フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00~ ※関東ローカル)が、1995年10月の番組スタートから30周年を迎えた。これを記念して、話題を集めた作品と「その後」の物語を、5週連続で放送する。

19日に放送される第3弾は、家庭に居場所を失った少年少女たちと、彼らを支え続けた“熱血和尚”廣中邦充さんの交流を追った「おじさん、ありがとう~ショウとタクマと熱血和尚~」(2019年放送)。多くの人にとって遠い世界の話のようだが、ナレーションを担当した森川葵はどのように受け止めたのか――。

  • 『ザ・ノンフィクション』のナレーションを担当した森川葵

    『ザ・ノンフィクション』のナレーションを担当した森川葵

がんに冒されても子どもたちに手を差し伸べ続ける

愛知県岡崎市の山あいにある小さな寺は「平成の駆け込み寺」と呼ばれ、非行や虐待、いじめ、薬物依存などで親元を離れた子どもたちの「居場所」になっていた。

非行グループに属していたショウは、バイクの窃盗を繰り返し、13歳にして少年鑑別所に送致される寸前だった。兄貴分のタクマもまた「九州の中学生ヤクザ」と異名を取るほどの問題児だ。

そんな2人を受け入れたのが、住職の廣中邦充さん。子どもたちに「おじさん」と慕われ、時に叱り、時に抱きしめながら、父親のように寄り添い続けた。一方、廣中さんの体はがんに冒され、脳への転移が判明。命と向き合いながら、最後まで子どもたちに手を差し伸べ続けた。

大きな反響を呼んだ放送から6年、寺ではおじさんの七回忌が行われた。かつて熱血和尚に救われたショウとタクマ、寺で過ごした子どもたちの「その後」が描かれる。

  • (左から)廣中邦充さん、ショウ (C)フジテレビ

    (左から)廣中邦充さん、ショウ (C)フジテレビ

連ドラに達人技…「やるしかない、頑張るしかない、乗り切るしかない」

民放連賞テレビ教養部門・最優秀賞、ATP賞・テレビグランプリ、ニューヨークフェスティバル・銀賞など、国の内外で数々の賞を受賞し、『ザ・ノンフィクション』歴代最多受賞作である「熱血和尚」シリーズ。家庭内の問題など様々な事情を抱える子どもたちが集まるという、一見、遠い世界の話だが、森川は共感を覚えるドキュメンタリーであることが評価になったと考える。

「親に対して、友達に対して、思いをぶつけたいのにぶつけられなかった人が、実は多いと思うんです。だからこそ、番組に出てくる子どもたちが、ちゃんと気持ちをぶつけたり、怒ってもらえたりする愛を見て、“うらやましいな”とか“ここまで抱えていたんだ”と思える。きっとそれぞれに感じ方は違うと思いますが、どこかに自分を重ね合わせるようなところがあるのではないかという気がします」

子どもたちやその親に対して、「逃げるなー!」と説き続けていた廣中さん。森川はそこにも共感する部分があるそうで、「元々プレッシャーが好きなわけでもないし、立ち向かっていくタイプではないんです。だからこそ、自分で決めたことは最後まで逃げずにやり切るということは、大事にしています」と語る。

9月まで放送された主演ドラマ『スティンガース 警視庁おとり捜査検証室』(フジテレビ)は、事件説明の長ゼリフも多く、制作発表会見では「もう信じられないくらい、いっぱいしゃべってるんです。ちょっともう人間やめたいです(笑)」と苦労を漏らしていたが、最後まで「何とか乗り切りました(笑)」と充実の表情を見せた。

森川と言えば、バラエティ番組で数々の達人に弟子入りし、驚異的なスピードで技を習得してきたことで有名だが、そこでも「期待してもらっている気持ちがすごく分かったので、“今は自分にしかできない、やるしかない、頑張るしかない、乗り切るしかない”と思いながらやっていました」と、逃げずに向き合った先に偉業の達成があったのだ。