福島県いわき市が福島臨海鉄道の再旅客化を検討している。福島臨海鉄道はJR常磐線の泉駅から臨港工業地帯の小名浜までを結ぶ貨物鉄道で、1972年まで旅客営業も実施していた。再旅客化はプロサッカーチーム「いわきFC」のホームスタジアム建設と、それに伴う駐車場の減少を理由としている。鉄道を旅客化しないと観客輸送が間に合わない。福島県やいわき市の費用負担で、福島臨海鉄道の線路改良待ったなしという状況になっている。
「サッカースタジアムができるから貨物線に旅客列車を走らせよう」とは、「風が吹けば桶屋が儲かる」のような話で面白い。このサッカースタジアムは、J1リーグへ昇格する条件のひとつ「観客席1万5,000人以上のホームスタジアム」として建設される。
現在、J2リーグに所属するいわきFCは、まだJ1リーグ条件を満たすホームスタジアムを持っていない。「J1リーグに昇格後、5年以内にスタジアムを持つ」ことを条件とした特例規定が適用されている。ホームタウンであるいわき市と双葉郡の6町2村にとって、J2リーグ参戦・J1リーグ昇格は喜ばしい。一方で昇格から5年以内にスタジアムを確保しなければならず、いまから準備しておくべきだろう。その観客輸送のため、鉄道を使いたいという話である。
駐車場を減らして、駐車場需要の大きい施設をつくる!?
新スタジアムの建設予定地として、小名浜港のアクアマリンパーク駐車場が選ばれた。アクアマリンパークは水族館や「道の駅いわき・ら・ら・ミュウ」、緑地公園、多目的広場などがあり、観光地としてにぎわう。駐車場は西側に3カ所、東側に9カ所あり、合計2,300台の駐車が可能。幹線道路の向かい側にイオンモールがあり、その駐車場も合わせると3,715台分の駐車場がある。かなり広いが、震災前は大型連休など多客期になるといっぱいになったという。
現在はそこまで満車にならないとのことだが、関係者は当時の来場者数に戻るくらいのにぎわいを期待しているはず。ただし、これらの駐車場のうち最も西側にある868台分の駐車場と、緑地公園の一部がスタジアム候補地となっている。
現在のいわきFCのホームスタジアム「ハワイアンスタジアムいわき」の観客収容人数は5,030人で、来訪者の8割以上が自家用車で訪れる。1台あたり平均乗車人数は2.3人とのこと。これを1万人規模の新スタジアムに当てはめた場合、試合の人気度によって必要な駐車台数は変わるとはいえ、少なくとも1,800台、最大で3,200台の需要がある。
つまり、既存の駐車場の868台分を減らしてサッカースタジアムを建設すると、最大3,200台の駐車需要が発生する。小学生にもわかる計算だが、数が合わない。3,200台となると、現在のアクアマリンパーク全体の容量を超えている。サッカーの試合を夜にして、昼間の来訪者と入れ替えればなんとかなりそうに思えるが、もちろん日中の試合だってある。現在も駐車場内の動線が複雑で、空き区画探しの車が周回するなど不便な状態だという。
公共交通としては、新常磐交通のバス路線があり、常磐線の泉駅前から小名浜方面の路線バスが1時間あたり1~2本出ている。日中はイオンモール小名浜への送迎バスも加わる。どちらも所要時間は約15~17分。常磐線のいわき駅から小名浜方面は日中で1時間あたり2本、所要時間は約40分。東京駅から高速バス直行便もあり、泉駅は特急「ひたち」の停車駅でもあるから、対戦相手のファンも訪れやすい場所ではある。
観客人数を考えると、泉駅またはいわき駅からシャトルバスを出したほうがいい。幹線道路は片側3車線もあり、運行はスムーズなはず。ただし、バスも駐車場付近の入口渋滞に巻き込まれるおそれがある。そこで福島臨海鉄道の活用案が出てきた。ちょうどいいところに鉄道があり、しかも過去に旅客輸送も実施していた。これを使わない手はない。
鉄道も大がかりな改良が必要になる
福島臨海鉄道は11月13日、「福島臨海鉄道の旅客化検討をめぐる報道について」というニュースリリースを同社サイトに公開した。それによると、いわき市が「スタジアム整備に伴う自家用車代替交通手段としての福島臨海鉄道の可能性調査」を進めており、福島臨海鉄道は「調査に対して協力を行っている」状況ではあるものの、「弊社が主体的に旅客化を検討している事実は無い」とのことだった。
オンラインマップの航空写真を見ると、旅客化事業はかなり大がかりになるかもしれない。類似の例としてJR秋田港線の旅客化が挙げられる。秋田港線ももともと貨物線だったが、秋田港にクルーズ客船が寄港するため、その乗客向けに旅客列車を運行した。操車場の一角に4両編成対応のホームを設置し、専用車両を用意してクルーズ船の乗客を秋田駅まで送迎した。残念ながら2025年度で運行を終了するという。
福島臨海鉄道の場合、ホームの位置だけでなく、分岐器と信号の増設も必要になる。ところが、小名浜駅にホームを置くスペースが見当たらない。線路の間が広く空いているものの、コンテナ置場となっているほか、フォークリフトやトレーラーの移動に必要な空間でもある。スタジアムまで徒歩数分という好立地で、その動線を考えれば、最も南側にある線路の、さらに南側にホームを置きたいところだろう。
そのためには、隣接する「イオンモール従業員駐車場兼臨時お客様駐車場」を縮小し、公道を移設する必要がある。あるいは北西側のトラック駐車場に4両程度のホームを設置できそうだが、これだとスタジアムまで遠くなってしまう。最も安上がりな方法は、ホームを置かず、試合開催時にステップのみ置けばいい。ただし、試合後に勝利の美酒に酔う観戦者が多数だと考えれば、仮設タイプは危険と言わざるをえない。
線路についても改良が必要になる。小名浜駅付近の線路は複線のように見えて、じつは独立している。南側の線路は工場街へ行く支線であり、この線路から泉駅へ行くことはできない。南側の線路にホームを置くためには、小名浜駅の先に渡り線が必要になる。渡り線を増設する場合、信号設備も改修しなければならない。
泉駅の構造も、福島臨海鉄道から常磐線のホームへ入れないようになっている。貨物留置線にホームを新設するか、分岐器をいくつか組み合わせて構内の線路配置を改造する必要がある。あるいは、いわき駅発着とし、泉駅でスイッチバックする運行形態を取るか。
「2025 貨物時刻表」を見ると、福島臨海鉄道の貨物列車は平日日中に1日2往復運転され、越谷ターミナルと泉駅を結ぶ列車が設定されている。2025年3月まで、安中駅(信越本線)と小名浜駅を結ぶ亜鉛焼鉱輸送列車が走っていた。現時点で、旅客列車を走らせる「ダイヤの隙間」はある。過去には花火大会のため臨時列車が走ったという。
車両はJR東日本などが余らせている気動車を調達できるだろう。コストを度外視すれば、新型の低床車両を導入するとホーム建造物を小さくできる。より理想的な形態として、小名浜駅の線路を少し延ばし、高速バスターミナル兼タクシーのりばにホームを設けたい。
現在、いわき市がコンサルタント会社に実現に向けた調査を実施しているとのこと。専門家による調査結果の発表が楽しみだ。



