朝のヴェルサイユで旧車は目を覚ます|AVAVA月例ミーティング

AVAVA(Association Versaillaise des Amateurs de Voitures Anciennes/ヴェルサイユ旧車会)の定例ミーティングを訪れた。ここは、いつも紹介しているヴァンセンヌ旧車会とパリを挟んで反対側。大所帯のヴァンセンヌに対し、AVAVAはヴェルサイユとその周辺のオーナーが中心のローカルクラブで、毎月の集まりと時折のラリーが柱だ。もっとも舞台はヴェルサイユ。宮廷の街らしく、並ぶ顔ぶれは少しラグジュアリー寄りに振れる。

【画像】宮廷の街、ヴェルサイユに早朝から集う美しいクラシックカー(写真30点)

フランスは10月いっぱいサマータイムが続く。朝7時はまだ薄暗く、今年は9月半ばから一気に冷え込んで息も白い。夜の名残が残るサン=ルイ教会前に、ようやく朝日が差し始めた。

最初に基音をつくるのはフランス勢だ。

A106はシャッペ&ジェサラン製FRPの薄い鳴りが生きていて、4CV系の小排気量でも身のこなしが軽い。隣のA110はツインチョークの吸気がはっきり返り、リア荷重の立ち上がりがいかにもアルピーヌらしい。203と404はピニンの面の張りが今日も端正、そして205 GTIは1.9のアイドルからして金属的に締まっている。マトラは530LXとムレーナの対比が面白い。タルガと”横3座”、発想の自由度がそのままプロダクトの魅力になっているし、ムレーナの全面亜鉛処理フレームは80年代フランス車の中でも防錆思想が一段抜けている。

英国列は低く、密度がある。

オースチン=ヒーレー100の低いスクリーンとワイヤー、3000のコクピットにはモトリタのステアリングホイールとスミス製の計器類が並ぶ。トライアンフ2000ロードスターは木骨+合板+アルミの積層が戦後の材料事情を語り、ディッキーシートの小さなスクリーンまで現役だ。サルーンでは Mark VIIが初期XK3.4を載せ、当初のモス4速から5速化されて巡航が軽い。ロールス・ロイスのシルバーシャドウは同社初のモノコックと自動レベリング油圧を備え、隣のベントレー・ミュルザンヌはキャブ期の6.75リッターがトルクの厚い走りを体感できる。

ドイツは仕立ての妙。

ピエトロ・フルアの造形をまとうBMW 1600GTは本来グラス1700GTに端を発し、BMWへの移行でM10と1600Ti系の吸排気、BMW式リアアクスルへ置換された”メカの交配”が効く。E21/E30の3シリーズ、そしてS14を積むE30 M3まで一列に並ぶと、プロポーションの純度が際立つ。メルセデスはW108とW201が”威厳”と”理性”の対比を作る。極めつけはブラジル籍のVWで、南米仕様らしい補器の取り回しと点火強化、容量を稼いだ冷却系まで抜かりないレストモッドだった。

ライトウェイトの彩りは英国から。

ジネッタ G15はインプ由来の小排気量でも、バックボーン×FRPの軽さで充分に速い。会場の”顔”はジャガー Cタイプ。細身のアルミにサイドの抜け、ワイヤーが揃えば、オリジナルか否かにかかわらず空気が一変する。

そして濃縮のV12が遅れて到着した。

ハラマ S。固定4灯と強いエッジ、短いホイールベースに 3.9リッターDOHC V12と6連ウェーバー――”詰め込み型”の2+2だ。Sではパワステ/ブレーキ/内装がリファインされ、カンパニョーロのマグと中央寄り対向式ワイパーが年代のツボを押さえる。スターターが止む瞬間、周囲のレンズが一斉に向きを変えた。ここがヴェルサイユであることを思い出させる到着シーンだった。

AVAVAの良さは、ラグジュアリーと日常、競技と通勤が同じ温度で並ぶことだ。大編成のヴァンセンヌと違い、ここはオーナー同士の距離が近い。スタッフの誘導は穏やかで、ボンネットが開けば誰かが工具と経験を持って寄ってくる。選別ではなく共有へ。クラブ名の”Amateurs(愛好家)”が看板倒れでないことは、朝の広場に立てばすぐにわかる。

写真・文:櫻井朋成 Photography and Words: Tomonari SAKURAI