは未定。2016年当時の概算事業費は2.1兆円だった。

しかし2024年、鉄道・運輸機構の再計算で3.4兆~3.7兆円へ上昇した。物価上昇率、法令等の変更の準拠、働き方改革を加味している。将来の物価上昇率を年2%と仮定した場合の概算事業費は4.8兆~5.3兆円を見込んだ。2016年の概算事業費の2倍以上となり、自治体負担額も同比率で上昇するため、おもな通過自治体となる京都府は国の手当を求めている。この数字は「米原経由のほうが低コストだ」という根拠にもなった。

(2) 亀岡ルート

関西広域連合が、2012年3月25日に「北陸新幹線(敦賀以西)ルートの検討について」という提案書で示した「小浜ルート」。政府が1973年に整備計画を決定した北陸新幹線は、「起点を東京都、終点を大阪府大阪市、経由地として長野市、富山市、小浜市付近」となっており、京都経由ではなかった。このルートが議論の始まりといえる。

関西広域連合の試算では、概算建設費約9,500億円、総便益約1兆400億円、1日あたり需要は約2万6,000人となっていた。しかし、国土交通省の検討対象からは外された。京都駅を経由しないところが難点といえる。JR西日本も京都駅乗入れを必須ととらえている。

(3) 米原ルート(直通)

米原ルートは米原駅で東海道新幹線に乗り換える案と、東海道新幹線に乗り入れる(直通する)案がある。乗入れ案は「北陸新幹線(敦賀以西)ルートの検討について」(2012年)で関西広域連合が示したルート。「長浜市を経由して米原で東海道新幹線と合流」と明記されている。関西広域連合の試算では、概算建設費約5,100億円、総便益約1兆1,800億円、1日あたり需要3万3,000人。関西広域連合が提案する3案4パターンの中で最も大きな数字だった。

この案は東海道新幹線への乗入れが可能か否かが争点となる。車両、信号、安全装置等の技術的な課題があるものの、技術的な課題というより対応工事の費用負担の問題といえる。次に、東海道新幹線の過密ダイヤの中で北陸新幹線の入る隙間がない。これも東海道新幹線に主導権を与え、東海道新幹線の臨時列車がない場合に限り、その時間帯、つまり臨時運転なら可能かもしれない。もうひとつ、東海道新幹線に直通した場合、JR西日本の運営主体ではなくなるため、JR西日本の利点が少ない。JR東海の社長も「ダイヤ面から難しい」と語った。

(4) 米原ルート(乗換え)

東海道新幹線への直通は行わず、乗換えとする案。関西広域連合が、「北陸新幹線(敦賀以西)ルートの検討について」(2012年)で米原ルートの副案として示したルートである。リニア中央新幹線の大阪乗入れが実現した後、東海道新幹線の過密ダイヤが解消すれば東海道新幹線に直通するが、それまでは暫定的に乗換えで対応するという案。乗換え期間までの概算建設費は約3,600億円、総便益約1兆1,200億円、1日あたり需要2万8,000人となっている。直通後は「(3) 米原ルート(直通)」に準ずる。

維新の示す乗換え案が、恒久的な乗換えか、将来の直通をめざすかは明確に報じられていない。恒久的な乗換えであれば、現在の敦賀駅乗換えが米原駅乗換えになるだけで、現在の敦賀駅乗換えより運賃・料金が高くなるおそれもあり、利用者の利点が少ない。もっとも、米原駅乗換えで中京圏と北陸を結ぶ特急「しらさぎ」のルートを代替するため、敦賀駅乗換えより若干の利点はあるかもしれない。

  • <!-- Original start --></picture></span>現在は名古屋・米原~敦賀間で運転している特急「しらさぎ」<!-- Original end -->

    現在は名古屋・米原~敦賀間で運転している特急「しらさぎ」

そもそも新幹線の計画路線として、敦賀市と名古屋市を結ぶ「北陸・中京新幹線」があり、こちらを米原駅経由とすれば実現できるルートである。

(5) 湖西ルート(新設)

