「その後」の新撮パートでは今年5月、廣中さんの七回忌で集まった“卒業生”たちが登場。「同窓会みたいな朗らかな雰囲気でした。みんな30代になって本当に立派になって、それぞれの道で頑張っていて、いい大人になっていました」と目を細める。

そんな彼らに共通して感じたのは、“自信を持って生きている”姿。

「みんな口々に“おじさんのおかげで今の自分がある”と言うんです。子どもの頃は、廣中さんに言われて分からなかったことが多くても、大人になって“こういうことだったんだ”とひしひしと感じているようでした。今の若い人はコミュニケーション力が低いと言われることもありますが、あのお寺で集団生活をしていた子たちは、相手の気持ちがよく分かって、コミュニケーション力がものすごく高いので、それが仕事や人間関係に役立っているのだと思います」

現在中学1年生の子どもを育てる八木Dは「当時の親御さんの苦悩が、よく分かるようになりました」と共感が増し、廣中さんが言っていた「すごく愛情深い親でも、子どもに全然伝わってないケースが多いんだよ」という言葉を胸に刻んでいるという。

「自分が愛情を持って接しているつもりでも、子どもには響かなかったり、分からなかったりすることがあるのだと知って、ちゃんと言葉に出して“大好きだよ”と言うようにしています。中学生になったので頻度は減りましたが、ハグをしたりスキンシップを取ることも、廣中さんの教えとして大事にしています」

  • 学校で担任と面談したショウ(右)と廣中さん (C)フジテレビ

    学校で担任と面談したショウ(右)と廣中さん (C)フジテレビ

『ザ・ノンフィクション』は制作者にとって「すごく自由」

密着取材にあたって、廣中さんから「ありのままを伝えてほしい」と要望されていた八木D。その覚悟の言葉は、以降のディレクター人生にも影響を及ぼした。

「取材を受けてくれる人たちは、テレビに映ることでいろんなリスクを背負うことになるけど、それでも受けてくれるので、こちらもそれに応えなければいけないという思いを強くしました。時には、“今日は取材に行かなくてもいいかな…”とサボりそうになることもあるのですが、どんな些細な話題でも足を運んでみる。そこで何も起こらないこともあるけど、何かを見つけられたらいい。そうやって手を抜かない気持ちは、廣中さんの取材を通して改めて学んだことだと思います」

30周年を迎えた『ザ・ノンフィクション』で、「熱血和尚」シリーズのほかに、「愛はみえる~全盲夫婦の“たからもの”~」「わ・す・れ・な・い 明日に向かって~運命の少年~」「私、生きてもいいですか ~心臓移植を待つ夫婦の1000日~」「わすれない 僕らが歩んだ震災の10年」「泣かないでアコーディオン ~シングルマザーの大道芸人~」、そして「婚活漂流記」シリーズなど、数多くの作品を手がけてきた八木D。他のドキュメンタリー番組と違って、「すごく自由に作らせてもらっています」と、その特色を感じている。

多くのドキュメンタリー番組が、取材対象を決めると、ある程度のゴールを想定し、そこを目指して踏襲するように取材するケースが多い中、『ザ・ノンフィクション』の場合は「“どうなるか分からないけど、とりあえず走ってみよう”というスタートの切り方をするんです」と大きな違いが。

制作者としては、「プレッシャーがすごくあるし、話が全然動かない停滞期もあるので、すごく苦しいし、孤独になります」と本音を漏らすが、「こちらが全く想定していないことが起きたり、“こんな終わり方!?”という結末に立ち会うこともあるので、そこが面白いなと思います」と、醍醐味を語る。

今回の「熱血和尚」シリーズや、女性の心を読み取れずに苦悩しながら婚活に奮闘する男性たちの姿が大きな話題を呼んだ「結婚したい彼と彼女の場合 ~令和の婚活漂流記2024~」などは、その最たる例。「“まさかこんなことが起きるなんて!”というところに巡り合う率が、『ザ・ノンフィクション』は非常に高いです」と明かしてくれた。

●八木里美
1977年生まれ、東京都出身。学習院大学卒業後、青森朝日放送でニュースキャスター・記者・ディレクターとして取材現場に従事し、テレビ朝日『スーパーJチャンネル』を経て、04年にバンエイト入社。フジテレビ報道局で『スーパーニュース』を担当し、11年からは制作部でドキュメンタリー番組などを制作。『ザ・ノンフィクション』では、「愛はみえる~全盲夫婦の“たからもの”~」「わ・す・れ・な・い 明日に向かって~運命の少年~」「私、生きてもいいですか ~心臓移植を待つ夫婦の1000日~」「わすれない 僕らが歩んだ震災の10年」「泣かないでアコーディオン ~シングルマザーの大道芸人~」、そして「婚活漂流記」シリーズなどを担当し、12年にわたって取材した「熱血和尚」シリーズでは、「第36回ATP賞」グランプリ、「2020年日本民間放送連盟賞」テレビ教養番組部門・最優秀賞、「第57回ギャラクシー賞」奨励賞、「ニューヨークフェスティバル2020」ドキュメンタリー宗教/哲学部門・銀賞&国連グローバルコミュニケーション賞・銅賞と、国内外で数々の賞を受賞した。