京急電鉄と京成電鉄は10月31日、共同検討に関する合意書を締結した。両社は都営浅草線を経由して相互直通運転を実施しており、車両の規格など共通点が多い。今後は信号システム、優等列車直通などのハード面や、観光輸送のソフト面における協力、株主優待などに踏み込んでいく。利点は導入コストの低減や株主の安定化だろう。

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    快特や「ウィング号」の車両として活躍する京急電鉄2100形

本誌既報の通り、共同検討項目は「鉄道運行関連」「観光拠点の相互送客」「株主優待の相互利用」の3つ。新聞報道等を見ると、検討することで合意しただけで、具体的なことはなにも決まっていない。あるいは公表できないのかもしれない。もし後者なら、調達価格や株価に影響するからと思われる。すでにネット上では、「新型有料特急」の運転区間などの話題でにぎわっており、正式発表までの楽しい時期といえる。

CBTCの導入を視野に入れている?

共同検討項目のひとつ「鉄道運行関連」について、「次世代運行システムの導入に向けて、地上設備や車両の共通化等について、研究・検討を進めます」とあった。おそらくこれはCBTCの導入を示唆していると思われる。

CBTCは「Communications-Based Train Control」の略で、無線通信やネットワークによる列車制御方式である。2024年に東京メトロ丸ノ内線で採用され、西武鉄道が多摩川線で実証試験を開始。東急電鉄が田園都市線で2028年度から導入すると発表した。JR東日本は独自の無線式列車制御システム「ATACS」を2011年から仙石線で導入しており、山手線など首都圏全域で導入予定としている。

CBTCの特徴は「移動閉塞」という考え方にある。列車側で現在位置、速度、進行方向、非常ブレーキをかけた場合の停止可能距離を地上装置に送る。地上側はその前方を走る列車までの距離や速度を把握して、安全に停止可能な最高速度を指示する。この通信をリアルタイムに実施することで、安全な列車間隔を維持できる。たとえば、速度の速い列車は前方を走る列車との間隔を長く取り、速度の遅い列車は前方を走る列車にぎりぎりまで近づける。

従来の閉塞方式は「固定閉塞」という考え方だった。線路をいくつかの閉塞区間に分割し、ひとつの閉塞区間に1列車しか入れないようにして、列車の衝突を防ぐしくみを採用している。複線区間で閉塞区間に列車がある場合、手前の信号機は赤になる。2つ先の閉塞区間に列車がある場合は黄色表示として減速を促し、3つ先より遠方の場合は青色表示として進行を許可する。固定閉塞区間の長さは車両のブレーキ性能や線路の見通しなどで決まる。

固定閉塞区間の長さは、速度の速い列車に合わせるため、速度の遅い列車の運行間隔が長くなってしまう。京急電鉄は120km/h運転を開始するにあたり、閉塞区間を長くするより、信号機の色を増やすことで対応した。ほとんどの鉄道路線が「赤・黄・青」の3種類で表示するところを「赤・黄+黄・黄・黄+青・黄+青(両方点滅)・青」として、赤信号を表示するまでの閉塞区間の数を増やし、列車ごとの運行間隔を細かく制御している。この方式は京成電鉄の成田スカイアクセス線でも採用されている。

移動閉塞にすると、固定閉塞区間のような距離の制約がなくなる。個々の列車の速度に応じた運行間隔になるため、運行本数も増やせる。大量の地上信号機と複雑な色使いも不要。CBTCは次世代の鉄道信号システムとして注目されており、とくに京急電鉄や京成電鉄のような信号種別の多い路線で効果が大きい。

CBTCを導入するにあたり、車上装置と地上設備が必要になる。京急電鉄と京成電鉄は都営浅草線を介して相互直通運転を行っているため、各事業者のデータを搭載する必要がある。仕様と機器を統一すれば、大量導入によるコストメリットも期待できる。今回の発表でCBTCと明記してはいないものの、「新しい信号システムを採用するために共通仕様を検討しましょう」という目的があると思われる。

さらに、京急電鉄は駅の信号制御において自動化を実施する予定としている。大手私鉄がPRC(Programmed Route Control : 自動進路制御装置)を採用する中、京急電鉄はいまだ手動操作を採用している。理由はダイヤが乱れた際、ベテラン信号係が早く適切に処理できるからだった。しかし、CBTCの導入に合わせてCTC(Centralized Traffic Control : 列車集中制御装置も採用すれば、PRCも導入できる。

京成電鉄の「新型有料特急」は京急電鉄に乗り入れるか?

列車運行関連でもうひとつ。「京急電鉄は、新たな輸送サービスの検討に着手し、これにあたり京成電鉄が2028年度より運行を計画する新型有料特急車両との共通化の検討を進めます」と明記された。「新型有料特急」については、京成電鉄が今年5月、「押上~成田空港間を運行する新たな列車」として設計に着手したと発表している。

その背景として、コロナ禍の最中で「スカイライナー」を青砥駅に臨時停車させたところ、京成押上線・都営浅草線・京急線方面から乗継ぎ客を獲得できた実績がある。京成電鉄の中期経営計画に掲載された車両のイメージイラストを見ると、運転席前面にうっすらと扉が描かれていた。これはトンネルの狭い地下区間で非常口として機能するだろう。その後、京成電鉄の社長は朝日新聞のインタビューに対し、地下鉄乗入れに意欲を示していた。

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    かつて「スカイライナー」で活躍した京成電鉄AE100形。地下鉄直通を見込み、車体前面に扉を付けていた

都営浅草線に乗り入れるとなれば、その先は京急電鉄になるはず。「新型有料特急」が京急電鉄に乗り入れれば、成田空港および京成沿線から羽田空港方面へ直通できる。京急沿線の羽田空港および横浜方面などから成田空港への直通もできる。今回の発表で、京急電鉄も「新型有料特急」を導入するとなれば、京急電鉄へ乗り入れる可能性がますます高まる。