JR湖西線に沿ってフル規格新幹線を敷設する。延伸ルートを検討する中で、小浜・亀岡ルートの対案として検討された。関西広域連合が「北陸新幹線(敦賀以西)ルートの検討について」(2012年)で示したルートのひとつで、「敦賀駅より、湖西線に沿って高島市、大津市を通り、京都駅の東側で東海道新幹線と合流」するという。

関西広域連合の試算では、概算建設費約7,700億円、総便益約1兆1,200億円、1日あたり需要3万1,000人となっていた。しかし、後述するフリーゲージトレイン断念の経緯があるためか、こちらも国土交通省の検討対象から外れている。

  • <!-- Original start --></picture></span>湖西線を走行する特急「サンダーバード」<!-- Original end -->

    湖西線を走行する特急「サンダーバード」

湖西ルートは所要時間が最も短くなりそうに見えるが、湖西線を経由する現行の特急「サンダーバード」などは、日本海側からの強風で運休となる日が多く、新幹線に適さないと判断されたかもしれない。ただし、全線大深度地下、あるいは札幌市営地下鉄のような高架線をシェルターで覆う方式なら、強風の影響を避けられそうに思える。京都~新大阪間は現在の小浜・京都ルートで決定した南回り案とすれば、東海道新幹線への合流は不要になる。

(6) 湖西ルート(在来線活用)

JR西日本は北陸新幹線が全線開業するまで、敦賀~新大阪間をフリーゲージトレインで湖西線経由とする構想を持っていた。しかし2018年、国土交通省がフリーゲージトレインの導入困難を報告した。その結果、敦賀駅の再設計とそれに伴う工期の遅れが生じた。

維新案がどのように在来線を活用するかは不明。そもそも8ルートの詳細が維新の公式サイトに掲載されていない。「自民公明の与党PTは密室で決めた。自民維新はガラス張りでやりたい」と言いながら、維新案が公開されていないとは矛盾している。それはともかく、現在の技術で湖西線を活用するなら、「湖西線を改軌した上でミニ新幹線化」となるだろう。

その場合、改軌は山形新幹線のような全線改軌となるはず。秋田新幹線のような複線の片側を活用する方法では、需要に対して運行本数を確保できないと思われる。改軌しても貨物列車があるため、青函トンネルのような3線軌条となり、保線費用がかさむと予想される。

(7) 舞鶴ルート(京都経由)

自公連立時代の2015年、与党整備新幹線プロジェクトチームの委員長を務める西田昌司氏が提案し、国土交通省が検討に加えたルート。当時は小浜市と舞鶴市を経由して京都市に至り、さらに学研都市や天王寺を経由して関西国際空港に至るという案だった。なぜ遠回りでコストもかかる舞鶴経由を持ち出したか、理解に苦しむ。あえて予想するならば、京都府にとって課題の南北交通軸を整備することで、京都駅経由を説得したかったのだろう。

維新がこのルートを加えた理由も不明だが、ルートの再検討を受け入れた西田氏に敬意を表し、西田案ともいえる舞鶴ルートを加えたといったところだろうか。

(8) 舞鶴ルート(亀岡経由)

京都に立ち寄らない舞鶴ルートで、亀岡市を経由して京都の南北交通軸を残しつつ、遠回りを緩和した案。「(7) 舞鶴ルート(京都経由)」と同様、舞鶴から大阪への高速鉄道整備により、日本海側の発展を期待できそうに思える。基本計画路線の山陰新幹線は、「大阪市を起点、下関市を終点とし、鳥取市付近、松江市付近を経由する」とされていた。先に舞鶴~新大阪間を北陸新幹線として開通させ、将来は山陰新幹線と供用するという見方もできる。

自民・維新による政府与党PTは、年明けにJR西日本から聞き取り調査を始め、JR東海や関係自治体にも意見を聞く予定だという。国土交通省に対しても、改めて事業費、便益等の調査を依頼する予定としている。

