テレビ画面を注視していたかどうかが分かる視聴データを独自に取得・分析するREVISIOでは、5日に放送されたNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(総合 毎週日曜20:00~ ほか)の第38話「地本問屋仲間事之始」の視聴分析をまとめた。

  • 『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第38話より (C)NHK

    『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第38話より (C)NHK

「分かった! 分かった! 何をすればよいのだ?」

最も注目されたのは20時27~28分で、注目度75.5%。蔦重(横浜流星)が長谷川平蔵(中村隼人)を篭絡しようと接待するシーンだ。

蔦重は平蔵を抱き込むため吉原に招待するが、平蔵は警戒心をあらわにしている。賄賂代わりのもてなしは受け取れないと釘を刺す平蔵に、蔦重は人足寄場を任され忙しい平蔵をなぐさめたいだけだと、涼しい顔でさらりと返す。蔦重と女郎に囲まれた平蔵は、杯いっぱいに注がれた酒を一気にあおった。「やはり吉原はよいのう」平蔵は根っからの遊び人である。酒が入るといくぶんか気を緩めた。

そこに駿河屋市右衛門(高橋克実)が、はま(中島瑠菜)ときく(かたせ梨乃)を伴って姿を現した。きくは挨拶を済ませると懐から50両を取り出し平蔵へ差し出す。賄賂なら受け取れないとかたくなに拒否する平蔵に、蔦重はこれは賄賂ではなく返金だと説明する。かつて花の井(小芝風花)への入銀として平蔵が出した50両を、実は河岸の貧しい女郎たちを救うために使ったと蔦重は打ち明けた。事実を知った平蔵は怒りもせず、逆に自分の金蔵を空にした花の井を称賛した。

さらに蔦重は、利息だと前置きして50両を取り出す。それを見た平蔵は「利息はこれしきか」と冗談交じりに返すと、奥に控えていた市右衛門がせきばらいをして懐に手を入れる。平蔵は「冗談だ冗談!」と市右衛門を制するが、市右衛門は平蔵ににじり寄り、「長谷川様。どうかもう1度吉原を救ってくださいませんでしょうか?」と平伏した。河岸の窮状と黄表紙、錦絵、細見の抱える危機を訴える。蔦重も説得に加わり、女郎たちもそろって頭を下げると、「分かった! 分かった! 何をすればよいのだ?」と平蔵はとうとう根負けしてしまった。「へえ。越中守様から、ある言葉を引き出していただきたいのでございます」待ってましたとばかりに目を輝かせる蔦重は、早速話を切り出した。

  • 『べらぼう』第38話の毎分注視データ推移

    『べらぼう』第38話の毎分注視データ推移

「序盤の伏線の回収の仕方が見事だったね」

注目された理由は、不本意ながらも吉原のために一肌脱いだ平蔵に、視聴者の注目が集まったと考えられる。

吉原へ招待された平蔵は、松平定信(井上祐貴)から町奉行の座をちらつかされていることもあり、警戒心MAXだった。しかしかつては「本所の銕」と呼ばれるほどの放蕩生活を送っていただけあって、1杯の酒であっという間に警戒を緩める。また、若いころに騙されたことを知っても恨み言ひとつ言わないどころか、花の井をベタ褒めする姿は実に粋だった。

定信に近い平蔵は、今回の蔦重の計画には必要だった。頼まれると断れない平蔵。さすがである。SNSでは「平蔵って、色男ぶって吉原でカモられたりもしたけれど、誰も手をあげなかった打ちこわしの鎮圧をしたり、押し付けられた人足寄場もちゃんと結果を残しているのがすごいよね」「序盤の伏線の回収の仕方が見事だったね」「だまされたことを知ったのに、怒るどころか感心して見せるの、ほんとにいい男だよな」と、平蔵の男っぷりに称賛が集まった。

『べらぼう』随一の愛されキャラである平蔵だが、作中の1790(寛政2)年は火付盗賊改方として大活躍している。時代劇ファンには『鬼平犯科帳』の「鬼平」としておなじみだ。定信の側近の1人・水野為長の残した『よしの冊子』によると、抜てきされた平蔵に他の旗本たちはかなりの不満があったと記されている。一方、市民からは「本所の平蔵さま」「今大岡」と非常に親しまれていた。シゴデキ男はいつの世も職場では嫉妬されるようだ。

定信が平蔵に管理を命じた人足寄場は、江戸幕府が1790(寛政2)年に石川島(現在の東京都中央区佃)に設置した更生・自立支援施設。戸籍を持たない無宿人や刑期を終えた者に職業訓練を施し、社会復帰を促す目的で設立された。単なる懲罰ではなく、職業訓練・教育・情操育成を通じて再犯防止を図る仕組みは、現代の刑務所制度の源流ともいわれている。

寄場には複数棟の建物、浴場、病室などが設けられ、収容者は数年程度在所し、大工、塗師、藁細工、紙漉きなどの手業や川さらえ、油絞り、土木普請などの人力作業に従事させられる。 作業に対して賃金が支払われるが、その一部は天引きして在所中に積み立てられ、出所時に支給される仕組みが採られた。また、教化・道徳教育的として心学や講話を導入し、人としての教育も行われた。収容者のうち引受人が見つかる者はその時点で引き渡され、また積立金の水準に達すれば出所が許されるという柔軟な制度も含まれていた。後年には石川島だけでなく、常陸や長崎・箱館などにも類似施設が設けられた例が知られている。

そして平蔵に謝罪した二文字屋の女将・はまにも注目が集まっている。第1話「ありがた山の寒がらす」で、蔦重と花の井の恩人・朝顔(愛希れいか)に命を救われた女郎・ちどりの成長した姿だ。思いがけない再登場にネットで話題となった。