京急電鉄としては、おもに快特で運用している2100形が製造から25年以上経過している。更新工事を行っているとはいえ、2028年頃には次世代の快特用車両を導入する時期になる。これが京成電鉄の「新型有料特急車両」と共通化することにつながるかもしれない。

京急電鉄は座れる通勤電車として、平日夜に「イブニング・ウィング号」、平日朝に「モーニング・ウィング号」を運行しており、快特も一部列車の2号車を座席指定車両としている。つまり、指定席車両を運行した実績がある。そうなると、京急電鉄の「新たな輸送サービス」は羽田空港方面の有料特急ではないか。

京急電鉄は品川・高輪エリアの再開発にともない、品川駅を地上に移設し、2面4線(ホーム2面、線路4本)化する。現在は2面3線だから、線路が1本増え、列車の発着回数を増やせる。あわせて泉岳寺駅でホームを拡幅し、羽田空港駅で引上げ線を設置して折返し列車の平面交差を解消する。これらの改良工事を経て、京急電鉄は品川~羽田空港間で増発を検討している。

ここに「新たな輸送サービス」として、羽田空港行の「新型有料特急」が含まれるのではないか。現在は通勤電車そのままの車両だから、大きな荷物を持ち込まれると肩身が狭い。空港行のバスにも劣る部分といえる。荷物スペースがあり、確実に座れる列車が羽田空港方面に欲しい。JR東日本が建設を進める「羽田空港アクセス線(仮称)」も着席需要を開拓するため、有料指定席列車を投入すると筆者は予想する。

現在、羽田空港方面の軌道系アクセスは着席保証がない。これは羽田空港と成田空港の競争力にも影響する。羽田空港が国際化し、成田空港に国内線LCCが発着するなど、両空港の役割は近づいている。筆者も都内在住の友人から、「羽田空港も成田空港も同じ目的地に向かう航空便があるなら、確実に座って行ける成田空港にしよう」という話を聞いた。

もし京急電鉄に指定席のある有料特急列車があれば、羽田空港アクセス路線をめぐる京急電鉄、JR東日本、東京モノレール、リムジンバスの競争で優位に立てる。しかも成田空港に対して羽田空港を優位にする列車でもある。成田空港と羽田空港を直結する有料特急列車が成功し、実績を積み上げれば、「都心直結線」の再起動につながるかもしれない。

「都心直結線」は2000年の運輸政策審議会答申第18号において、「都営浅草線の東京駅支線と浅草橋駅の追い越し設備」として掲載された路線がルーツ。2009年5月の「首都圏空港(成田・羽田)における国際航空機能拡充プランの具体化方策についての懇談会」で、「押上~新東京(仮・東京駅付近)~泉岳寺」を結ぶルートとなった。当時、成田空港は国際線、羽田空港は国内線と役割分担されていたため、2つの空港を乗り継ぐ需要はあった。

しかし、2009年10月に羽田空港の再国際化が決定し、成田空港に国内線LCCが発着するようになると、両空港とも国際線と国内線を持つことになったため、乗り継ぐ需要が減る。2016年の「交通政策審議会答申第198号」では、「国際競争力の強化に資する鉄道ネットワークのプロジェクト」と定義されていたが、いまのところ動きがない。泉岳寺駅付近に高輪ゲートウェイシティが開業するなど、新たな需要も増えているから、「都心直結線」も再起動しそうに思える。泉岳寺駅を発着する成田空港行と羽田空港行の新型特急に期待したい。

沿線の人々や株主への配慮も

共同検討項目として、他に「観光拠点の相互送客」「株主優待の相互利用」がある。空港アクセス列車は沿線外の乗客が多く、沿線の人々や株主への恩恵が少ない。そこで、沿線の人々や株主に新たなサービスを提供し、沿線に住む価値を高める必要がある。

「観光拠点の相互送客」は、沿線の人々に新たな楽しみを提供する。京成沿線の人々にとって京急沿線が新たな「仮想沿線」、京急沿線の人々にとっても京成沿線が「仮想沿線」となる。第1弾として、両社沿線の神社仏閣を巡るスタンプラリーを開催予定だという。

「株主優待の相互利用」は、京成電鉄の株主が京急沿線で、京急電鉄の株主が京成沿線で割引などの特典を得られるしくみ。京成電鉄の株主優待乗車証で「京浜急行電鉄みさきまぐろきっぷ」、京急電鉄の株主優待乗車証で「京成電鉄 成田開運きっぷ」を交換できる。

京成電鉄の株主で一定条件に達すると提供される「株主ご優待券」が、京急ストアやもとまちユニオンでも使える。京急電鉄の株主で一定条件に達すると提供される「お買い物50円割引券」が、リブレ京成の各店舗でも使えるようになる。

この2つの特典を得られる人は、京成電鉄または京急電鉄の沿線に住み、なおかつ京成電鉄か京急電鉄、あるいは両社の株を持っている人となるだろう。組み合わせれば、沿線に住み、特典を活用する人は投機目的ではなく、株を手放しにくい。つまり、安定株主を増やしたいという考え方がある。

鉄道の共通化、観光連携、株主優待の連携となると、その先に合併や持株会社の設立もあるだろうか。鉄道会社は資産、業績、社会的貢献度に対して株価が低く、乗っ取り騒ぎがたびたび起きている。「京成京急ホールディングス」を設立して、電鉄を100%子会社とすれば、鉄道に無理解な株主からの理不尽な要求に対する防衛策となり、安心して沿線価値向上に注力できるはず。もっとも、いまの段階では妄想がすぎるかもしれない。