背景に京都市民団体の反対と政変

北陸新幹線の敦賀~新大阪間は、自民党と公明党が参加した2016年12月20日の与党PTにおいて、敦賀駅から小浜市を経由して京都駅までのルートが決定。2017年には、京都駅から京田辺市の松井山手駅を経由して新大阪駅までのルートを決定した。国土交通省と鉄道・運輸機構は、2024年8月7日に各駅の位置と詳細なルート案を公表している。京都府北部において、自然環境の懸念から反対する地域を巧みに避けた。

ただし、京都駅付近は絞り込めず、「京都駅(南北案)」「京都駅(東西案)」「京都駅(桂川駅案)」の3ルートを提案するにとどまり、比較検討して1案に絞ることとした。このうち「京都駅(東西案)」は地下水に強い影響があるとして候補から外れ、「京都駅(南北案)」「京都駅(桂川駅案)」を引き続き検討。12月までに1案に絞り、環境影響評価準備書を公表する予定だった。同時に2025(令和7)年度の予算概算要求手続きを進め、2025年8月末までに環境影響評価書を公開。2026年度に着工予定だった。

ところが、京都市内で地下トンネルによる水源・水質変化を懸念する動きがあり、市民団体等によるデモや署名運動が行われた。さらに今年7月の参院選京都府選挙区で、「北陸新幹線小浜・京都ルートの再検討」を掲げる新人候補の新実章平氏がトップ当選。自公連立時代の与党PTで「北陸新幹線『敦賀・大阪間』整備検討委員会」委員長を勤める西田昌司氏は2位に甘んじ、トップと2位の差は14万票以上の大差となった。西田氏は5月に「ひめゆりの塔」に関する発言を問題視され、謝罪・撤回した件があった。これも多少は影響したと思われるが、地元の政治評価において北陸新幹線の関心が高かったといえるだろう。

10月21日に自民党と維新による連立内閣が発足したが、維新は鉄道・運輸機構がルート案を公表する直前の2024年6月、国交省に対して「小浜・京都ルートの撤回」「米原ルート変更」を求める提言書を提出していた。民主党政権時代に国土交通大臣を務めた前原誠司衆議院議員(京都2区)も連名した。その後、前原氏は維新に入党。共同代表に就任している。前原氏は7月の参院選で維新の不振の責任を取って党代表を辞任するが、8月付で党の顧問に就任した。

維新は連立政権の新たな総合経済対策への提言のひとつとして、北陸新幹線新大阪延伸について、小浜・京都ルートの変更と与党PTの参加を求めた。京都新聞の2025年12月2日付「北陸新幹線 延伸 ルート再検討 8案提案へ 維新・前原氏、与党PTに」によると、前原氏は維新内におけるPTの座長として、複数案を自民党へ提案する方針を確認したという。前原氏は「米原ルート」についても「ハードルが高い」という認識で、維新PTで了承した8パターンについて、与党PTで検討するよう促すとしている。

小浜・京都ルートをまとめた自民党の西田氏としては、新たな連立政権発足と参院選京都府選挙区の結果を鑑みて、前原氏の提案を受けざるをえない。

京都新聞の12月13日付「北陸新幹線延伸 来年度も着工『困難』 ルート議論巻き戻り 与党PT初会合」によると、12月12日に自民党と維新の「与党整備新幹線建設推進プロジェクトチーム(与党PT)」が発足し、自民党の渡海紀三朗衆議院議員と前原氏が共同代表になったという。渡海氏はこの状況から、敦賀~新大阪間着工に向けた事業費について、「2026年度当初予算案の計上は困難」と表明した。これで2026年度の着工は見送りとなった。

下部組織の北陸新幹線整備委員会は、西田氏と前原氏が共同委員長となった。西田氏は「維新の提案するルートは過去に検証している」とし、「結論は同じになるのではないか」としつつも、「京都市民の不安と負担をなくす知恵を出したい」と期待した。

