The Ghost Insideが語るレジリエンスの形 喪失の中に鳴る再生の音

10月13日に開催されたLOUD PARK 25。熱気が渦巻く会場で、The Ghost Inside(ザ・ゴースト・インサイド)のメンバーに本番直前のバックステージで話を聞いた。取材中も笑いが絶えず、ドラムのアンドリュー(・トゥカチック)が義足を手にして冗談を飛ばすなど、和やかで前向きな空気に包まれていたのが印象的だ。ステージでは一転、重厚な響きの中に鋭さとグルーヴを兼ね備えたアンサンブルが躍動し、観客を圧倒した。

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ーステージはこれからですが、久しぶり(12年ぶり)に日本に来てみて、今どんな気分ですか?

ジョナサン・ヴィジル(Vo):すごくワクワクしているよ。あの事故から復帰して、いろんな国でまた演奏してきたけれど、日本は「いつか必ず戻りたい」と思い続けながら、なかなか機会がなかった場所なんだ。今回フェスからオファーをもらって、本当にここに来られて嬉しい。

ジム・ライリー(Ba):素晴らしい機会だと思う。日本は、もう戻って来られないかもしれないと思っていた場所だったからね。過去に2回来ていて、そのたびに、アメリカのバンドとしては本当にユニークな体験をしていると感じた。ヨーロッパをツアーしても街の標識は読めるし、これから行くオーストラリアなんてレストランのメニューも英語だ。でも日本は、まさに”誰かの家に招かれている”ような感覚になる。本当に異文化の中にいる観光客でありながら、同時にショーもできる――その感じが楽しいんだ。

ー先日オンラインインタビューでジョナサンにバンドに関する話を聞きましたが、今回はまず皆さんの”ルーツ”について話を聞かせてください。皆さんのホームタウンはどんな場所ですか? どんな音楽的経験をしてきましたか?

ジョナサン:バンドはロサンゼルスで始まったけれど、いまはメンバーそれぞれ違う地域に住んでいて、音楽的な体験もけっこう違う。僕は運よく、LAにあるティーンセンター(ユースセンター)が地元バンドのライブを企画してくれていて、ツアー・アーティストが来ることもあった。金曜の夜に3ドルで観られて、家から歩いて行ける距離。そうやってライブに触れたのが、シーンに入っていく入口だったね(※現在はメンバーのうち4人がラスベガスに住んでいるそう)。

ザック・ジョンソン(Gt):僕はアイオワで育った。アンドリューも中西部の出身だよ。あの辺りにはスリップノットという大きな存在がいて、果てしなく広いトウモロコシ畑の先へ、ヘヴィ・ミュージックを通して抜け出していく――そんな夢を見ていた。そうして僕たちは、重い音を介して互いに出会っていったんだ。

クリス・デイヴィス(Gt):僕はメリーランドで育って、いまも住んでいる。ジョナサンの育った場所とは国の反対側で、よりカントリー寄りの地域。農場が多くて、街としては静かなところだ。メリーランドは、少なくとも大きな規模で言えばヘヴィ・ミュージックの土地ではない。ビッグなロック/メタルの出身バンドは多くないんだ。でも、アンダーグラウンド・シーンはしっかりあった。年上の友達が”弟分”として僕をショーに連れて行ってくれて、10代前半でまったく別世界が開けた。そこからこの”お調子者たち”に行き着いたってわけ(笑)。

アンドリュー:僕も中西部、ミシガンの出身。寒さから逃げて、いまはラスベガスで快適に暮らしてる(笑)。育った頃は、友達と一緒に自分たちでシーンを作っていた。高校時代に自分たちでショーをブッキングして、週末は住んでいる地域の周辺の都市でライブ。そこから口コミで広がって、ミシガン各地、イリノイ、インディアナ、オハイオへと繋がっていった。出自はつつましい”ブルーカラー・タウン”。すべてはそこから始まって、最終的にここにいるこの面々と出会った。