整備新幹線の枠組みも再検討してもらいたい

整備新幹線の着工条件は「安定的な財源見通しの確保」「収支採算性」「投資効果(費用便益比1以上)」「営業主体のJRの同意」「並行在来線の経営分離についての沿線自治体の同意」となっている。このうち「安定的な財源見通しの確保」は、自治体の建設費負担の同意、JRからの整備新幹線貸付料収入と、将来の貸付料収入を担保とした借入れなどである。

8ルートの検討にあたっては、自治体の建設費負担と、国土交通省による「収支採算性」「投資効果(費用便益比1以上)」の試算結果が必要。「営業主体のJRの同意」について、JR西日本は営業面で京都駅を経由する必要があるため、「京都駅経由以外は認められない」との考え方を崩していない。米原駅経由は結果的に京都駅を経由するが、JR西日本の営業区間が短くなるため受け入れがたい。JR東海も東海道新幹線への直通に難色を示す。

「並行在来線の経営分離についての沿線自治体の同意」について、敦賀~新大阪間の並行在来線をJR西日本はまだ指定していない。しかし、湖西線や北陸本線(米原~敦賀間)の経営分離については、滋賀県が難色を示している。滋賀県知事は「本県は北陸新幹線を求めていない」と明言している。

沿線自治体のうち、京都府知事と京都市長は静観の構えを見せる。市民運動があるとはいえ、国策でもあり、京都から北陸方面の利便性向上は京都府や京都市にとっても経済効果を見込める。最近の日中関係の冷え込みにより、中国からの訪日観光客が減少しつつある。国内旅行需要を堅持するためにも、京都に北陸新幹線は必要だろう。

京都府以外の北陸新幹線沿線はどうか。福井県は小浜市をルートから外すことを認めない。半世紀前から小浜市に新幹線が来ると期待しており、そのための準備も着手している。富山県も京都駅に直通できる小浜・京都ルートを支持している。一方、石川県は意見が割れている。県知事が小浜・京都ルートをいったん支持した後、県議会が米原ルートの再考を議決。これを受けて県知事もルートの再検討を求めた。ただし、石川県議会にとって米原ルートは「早く開通できるから」であり、米原経由を支持しているわけではなさそうに見える。

これらを勘案すれば、消去法でもとの小浜・京都ルートに落ち着くことになるのではないか。小浜・京都ルートになった場合は、京都府に対して費用負担の軽減処置が必要かもしれない。整備新幹線の自治体費用負担の枠組みは再検討が必要。これは九州新幹線西九州ルートと佐賀県の問題においても、いずれ必要になる。

8ルートの再検討は無駄ではない。費用対効果と工期を試算した結果、小浜・京都ルート以外のルートが圧倒的優位となる可能性もある。そのとき、小浜・京都ルートに賛成した自治体やJRに対して、どのように説得するだろうか。たとえば米原経由になった場合、福井県に対して小浜市の高速鉄道救済として敦賀市・小浜市間のフル規格支線建設、JR東海に対して東海道新幹線直通化に関する費用全額負担などの手当が必要だろう。滋賀県に対して並行在来線の分離拒否を認める必要もあるかもしれない。

関東在住の筆者としては、もはや北陸にも京阪神にも新幹線で行けるから、敦賀~新大阪間が現状のままでもかまわない。おそらく、現在の状況で北陸と京阪神の人々は困っていると思うが、それ以外の多くの人々にとって関心は低いと思う。しかし国民の1人として、国の高速ネットワークを考えたとき、やはり敦賀~新大阪間はフル規格新幹線でつながるべき。ただし、目先の数値に焦って「安物買いの銭失い」になることは避けたほうがいい。

筆者個人の考えとして、北陸新幹線は小浜・京都ルートとし、京都府と京都市に対して地下水源の技術的安全性の説明を重ね、財源の救済措置を講じていく。一方、京都府と京都市を説得するまでの間、北陸・中京新幹線を基本計画路線から整備新幹線に格上げし、敦賀~米原間を先行して建設し、開業をめざしてはいかがだろうか。