ジム:僕はボストン出身。僕たち、今のバンドになる前のそれぞれのバンドで繋がっていったんだ。自分たちでショーを組んでローカル・バンドとして演奏してね。ジョナサンの昔のバンドがミニバンでツアーして、うちの地元の会場で演奏した時に「君らのやってること、いいね」って声を掛けた。で、僕のバンドが初めてカリフォルニアに行った時は、彼らの旧バンドがショーを組んでくれた。MySpace全盛の時代に、お互い自分でブッキングして助け合って――少なくとも僕たち4人は、そうやって交差してきた。ジョナサンが一時期ザックのバンドで歌ってたこともあるしね。クリスのことも昔から知ってはいたけど、彼は別の地域でツアーしていたから、直接の絡みは少し後になってから。要するに、ローカル・バンドとDIYの積み重ねで全部が育っていった。限界に達したかなと思うたびに、次の”大きな波”が来る。どんどん大きくなっていく。本当に驚くばかりだよ。

ー音楽以外の道を選んでいたとしたら、いま何をしていたと思いますか?

ジム:数学教師、かな。

ジョナサン:僕には”別プラン”はなかった。父もミュージシャンで、良くも悪くもずっと音楽をやりたいだけだった。だからバックアップ・プランは持たなかったし、今も持っていない。だから、こうしてここにいる。

クリス:まったく同じ答えだよ、100%ね。もし10代の早い時期に聞かれていたら「野球」って言ってたかも。でもすぐに自分がそこまで上手くないと気づいた(笑)。それで音楽だ、と決めた。もしバンドをやれていなかったら、どこかのバンドのテックでもよかった。どんな形であれ、音楽で生きるのが目標だったから。

ジョナサン:ブレイクダウンの方が、野球より簡単だしね(笑)。――そういえば東京ドームのジャイアンツ・ストアに行った? 帽子、ちょっと欲しいな。

ザック:高校の時に少し日本語を勉強してたんだ。Nihongo de benkyō shimashita. もしバンドをやってなかったら、もっと日本語を学んで、通訳をしていたかもしれない。実際、通訳になった友人もいる。でも15歳でツアーに出て、”もう元には戻れない”ってやつさ(笑)。それからずっと、良い意味で”病みつき”だよ。

大事なのは、”僕らがどれだけ共感可能で、正直でいられるか”という点だ

ー(ジョナサンに)あなたは「Cityscapes」を「父親を亡くした日の曲」とおっしゃっていましたが、この曲を、”孤独”や”痛み”を抱えたときに聴くなら、どの一行やフレーズを残したいですか?

ジョナサン:一番大きいと思うのは、〈And Ill see you again in the next life.〉(来世でまた会おう)という一行だ。父はもうここにはいないし、誰もが愛する人を失う。いつか自分も、また父と一緒になれる――そう信じている。この曲の音の土台(インストゥルメント)はアンドリューが書いた。彼が鼻歌でメロディを口ずさんでいて、その瞬間に”あの日”のこと――訃報を知った瞬間の感覚が一気に蘇って、歌詞を書いた。僕にとっては明らかにセラピーだったと思うし、この曲から多くの人が何かを受け取ってくれたらいいなと思う。

ー2015年にツアーバスが大型トラックと正面衝突するという悲劇からの復帰は、まさに”レジリエンス”の教科書だと思います。挫折や失敗に直面した人へ、最初の”一歩目”として何を勧めますか?

ジョナサン:まず、自分が”まだ生きている”という事実をしっかり受け止めること。そして状況は必ず良くなると信じること。何もかも失ってしまったと感じる時は、どうしても”どん底”ばかりに目が向く。でも、人生は波だ。上があれば下がある。下を経験してこそ、上の時のありがたみが分かる。今が最悪でも、いずれ良くなる。そのときに、今の悲しみや痛みや怒りが、むしろ”良い時間”を駆動させる燃料になる。

アンドリュー:もう一つ大事なのは、助けを求めることを”良し”とすること。心身ともにね。人生を変えてしまうほどの出来事を、自分のやり方だけで乗り切りたい――そう思うのは分かる。でも、以前とまったく同じにはならないし、支援を受けてもいいんだ。不可能に思える瞬間は何度も来る。だけど、それでも不可能じゃない。ジョナサンが言ったように「良くなる」のと同じで、「もっと悪くもなり得た」ことも忘れたくない。僕は事故で脚を失ったが、半年後に医師から「あと1インチ(約2.5cm)ズレていたら、胸から下が麻痺していた」と聞かされた。だから、感謝と忍耐を忘れず、助けを受け入れること――それが本当に大切だと思う。

ー『Searching for Solace』(2024年)では、クリーンの比重を上げた曲やバラード寄りの楽曲まで、音楽的な幅が広がりましたよね。「重さ」と「歌」のバランスで伝えたいことは?

ジム:セルフタイトル作(2020年)を書いたとき、僕らは”安全で、ファンにとって親しみのある”手触りを意識した。完成してみると、自分たちがいかに安全運転で書いたかも分かった。それで今回は、自分たちが聴いていて楽しい/演奏して楽しいレコードにしたかった。僕らは長いあいだ曲を書いてきて、バラードも好きだし、ヘヴィな曲も好き、いわゆるメタルコア的なクリーン・シンギングも好き。だから、自分たちが”楽しい/気持ちいい”と感じられるなら、それはThe Ghost Insideの曲だと考えた。それに2020年以降、パンデミックや世界で起きたことを経て、感謝すべきこともあれば、暗い時間もあった。その”光と影”、”ヘヴィとソフト”の同居は、制作の2年間に僕らが実際に生きていた感覚でもある。だからアルバムには、その振れ幅が色濃く刻まれているんだ。

ーハードコアは”怒り”を体現した音楽でもあると思うんですけど、あなたたちが最近、強く怒りを感じていて、曲にしたい社会的/個人的トピックはありますか?

ジョナサン:ハードコアの核にあるのは”正直さ(Honesty)”だと思う。人間は感情のフルレンジを抱えている。ニュースを見れば、アメリカでは特に、腹が立つことばかりだ。今すぐ書きたい”特定のテーマ”があるわけではないけれど、インスピレーションが降りてくる瞬間はある。あるトピックに関する言葉をメモすることもあるし、それが怒りや苛立ちに寄ることだってある。大事なのは、”僕らがどれだけ共感可能で、正直でいられるか”という点。怒ってもいい、悲しくてもいい、ハッピーでも感謝していてもいい――それが人間だ。みんな同じ感情しか持てないなら、僕らはロボットになってしまう。だから、今この瞬間に”絶対書くべきテーマ”がなくても、もし胸をえぐる出来事が起きたら、ためらわずに書くつもりだ。

ーTHE GHOST INSIDEが、LOUD PARKのようなアリーナクラスの音楽イベントを開催するとしたら、どんなバンドやアーティストに声をかけますか?

クリス:まずメタリカ。彼らはいつだって欠かせない

ジム:僕ら全員、デフトーンズで育って、去年も観に行った。フランスのGojiraは僕らと同世代くらいで、いま大きな瞬間を迎えている。オリンピックでも演奏したしね。それから僕らの世代のArchitects、Bad Omens、Sleep Tokenみたいな、いま快進撃中のバンドたち。彼らを友達と呼べるのは幸運だよ。

アンドリュー:今日一緒のParkway Driveは本当に凄いライブ・バンドで、もう長い付き合いだ。たぶん20か国で彼らと共演してる。彼らは”僕らの、背が高くてスリムで、見た目も体つきも整った、お兄ちゃんたち”(笑)。あらゆる意味で僕らの”より良いバージョン”みたいな存在だね。Were Porkway、なんて自虐も言いたくなるくらいさ(笑)。